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浜口倫太郎 作家
2024年9月25日 16:44
「少しは眠れてますか?」「ぜんぜんですね」 医師と翔太は、毎度のやりとりを重ねた。 翔太は不眠症だった。 十歳の頃から眠れなくなった。ベッドに入っても一睡もできず、まどろみすら訪れなかった。 両親が心配して病院に連れてきた。脳波などあらゆるデータをとったが、原因は不明だった。 ただ翔太は、まるで気にならなかった。眠気がないだけで、体に不調は一切ない。人が寝ている間も起きていられる。
2024年9月24日 17:02
「えっ、すごい。全部あたってます」 理香は、占い師に占ってもらった。よくあたると評判で、友達が紹介してくれた。 性格や悩み、過去にこんなことがあったなど、まるで見てきたのかと思うほどズバズあてられた。 占い師が微笑んだ。「ありがとうございます」「素晴らしい才能ですね」「才能というよりも、断固たる決意ですね」「決意ですか?」「ええ、私の占いは必ずあたる。そう心の底から信じて占うこと
2024年9月23日 16:35
「6月29日、サプライズパーティーね」 えっ、と美奈子は急いで身を隠した。廊下で小百合達が話しているのを、偶然聞いてしまった。 6月29日は美奈子の誕生日だ。小百合が企画したのだろう。「もうっ、だったらバレないように気をつけてよ」 美香子は知らない演技を続ける必要がある。面倒だなと思いつつも、顔がにやけた。 ただその日が迫ってきても、誰も誘ってこない。フェイクのイベントで、美奈子を誘
2024年9月22日 16:50
「犬の骨折の治療費が四十万円! てめえふざけてんのか」 動物病院で、男が怒鳴り声を上げた。 ベッドの上では、犬が苦しそうにうめいていた。 男は誤ってペットを床に落とし、犬は骨折してしまった。「犬だぞ、犬! 人間様の治療費だったらまだ納得できっけどよ、犬の骨折で四十万円だと! ぼったくりか」 獣医が困り顔で説明する。「ペット保険の加入もなしで複雑骨折ですので、それが正規の料金です」
2024年9月21日 16:54
「文字など使ってはバカになる」 古代ギリシアの哲学者・ソクラテスは大いに嘆いた。 文字に頼れば人間は覚える必要がなくなる。だから記憶力は衰える。ソクラテスはそう考えていた。「未来はそんな騒ぎではありませんよ」 そこに未来人だと名乗る、裕太があらわれた。 ソクラテスは得意の問答法で、彼が未来人だと認めた。 裕太は、ソクラテスを未来に連れてきた。まずは彼に書店を見せた。 ソクラテス
2024年9月20日 16:42
ロジャーにとって、ベンジャミンは憧れの人物だった。 ベンジャミンは実業家で、時価総額世界一の企業を経営していた。ロジャーは幼少の頃から、ベンジャミンを目指していた。 ロジャーは起業すると、すぐに結果を出した。 なぜならばロジャーは、どんな手段も使ったからだ。 脅迫、裏切り、暴力はお手のもの。非合法なビジネスにも手を染めた。表向きは新進気鋭の起業家だが、裏の顔はまっ黒だった。 ベン
2024年9月19日 16:49
高校生の貫太がタバコを捨てると、後ろで気配をした。 クラスメイトの健太郎が、その吸いがらを拾っていた。そのまま立ち去ろうとする姿が、貫太の神経を逆撫でした。「なんだ、てめえ。文句あんのか?」 健太郎は笑顔で否定する。「文句どころか、ありがとうって言いたいよ。徳を積ませてくれたんだから?」「徳? 何言ってやがんだ。坊さんみてえなこと言いやがって」「徳は実際にあるんだよ。人が嫌がる
2024年9月18日 16:46
「なぜだ。なぜプロになれないんだ」 男は、プロゴルファーを目指していた。だが何度プロテストに挑んでも合格できなかった。「もう死んだ方がましだ……」「おいらに任せてよ」 そこに天使があらわれ、男があわてふためいた。「嘘だって、死ぬのは嫌だ」「なんか勘違いしてるね。僕はゴルフの天使だよ。僕の力でホールインワンができるよ」 ホールインワンとは、一打目がカップインすることだ。「ほんと
2024年9月17日 17:06
瑛太は、フードデリバリーのバイトをしていた。 配達中、誰かに呼び止められた。「……私の声が聞こえる人はいないか」 瑛太は驚いた。その声は、瑛太の頭に直接響いているのだ。「なんだこれ?」「これはテレパシーだ。申し訳ないが何か食事を持って、この住所まで来て欲しい」 指定された場所は、普通のアパートの一室だった。そこに一人の男がいた。「私の名は、リムル。パトレス星の宇宙人だ」 瑛太
2024年9月16日 17:00
「親父……つまんねえ、人生だったな」 父親の遺影を見つめながら、敬一がつぶやいた。 今日は父親の葬式だった。敬一の父親は公務員で、酒もタバコもギャンブルも一切やらず、凪のような人生だった。 敬一はそんな父親が昔から嫌で、波瀾万丈な人生を送っていた。 参列者がやってきて、敬一は目を丸くした 彼は金髪のモヒカンで、顔中がピアスだらけだった。「このたびはご愁傷様です。お父様とは生前一緒に
2024年9月15日 16:55
どんなジャンルにも天才と呼ばれる人物がいる。 次郎は、まさにそんな天才の中の一人だった。業界で、天才の名を欲しいままにした。 ところが、彼がこの世界を止めると言い出した。 次郎の事務所の社長が引き止めたが、次郎の意志は固かった。「なぜ止めるのだ?」「私には最終目標があります。その前段階のために、この業界に入っただけです」「前段階? どういう意味だ」「例えば小説家は、前職は新聞
2024年9月14日 17:02
「じゃあ冷蔵庫の余りものでチャチャッと作るよ」 涼太がエプロンを身につけた。 今日は俺と小春で、涼太の家に遊びに来ていた。俺は小春に惚れていて、どうにか付き合いたかった。 その涼太の焼き飯は絶品だった。小春が絶賛する。「おいしい、これっ、本当に冷蔵庫の余りもので作ったの?」「そうだよ。俺、余りものでなんでも作れるんだ」 涼太が爽やかに笑った。 俺と小春で帰ると、小春が余韻に浸る
2024年9月13日 17:00
「おまえを笑わせるのはあきらめた」 太一がそう言い、「やっとか」と小太郎がうなだれた。 二人は九十歳を越えた老齢だが、子供の頃から太一は小太郎を笑わせようとした。だが太一はつまらなく、小太郎は一切笑わなかった。「生きていて笑わせるのはあきらめたが、面白い死に方をして笑わせてやる」「……おまえは何を言ってるんだ」「ココナッツヘッドって知っとるか?」「なんだそれは?」「ココナッツ、
2024年9月12日 16:44
「このままでは隕石が衝突し、多大な被害が予想されます」 科学者がそう説明すると、国王は苦い顔をした。「想定の被害者数はどれほどだ?」「国民の半数は死亡するかと……」 国王を含めた大臣達が、暗澹たる気持ちになった。「私に任せてください」 外から野太い声がした。全員が窓の外に顔を出し、首が折れそうなほど見上げた。 そこには大きな巨人がいた。「私ならばこの危機を救えます」 国王