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「かんう」武村賢親

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琳琅 創刊号より、「かんう」です。  3人の視点が入れ替わり立ち替わりし、お互いの状況をまったくの別角度から、それぞれの背景をもとに物語を推し進めて行きます。
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2020年12月の記事一覧

琳琅 創刊号より、「かんう」武村賢親

琳琅 創刊号より、「かんう」武村賢親

小羽千尋の視点4

 事件の後、同僚を殺害して実の娘にも手を掛けた父の行いは大きくニュースで取り上げられた。真相を確かめようと昼夜訪ねてくる報道関係の人間も少なくなかったし、それを理由に交友を絶交されたことだってある。当時のわたしは精神科のある病院に入院していて、面会は基本、助けてくれたトッキー以外とは絶対にしなかった。引き取ってくれるという親戚と会うにも、アルバイト先へ面接に行くにも、トッキーに

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琳琅 創刊号より、「かんう」武村賢親

琳琅 創刊号より、「かんう」武村賢親

鴇田重喜の視点4

 JR線のプラットホームで、僕らは二本目の電車を待っていた。始発は結局逃してしまい、自動販売機で買った温かいココアを片手にホームドアに寄りかかる。体温を攫って行く風を避けるように、僕と小羽は身を寄せ合った。

「今度はさ。その先輩の個展、連れて行ってよ。わたしも自分の映っている写真見たい」

「わかった。次に展示する機会があったら連れて行くよ」

 彼女が僕の知らないところで父

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琳琅 創刊号より、「かんう」武村賢親

琳琅 創刊号より、「かんう」武村賢親

井塚義明の視点4

 流れていく早稲田通りを見送ると、トンネルに入った電車の窓におれの丸い顔が映った。眉間には皺が寄り、酒を飲んだ帰りだというのに頬頭はまったく赤味を帯びていない。

 明日も仕事があると言って逃げるように店を出て来たが、駅まで歩いて電車に乗っても、自分の言動の根拠に思い至らなかった。おれから伝えて欲しい、か。小羽はそんなこと一言も言っていないのに。最後、咄嗟に付け足してしまった言

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