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続続続々 ハラスメント 彼女が飛ぶ一歩前

10年ほど前、私は仕事で大阪へ出張した。
ホテルに一泊し、翌日のプレゼンが終わり次第すぐに新幹線で戻るというスケジュールだった。
大阪に到着してすぐ、打ち合わせを終えた私と同僚は、せっかくだから夕食は外に出て何か食べようということになった。

街には美味しい店がたくさん並んでいて、どの店もとても魅力的だった。

何を食べようかと話しながら歩いていると、ある大きなホテルの前に女性が座っている姿が目にとまった。
椅子ではなく、ペタンと地べたに直に座っていたので違和感があった。

27、8くらいだろうか。
髪は肩より少し長いストレート。薄い生地の淡い水色のノースリーブのワンピースは、肩に上品なフリルが付いていた。風でスカートが捲れる度に、綺麗に横へ流した脚が女性の美しさを一層引き立てていた。

1階のテナントショップから漏れる明かりに照らされ、顔の彫りの深さが際立つ。

同じ女性ながら、なんて美しい人なのだろうと
思った。

彼女の美しさと、ホテルの前に座る不自然さに
誰もが目を奪われながら通り過ぎた。

綺麗な人・・・

前を通り過ぎようとした瞬間

あっ ・・・・・
私は目を疑った。

彼女の首には、紐を通した白い画用紙が
掛けられていた。何か字が書いてある。

うそでしょ?!

私は口から漏れそうになる悲鳴を手のひらで抑え込んだ。

その画用紙には
(わたしはうわきをしました
     わたしはいんらんです)

と書いてあった。
誰がこんなことを・・・

それは前だけでなく、後ろにも、合計2枚の画用紙に書かれていた。

うつむき座り続ける彼女に、わたしは疑問を抱いていた。

手や足を縛られているわけでもないのに
何故自分で外そうとしないのだろうか?
逃げようと思えば逃げられるのに、何故そこに
座り続けているのか。


「くさりにつながれたぞう」という絵本がある。
アルゼンチンの心理学者 ホルヘ・プカイの著書だ。
物語は、
サーカスが大好きな少年が、象はあんなに体が大きくて力で力が強いのに何故逃げないのかと
疑問に思うことからはじまる。

サーカスの象はこどもの時から鎖の足枷を付けられ杭に繋がれる。逃げようとしても小さな子象の力では外せない。そのうちに子象は諦めてしまう。やがて成長し体が大きくなっても逃げようとしない。

絵本の中の少年はこう言います。

「ねぇしってる?きみはぼくとそっくりだよ。
じぶんにはできないことが たくさんあるとおもってるでしょ?
でもね、ずっとまえに、たったいっかいできなかっただけ。」

ホテルの前に座る女性に何が起きたのかは知らないが、ただ強制的に座らされているのではなく、彼女自身がそうしているようにみえた。

「悪いのは私、怒らせてしまった私が悪いの。だから許してもらう為に言いなりになるしかないの」

彼女の哀しそうに俯く美しい横顔はそう呟いてるように見えた。

誰かが助けようとすれば、私たちの知らな場所で、彼女はもっと辛い目にあうだろう。

私も同僚も、そして通り過ぎた人々はみな
同じ怒りと虚しさを感じただろう。

私は心の中で語りかける。
あなたは、あなたにパワハラをするその人の望み通りになりたいの?


その人は、あなたが落ち込んだり傷付いたりする姿をみて喜んでる人間、
そんな人間から何をされても、あなたが好きだと言うならもう何も言わない。
だけど、あなたを嫌って意地悪してくる人のことを毎日思い悩むほど無駄な時間はないわ。

あなたの人生はあなただけのもの。
誰にも傷付けたり、邪魔する資格はない。

目の前の理不尽から目を逸らし、後ろを振り返ってごらん
ほら、あなたのことを心配する人が、こんなにたくさんいるじゃないの。
しっかりと見て。
たった一人の悪意の為に、自分の人生を棒に振ることはないのよ。

絵本の中の少年はこう言う
「ほんとうに自由になりたかったら、できるんだ。
ほんとうさ。なぜやってみようとしないんだ?」

私は今でも彼女の美しく座る姿を忘れられない。

続く

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ハラスメントはあってはならないことです。
今や企業のリスクマネジメントにおいて欠かすことの出来ないものとされています。
SNSコミュニケーションの現在は、レピュテーションリスクに備えることも必須となってきました。
まずは、当事者を作らない努力をすること。
そのためには、企業、経営者がまずハラスメントは許さないと言う姿勢をしっかりと公言してください。その上で、ハラスメント、メンタルヘルスの相談窓口を設けきちんと稼働させることです。さらにそれを従業者にわかりやすく告知すること。そしてハラスメントとは何かを教育することです。
これらを行うことで、経済的な損失も人材の損失も防ぐことができます。これが出来れば、従業者からの信頼を得、それは社会からの信頼に繋がります。今も昔も優れた経営者に共通するのは、「企業価値を上げる為には、まず一人一人を大切にすること」です。

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