#22 彼はADHD注意欠如型 【マッチングアプリで出会ったモラハラ婚約者と別れた話】
彼の語り癖に違和感を覚えた
六本木デートの後、私たちはうちの近所にあるもつ鍋屋で鍋をつつきながら日本酒を飲んだ。
わんこくんはお酒が大好きだ。酔って我を忘れることはないけど、朝から飲むこともあって、私はそれを好ましく思わなかった。
昔からお酒が強かったのかと尋ねると「ほら、おれってバーテンだったから。そこで鍛えられた」と言った。「ほら、おれって〇〇（経歴）だったから」も彼の口癖だ。
この日の彼は上機嫌で、まあ～～〜よく話した。グラスを傾けて、しゅわしゅわと動き続ける泡を見つめながら、俺の人生、私との未来についてゆっくりと語った。
この日、私は語りたがりな彼に違和感を覚えた。彼の視線は空中を漂っていて、私の視線とは交差しない。恍惚とした表情で自分の世界に陶酔し切っている。んー、なんていうのかな。一方的で置いてけぼり感があるっていうか、キャッチボールができていないっていうか、突っ走ってるっていうか。周りが見えていない感じ…。
これまでも彼は自分に酔っていたけれど、一歩引いて見てしまったのは、私の中で何かが少し変わったからなのかも知れない。それか、彼が前よりも盲目的に語るようになったか。とにかく私はストレスを感じた。
でも、彼には暴走する自覚があるらしく、私の反応が悪くなると「おれ、語りすぎたかな。ごめんな？」「話が長かったよね。リンちゃんに甘えているのか、考えながら話しちゃうから長くなりがち…」としゅんとしてしまうので、嫌な気持ちにはなり切れなかった。ええのやで。
ADHD （注意欠如型）なんですって
私の家に戻って、のんびりタイム。
ベッドに座るわんこくんの膝の上に座り、後ろからハグされながらくだらないことで笑っていたら、突然、彼が私の体を自分に向き直して言った。
わんこ あのさ、リンちゃんに言っておかなきゃいけないことがある。
私 え、うん。改まって何？
（まさか既婚者だった？）
わんこ ADHDって知ってる？
私 知識としては少し知ってるよ。私の周りにはいないけど。
わんこ おれ、それなんだ。
私 ほお？そうなんだ。
わんこ 言わなければ分からなかっただろうけど、リンちゃんとはこれからも長く一緒にいたいから、言うね？
ADHDっていくつかのタイプがあるんだけど、おれは「注意欠如型」ってやつで、忘れ物が酷かったり、時間を守れなかったりするの。他にも色々あるけど…。ADHDのチェックリストを見ると、おれは漏れなく当てはまる典型的なタイプ。精神科医に通っていて、結構強い薬も飲んでる。
私 ふむ。そっかぁ。そうなのね。
わんこ うん。
その後も、わんこくんは自分のことをたくさん教えてくれた。
■注意力が散漫になっちゃう
とにかく周りに注意を払えない。幼少期に一年で４回も交通事故に遭い、検査を受けてADHDの注意欠如型と診断された。
運転中に飛び込んでくる情報に気持ち・注意が奪われてしまうため、医者に運転を禁止されている。例えば、桜に目が留まるとそれに集中してしまい、運転がおろそかになってしまう。
（ドライブデートしたいって言ったら微妙な反応をされたのはそのせいか！）
■遅刻しちゃう
どう頑張っても時間を守れない。早めに行動しても、見積りが甘くて予想の数倍時間がかかってしまう。
距離感覚もないからすぐ迷子になる。例えば、最寄り駅から20分のところにある場所に数時間経っても到着できない（は？どういうこと？）。自分の力では目的地に辿り着けないからタクシーを使う（いつもタクシーで来るのはそういうこと！？）。それでもなぜか遅れちゃう。
■単純作業でミスを連発しちゃう
頭を使わない単純作業でミスを連発し、「おれってこんなに仕事ができない人間なのか」と死にたくなったことがある。
でも、早めに自分に向いている分野を見つけられて、今はその分野でしっかり稼げている。ADHDはプログラマーやアーティストなど、クリエイティブな仕事が向いている人が多い。
（今のわんこくんの仕事そのままだ）
■忘れ物しちゃう
なぜか忘れ物が治らない。
（これは、今のところ気になったことがない）
■過集中しちゃう
興味のあることには集中できるし人の何倍もの才能を発揮するけど、興味のないことは標準レベルにも満たないポンコツさ。
おれの場合、興味のあること＝ITの仕事。食事も忘れて早朝から深夜まで集中してしまう。だからこそ、一つの分野を究めて稼げているんだけど。
（変な時間に起きてるなとは思ってた…）
■突然、集中力が切れちゃう
頭が常に冴えている。脳みそフル稼働で何かを考え続けていて眠れず集中してしまう。とは言え、いつかは電池切れになるので、いきなり倒れるように眠ってしまうことも。
朝はまったく起きられない（だから時計だらけにしているのか！！）。眠くて起きられないのではなく、脳が動かない。脳を無理やり起動させるために強い薬を服用。薬の効果が切れるとまた眠くなる。
時計だらけエピソードはこちら。
おおおお！？
これまでの彼の不思議な行動と辻褄が合ってきたぞ？
そして、私はどう思ったか
全部聞き終えてまず思ったのは、「うっわ、生きにくそう。毎日お疲れ様です」だった。良いとか悪いとか、受け入れられるかどうかって話じゃなくて、ただただ「そうなのね」「大変だね」という感想。
そして、ちゃんとできない自分を責めてしまいそうだな、とつらい気持ちにもなった。
ADHDだからわんこくんと別れるか？って言うと、そういう発想にはならない。私が大人の発達障害を持つ人と接したことがないから、見えていないことが多くて何も感じないだけかも知れないけど、知らないんだから仕方ない。これから知っていけばいい。で、困ったら、都度一緒に考えればいい。
彼は、静かに私の答えを待っていた。私は言葉を選びつつも、感じたことをストレートに伝えた。
私 教えてくれてありがとう。
うーんとね、周りにADHDの人がいないから、本人の辛さも周りの大変さ？もピンと来てなくて申し訳ないんだけど、わんこくんの話を聞いて、今の時点でどうこう思ったりはしないかな。「そうだったのね。大変だね」って思ったくらい。
身体的障害があって、介護が必要なレベルで生活に支障が出るなら話は別で、私はお付き合いを考え直してしまうんだけど、そうではないし。
これからADHDならではの困り事が起きるのかも知れないけど、どういう時にどういうことが辛いと思うのか？私のサポートが必要なのか？そういうのを教えて欲しい。
ところで、ADHDって遺伝するの？強い薬を飲んでいるって言ってたけど、それは胎児に影響する？そこは気になる。
わんこくんはそれを聞いて、少しほっとした顔をした気がする。薬のことはちゃんと調べてみるね、と言っていた。
子供がADHDだったらどうするの？という話もした。
わんこ 子供もADHDだと分かったら、得意分野を伸ばしてやるようにしたい。不得意なものからは逃げていいんだよと教えたい。おれがそうやって生きてきたから、自信を持って伝えられる。そこは心配しなくて良い。
ただ、知的障害があると、正直、育てる自信がない。
ふぅん。そうなのね。
この辺から、頭が追い付かなくなった。既にADHDとの付き合い方を見つけたわんこくんと生きるのは、そう大変なことではないかもしれない。でも、もし子供もADHDだとして、私は「なぜ世の中はこんなに生きにくいの？」と悩む我が子と一から向き合うことができるだろうか。彼は心配しなくていいって言うけど、不安だ…。
ま、私がわんこくんを好きなことには何ら変わりないし、付き合っていく中で考えよう。今の私は、ADHDのことも彼のことも知らなすぎる。
ADHDについての会話はいったん終わった。
私は、お風呂にお湯を溜めながら、初対面で急遽待ち合わせ場所を変更したことを思い出して後悔した。そんなに道に迷うなら、あの時の彼はすっごく動揺したんじゃない？悪いことをしたなぁ…。
―― この日は、次の回に続きます ――
【今日のわんこ語録】
「ほら、おれって〇〇（経歴）だったから」
「おれ、語りすぎたかな。ごめんな？」
りん