小説 「シャークス・ラブ」 VOL.5
長年の付き合いでも、村上の恋愛観に全くついていけない佐藤…
呆れて物も言えず、佐藤は口をぱくぱくとさせるが、何とか、「はぁ。じゃあ、別れなよ」と言葉を振り絞った。
「でも、次の子は? そのまま彼女ができなくて、セックスできなかったら、どうするんだ?」
佐藤は、お手上げと言わんばかりに軽く天井を見上げ、「埒が明かないな、まぁいいさ。いつものことだけど。ま、頑張ってよ」と作り笑顔を向けた。
突如、店内に携帯音が鳴った。レトロ感漂う喫茶店にはマスターがいるが大抵奥にいて、呼ばない限り出てこない。客もほとんどがいない為、携帯の音は良く鳴り響いた。村上は携帯をジャケットの内ポケットから取り出し、応答する。それは彼女の葵からだった。
「葵? どした? うん……うん……」
佐藤が悪いことをした訳ではないのだか、村上の本心を聞いていた手前、悪くも無いのになぜか罰の悪そうな顔をして窓の方を向いた。
「……ん? え! ちょ、ちょっと待とう。いや、電話でそんなこと急に言われても……うん……いや……わかった、いや、でもさ」
話の内容までは聞こえてこないが、みるみる青ざめていく村上の顔色が、葵からの知らせが悪いことを物語る。
「そか……いや…でも一回ぐらいは……今度、あ…」
村上は携帯を見つめ、通話が切れたことを確認する。佐藤は眉を上げ、村上を伺った。
「葵ちゃん、何だって?」
「……って」と村上は俯いたまま力なく呟いた。
「え? 何?」
「……別れようって」
「別れる? そう、か……いや、でもさ。丁度別れたがってたんだしさ。いいじゃないさ、な」
村上は俯いたまま、返事をしない。変に気まずい沈黙の中、佐藤がコーヒーに口をつけた瞬間、「わかった!」と村上が両手でテーブルを叩きながら叫んだ。
つづく
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