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つまらない親父−たった1分で読める1分小説−

「親父……つまんねえ、人生だったな」

 父親の遺影を見つめながら、敬一がつぶやいた。

 今日は父親の葬式だった。敬一の父親は公務員で、酒もタバコもギャンブルも一切やらず、凪のような人生だった。
 敬一はそんな父親が昔から嫌で、波瀾万丈な人生を送っていた。

 参列者がやってきて、敬一は目を丸くした 彼は金髪のモヒカンで、顔中がピアスだらけだった。
「このたびはご愁傷様です。お父様とは生前一緒にパンクバンドを組んでいました」

 彼が沈痛な面持ちをする。親父がパンクバンドをやっていた……想像すらつかない。
 続けて相撲取りがあらわれた。横綱だ。

「お父様は大変相撲が強かった。何度も土俵の上に転がされました」
 親父が相撲? 横綱を相手に勝つ? 口喧嘩すらしなかったのに……。
 次の参列者を見て、敬一は仰天した。
 上半身は人間だが、下半身は馬。ケンタウロスだった。

「お父様が配達所の仕事を紹介してくれました」
 その後ろには、頭と目が大きく、手足がひょろっとした宇宙人がいた。
 敬一がびくびくと尋ねた。
「……あの父が何か?」
「お父様が私達の星を救ってくださったのです」
 宇宙人が、そっとハンカチで涙を拭う。

 その後も参列者はひっきりなしにやってきた。そして父親の死を全員が悼んでいた。
 みんなが父親の思い出話に華を咲かせる光景を見て、敬一はつぶやいた。

「親父の人生、おもろっ」



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