森逸崎 海(もりいざき うみ)
雇用形態関係なく働けたのは、この会社が初めてでした
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雇用形態関係なく働けたのは、この会社が初めてでした

森逸崎 海(もりいざき うみ)

せっかく関わってくださったのであれば、その人らしさを大事にして、一緒に働いて笑いたい。

#はたらいて笑顔になれた瞬間

課題しかない

「これだから派遣はイヤなんだよ!」
その言葉に私は思わずギョッとした。

以前勤めていた会社で、私が人事部に異動したてのころの話だ。
私のデスクの前で、営業チームのリーダーが苛立ちを露わにしている。聞くところによると、出勤予定の派遣社員の方が三日連続で遅刻をし、そしてとうとう無断欠勤をしてしまっているとのことだった。

当時の社内では半ば「あるある」なできごとではあるものの、私がその言葉にギョッとしたのは、そのリーダーが「派遣さんを今後私のチームに入れるのをやめてほしい」と依頼してきたからである。


私がいた会社では営業アウトソーシング(※)がメイン事業だったので、クライアントからの発注に合わせて急ピッチで人事チームが採用を進めることはよくあった。

中には数十名規模の発注もあって、正社員だけを短期間で採用することは正直難しかったから、必然的に派遣社員の方やアルバイトの方も同時にチームに入ってもらっていたのだ。(これは辞めた今だから言える話)
私はその採用した全メンバーの「育成」部分がミッションだった。

※クライアントの自社商品において、リード/アポ/契約獲得など「営業活動そのもの」を代行すること。自社の営業リソース補填・ナレッジ蓄積による業務効率化・コストダウンなど、クライアントの利用目的は様々。
私がいた会社では成果報酬型ではなく、「発注人数×営業メンバー1人当たりの単価」の固定額を毎月クライアントからいただいていた。

当たり前ではあるが、営業成績を出さなければクライアントから発注人数を減らされるか、最悪他社に乗り換えられることもある。
つまり私も各チームのリーダーも、入社してくれたメンバー全員に、営業経験も雇用形態も関係なく「一人の営業マン」として成果を出してもらう必要があった。それがクライアントに喜んでもらうための最低条件だ。


そこへの影響を考えたら、そのリーダーの苛立ちは分からなくもない。でも、「派遣社員」という存在自体にネガティブになる必要がどこにある。
個人ごとのスタンスの違いに向き合ってほしいし、その雇用形態での線引きの仕方に私は違和感を覚えた。

入社したメンバーに対しても、現場のリーダーに対しても、もちろん私にも。「育成」について改善すべき課題は、とにかく沢山あったのだ。



実際私自身、その会社に入った当初はアルバイトだった。

その後、契約社員、正社員と変化していったけど、自分の仕事に対しての取り組み方が変化したかで行くと根本何も変わらない。
アルバイトのときだって目標達成のために必死に営業数字を追いかけていたし、『たぶん週刊 森逸崎もりいざき』を勝手に作っていたのもそのころだ。

きっと、「アルバイトだから」と線引きをされること自体が、私にはとても悔しかった。

社内研修でも基本的に「正社員のみ」という参加条件があった。外部講師の場合は予算の関係もあったのだろうけど、自分がすごく興味がある内容に参加できないことに対しても、どこか疎外感を感じてしまっていた。

もちろん直雇用のアルバイトと派遣社員ではその会社で描けるキャリアパスも違うだろう。でもせめて成果を出すために必要な情報は、平等に得られるようにすべきだと思った。

だから私が人事部の育成担当への異動を言い渡されたとき、最初にしたいと思ったことが「いつでも誰でも自由に学べる環境を整える」ということだった。



怒涛の毎日

今思えば私がしたことは、マイナスをゼロにするくらいのことだったかもしれない。

会社の拠点増加に伴って、対面研修は全てオンライン研修に切り替えた。その内容を動画に収め、資料と一緒にアーカイブして、いつでも視聴・閲覧できるように社内研修専用サイトも立ち上げた。
今となっては研修のオンデマンド化は割と当たり前になったけど、当時としては割と手探りの部分も多かったと思う。

座学・アウトプット・実務をしながらの上司との1on1をセットにして自走までサポートする。これを基本として、新人研修やリーダー研修もすべて内製で組み立て、「正社員のみ」という制限もなくした。

新人の入社タイミングは月に2回。
研修の日程・参加者・接続場所の調整、コンテンツの作成や修正、研修実施と各チームへの引き継ぎ。もちろんそれ以外にも社内勉強会の推進に自社採用サイトの改修と運用、社員インタビュー記事作成に面談。
本当に色々なことを経験させてもらって、怒涛ってこういうことを言うんだろうな、と思える毎日だった。

当然私だけの力ではなく、上司には相談しまくったしダメ出しも喰らいまくった。運用やコンテンツ内容についても、各部署のマネージャー、リーダー、そして実際に研修参加してくれた方。フィードバックを含め色んな方々が協力してくれて、その体制は少しづつ定着していった。



本当はもっと頑張りたい

そんな中、あるチームで、派遣社員のAさんと定期面談をしていたときのことだ。
人事業務と並行して、私もアウトソーシングのチームに営業企画として参加することが増えていた。

「先月の目標達成、改めておめでとうございます!」
と私が言うと、
「えへへ。めっちゃ嬉しかったです!!」
オンラインの画面内にとても良い笑顔が見える。ああ、この顔を見る瞬間が、好きだなあ。
すると、彼女は続けてこう言った。

「あのね、私、この会社が初めてなんです。
派遣社員にも差別せずにきちんと研修してくれたり、自走するまでサポートしてくれたりするのって。
今まで割と、何も分からないまま現場に放り出されることもあったし、出たら出たで『できないから』って理由で簡単な事務作業だけしか振られなかったりもしたし。

夫の転勤で引っ越しして、育児から復帰したてなこともあって正規雇用じゃなくて『とりあえず派遣』って形を選んだけど、それを後悔することも多かった。

本当は、もっと頑張りたいのに。


でも今は、派遣の私にもチーム内で役割をくれたり、リーダーにならないかって声をかけてくれたり。
雇用形態関係なく働けたのは、この会社が初めてでした。

だから、今、ここで働くのがすごく楽しいんです。いつもありがとうございます。」


「……まじすか?」
私は思わず聞き返してしまった。
言葉が、沁み込んでいく。

うわ。うわ。まじか。
嬉しい。素直に嬉しい。
多分、まだ「当たり前」のスタートラインに立てただけに過ぎない。でも。それでも。


「Aさん、こっちがありがとう、です。
環境を活用したのも、成果を出したのも、Aさんの力。
Aさんを見て周りの方も刺激を受けるでしょうし、何より、楽しそうに働いてくださっていることが、私は一番嬉しい。
これからも何卒、よろしくお願いします。」

私は目一杯の笑顔で、そう伝える。
Aさんの顔も、綻ぶ。

これまでやってきたことを互いに噛みしめた、とても心があたたまる時間だった。


.
人がその雇用形態を選択する理由は様々だ。
私みたいに「自宅から通いやすい・時給が高い」ってだけで求人に飛び付いたアルバイトもいるし、Aさんみたいに、子育てを理由にあえて勤務時間に制限がある派遣社員を選択する人もいる。

もちろん働く目的もモチベーションも人それぞれだろうし、給与に紐づいた責任範囲があるのは当然のことだろう。
だけど、それは決して、その雇用形態を選択した人のスタンスを否定したり、チャンスを奪ったりすることとは違う。

その人がその人らしく働けるように。
「当たり前」を作って維持することはこの上なく大変だけど、なんだかんだ「一緒に働く人が笑顔なのであれば、私は笑顔になれる」と、今は自信を持ってそう言える。


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森逸崎 海(もりいざき うみ)
書くことが好きなだけの人。エッセイ『ツレは27歳年上で』他 ゆるく更新 | 『無名人インタビュー』インタビュアー | コーチング・認知心理学勉強中 | #我慢に代わるわたしの選択肢(2022ツムラ) 企業賞 #はたらいて笑顔になれた瞬間(2022パーソル) パーソル賞