見出し画像

オトコのメガネ考「サーモント・ブロー」編

 オトコのメガネ考 第一弾がことのほか好評をいただいたので第二弾をお送りしてみようと思う。一般的なメディアでは万人ウケするウェリントンやボストンを紹介するのが定石、というのは重々承知の上で紹介するのが「サーモント・ブロー」だ。

将軍の眉毛。サーモント・ブローとは?

 素材別にフレームをジャンル分けした場合、サーモント・ブローはコンビネーションにカテゴライズされる。レンズを支えるメタルリムの上部にプラスチックのパーツが眉毛=Eyebrowのように配置されているデザインを指しており、フロントシェイプが丸型や長方形であっても、このストラクチャーは基本的にサーモント・ブローと呼んで差し支えないだろう。

画像1

ケネディ大統領暗殺の陰謀を暴こうと奮闘したジム・ギャリソン検事の実話を元にした映画「JFK」でSHURON社のサーモント・ブローを着用したケヴィン・コスナー

 ではサーモントという聞きなれない名前は何かというと、話は1950年代まで遡る。ちょっと眉唾な話(あっ、眉毛だけに!)だが、アメリカ軍(陸・海・空・海兵のどこに属するか、また正式な階級も判らないあたりに信憑性を疑うのだが)にMont(モンゴメリーとかの略かも? )という将軍がいたそうで、しかし彼は眉毛が薄かったという。そこで彼は、アメリカ軍が懇意にする光学メーカーのひとつであるAO(American Optical)に、将校として威厳ある顔を演出するような眼鏡のデザインを依頼したという。それが前述のように眉毛のラインに視覚的インパクトを与えるデザインで、AOは彼に敬意をこめてこれをSir(サー) Mont(モント)、と名付けた……。しかしAO、ボシュ&ロムと並ぶ三大アメリカンアイウェアメーカーの一つ、シュロンがすでにそのデザインを発表していた、という説もある。そのオリジンがどうあれ、1950~1960年代にサーモント・ブローはかのマルコムXを筆頭にアメリカの知識層、富裕層の定番となった。

画像2

マルコムXはAO社のサーモント・ブローを愛用していた。智(フレームのフロントとテンプルをつなぐ部分)に翼をデザイン化したアイコンからAO社製と判る。レイバンが同型のモデル“クラブマスター”を語る際にマルコムXの名を出しているが、これは誤解を招く。


知識層の象徴からダサメガネ➡ギークな小道具(今ここ)

 ところが、このデザインが万人に受け入れられるようになると(ファッションもこういう傾向にある)、やがてサーモント・ブローは冴えないオッサンを象徴するダサメガネという不名誉なポジションに押しやられてしまった。そんなダサメガネのサーモント・ブローを1990年代終盤から2000年に掛けて、ファッションとして上手く変換する兆しが見え始めた。最初に僕がカッコいいと感じたのは、当時盛り上がっていたストリート系バイク雑誌のスナップ。ベスパのライダーがサーモント・ブローを掛けていたのだが、バブアーのインターナショナルジャケットにボンボン付きのスキーキャップといういで立ち。サーモント・ブローはこの狙った“ダサカッコよさ”に似合うのだ。

画像3

何をやってもうまくいかないオッサンが狂気に走る映画「フォーリングダウン」でマイケル・ダグラスが掛けるサーモント・ブローの立ち位置は、まさにダサメガネの真骨頂。



今選ぶべきサーモント・ブロー4選

  そう、だからサーモント・ブローは真面目に掛けるのではなく、遊び道具感覚で掛けこなす、というイメージで臨むのがベストなのだ。たとえば今もずっとMADE IN USAで正統派のサーモント・ブローを定番として作り続けているSHURON(シュロン)」のRONSIR。ベースが安いだけにカラーレンズでサングラスとして使ったり、ブルーライトカットレンズを入れて、まじめに働いていますというアピール(笑)の小道具として使っても良い。


 ドメスティックブランドからピックアップするならば、いち早くサーモント・ブローのギーク感を唱えてきた「EFFECTOR」のdelay Ⅱは、なかなかに良い。ちなみにリンクのモデルはAOから正式の復刻を託され、“SIRMONT”の商標を持つ「BJ CLASSIC」とのコラボレーション。智にはしっかりAOの翼のアイコンがキラリ。


 お次はライダースジャケットといえば、の「SCHOTT NYC」のアイウェア、CHATHAM。アパレルブランドのアイウェアは、とかくやっつけ仕事の安物OEMが多い中で、こちらはドメスティックブランド「GROOVER SPECTACLES」の自社工場に生産を依頼した、しっかり者。プラスチックは手作業で削り出した微細なラインを描き、通常の3倍近くも磨き作業を行った深い艶が特徴だ。


 さらにラグジュアリーなアクセサリーとして一歩踏み込むなら「DITA」のSTATEMANが間違いなくオススメ。このブランドの手掛けるデザインは本当にどれも外れクジなしでカッコいい。下のモデルはレンズをつなぐブリッジに、ヴィンテージのライターを彷彿させるギザギザ模様があったり、リヴェットの使い方がいちいち男臭い。ビッグネームのブランドが次々にイタリアのメガ企業に買収される中、頑張っているのも(今のところ)応援したい。





サーモント・ブローを選ぶためのポイント

 他にもサーモント・ブローをラインナップするブランドは多いが、どんな色やサイズ感のモノを選ぶか、が重要なポイント。

 たとえばモント将軍のように眉毛が薄い御仁なら、ブローが太目なものを選んで顔に強い印象を与えたい。また肌の色が白っぽいなら黒縁を始め、単色でブローラインを目立たせたい。最初は違和感があるが、掛け続けていくとなれるのでお試しあれ。

 反対に眉毛が濃いならブローラインは細め、また肌の色が浅黒い場合はブローラインにクリアカラーが含まれたもので軽快さを加えると吉。いずれも足し算と引き算を使い分ければ、おのずとちょうど良いポイントが見つかるはずだ。



サーモント・ブローを筆者はこう使う(オマケ)

 さてさて最後に、肌の色は浅黒くて眉毛も太めの僕はどうか、というと以下のようなサーモント・ブローを愛用している(していた)ので、サンプルとして紹介したい。総じて小ぶりなサイズ感で素材は透明感のあるものを選ぶ傾向にあるようだ。


画像4

EFFECTOR 先ほど紹介したdelay Ⅱのコラボじゃないバージョン。まだ視力が悪くなかった15年前に購入したもので、伊達メガネとして使いたかったので薄いブラウンカラーのレンズをセット。残念ながら今では遠近両用のレンズが必要なので、お蔵入りとなってしまった。



画像5

H fusion ドメスティックブランドでプラスチックは昔ながらのセルロイド製。このモデル最大の特徴はフロントがフリップアップ(跳ね上げ式)というギミック。ホントはもっと濃い色のレンズを入れて室内では跳ね上げて、という動作を楽しもうと思っていたのだが、いつの間にやら視力が落ちてしまったことで、こちらもお蔵入りに。


画像6

GROOVER SPECTACLES こちらは現在ヘヴィーローテーションで活躍中。小ぶりかつクリア、という僕の基準を満たしたスペックに加え、ドイツの軍用をサンプリングした無骨なブリッジデザインがお気に入り。数年前に欅坂46の「風に吹かれても」でセンターの平手友梨奈さんが掛けていたことで、強烈に人気が出たとか。知らんけど。


画像7

MYKITA ステンレスシートの特性を活かして、ネジを一切使わない機構を得意とするドイツのイノベーティブなブランド。彼らのメソッドでサーモント・ブローを料理すると、こんな未来的なデザインに。1日中メガネを掛けて疲れてしまったら、こいつでリラックス。デザイナーを始め、まだオリジナルメンバーがいたころの傑作だ。



まとめ

 いかがだったろうか。欧米でこのテのデザインはウケない、とフランスのバイヤーから言われたことがあるが、どっこいアメリカではスタンダードなデザインとして認知されている。極めてメンズライクなデザインだが、最近では知的なキャラクターを演じる女性にも人気があるそう。サーモント・ブローはTシャツのような夏カジュアルとは、やや相性は悪いが秋冬のアウターとの親和性は抜群。これからの季節に1本誂えてはどうだろうか。

この記事が参加している募集

#買ってよかったもの

58,901件

#私のイチオシ

50,926件

よろしければサポートをお願いいたします!その費用は現地アメリカでの調査費として活用させていただきます!