『ダルちゃん』は、自分を好きになれないわたしたちのための希望の物語。
普段ほとんどコミックは読まないのだけれど、はるな檸檬さんの『ダルちゃん』はずっと気になっていた。
ダルダル星人のダルちゃん。「普通の人間」に見えるように、いつもがんばって「擬態」している。派遣社員の24歳の女の子。
まわりの目を気にして、誰かに合わせて生きていると、本当の自分がわからなくなる。
たぶんこれはわたしの物語でもあるのだろうなぁ、と直感的に思った。
ただしばらくは、あまり読む気になれなかった。
きっとこれは思いっきりわたしの琴線に触れてくるに違いない。だからこそ、時間や気持ちに余裕のないいま、読んだらしんどいかもしれないと思ったからだ。
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しかし先日、やっぱり読んでみようかな、と思える出来事があった。
書店の中をぶらぶらと散策しているとき、たまたまわたしの好きな歌集が目立つように展示されていた。
そういえばこれ、文庫になったんだっけなぁと思いつつ近寄ると、「『ダルちゃん』に出てくる詩の本のモデルはこれ!」とうたい文句が。
その歌集というのは、笹井宏之さんの『えーえんとくちから』。
わたしが短歌の本を読んだり歌集を買ったりするようになったきっかけの本だ。
笹井宏之さんは、ちょっと不思議な雰囲気の短歌を詠んだ。不思議で、美しくて、どこかかなしい。
『えーえんとくちから』がキーになる物語なんて、ぜったい読みたいに決まっている!
そして今日、ようやく落ち着いて読めた。
『えーえーんとくちから』についてはそのうちnoteに書きたいな。
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この物語は、自分に自信がなく、いつもまわりの反応を伺い、「普通」になろうとしているダルちゃんが、ほんとうの言葉に触れ、ほんとうの自分を見つけ、ほんとうの幸せに向き合う物語だ。
役割を与えらえることで安心するダルちゃんの姿は、どこか自分と重なった。
まわりに認められることはとてもうれしいことだ。満足感もある。だけど、そればかりにとらわれてしまうと、いつかどこかで苦しくなる。
誰かの判断基準に踊らされて、ありのままの自分、がわからなくなる。
ダルちゃんも、1巻のある出来事で強く傷ついてしまう。
同僚のサトウさんが貸してくれた「詩集」がきっかけで、ダルちゃんは自分が自分でいられることの糸口を見つける。
そのままのダルちゃんを表現することができるようになる。
わたしもnoteを書きながら、自分と向き合ってるな、と思うことがある。
ダルちゃんとわたしの手段は違うけれども、自分を表現することで、自分で自分のことを認めて、好きになりたい。そういう気持ちはすごくよくわかる。うん。
ダルちゃんが、自分で自分を幸せにすることを決意するまでの2巻後半のストーリーはとてもつらい。けれど尊くて、美しくて、かっこいい。
わたしが長々と語るよりも、これはぜひ読んで感じてほしい。
気に入ったことばを引用する。
私は自分で自分をあたためることができる
自分で自分を抱きしめることができる
それが希望でなくて何だろう
(2巻97頁)
ああ、ダルちゃん、自分を信じることができるようになったんだね、と思った。
なかなか読む勇気が出なかったけれど、いまこのタイミングで読めたのは自分にとって大きかった。
30年近くこの人生をやっていると、それなりに悩みやら、自分のだめさへの落ち込みやら、いろいろあるんです。社会にはなんとなく適応できるんだけどね。
いつまでも怖がっていないで、ダルちゃんみたいにきちんと自分の弱さと向き合わないといけないなと。
『えーえんとくちから』がキーアイテムとして使われたのは、この歌集も『ダルちゃん』と同じように読むひとの心の深いところに入り込んでくる感じがあるからなのだろうか。
自分の気持ちと向き合いながら、ゆっくりと読みたい本だった。
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