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小説 「シャークス・ラブ」 VOL.9

 合コンの相手を待っている時間が苦手だと、村上はあらためて実感している。見たことが無い相手に期待するも、裏切られた経験が多々あったからだ。特に女友達の可愛いと言う言葉ほど信じられないものは無い。自身が一番可愛く思われたいから自身より可愛い子は連れてこないのは定跡だが、本人はそんな裏心は無いと言い張るのも嫌だった。

 今回もどうせ裏切られるのだろうと思ってはいる のに、 心のどこかで期待してしまう自分がいて、ソワソワしてしまうのもまた嫌だった。

 しかし、そんな事を言っていても出会いは無く、呼ばれた合コンにはそつなく参加している。

 男性メンバーは佐藤と清崎、そして自分。清崎は佐藤の会社の同僚で、清潔な身なりにおしゃれな眼鏡と、いかにもモテそうな風貌だった。一 度だけ話した事があるが、この見た目に反してゲスな内面を持っていてくれたら助かるのだが、見た目同様に爽やかな男であった。

 「清崎来るって何で言わなかったんだよ?」と村上が佐藤の耳元で囁いた。

 「言ったら来た? あくまでも数合わせだってのは認識してよ。今回はあくまでも恵子ちゃんと俺が仲良くなるのが目的なんだからさ。もちろん、その他は二人に任せるけどさ」
 「分かってるよ。けど、清崎いたら恵子ちゃんも持ってかれちゃうぜ。もろ恵子ちゃんの好みだろ」

 清崎を見て、佐藤は急に不安そうな顔になる。そんな佐藤を見て、村上は首を軽く振り笑みを浮かべた。

 映画だとこの合コンに元カノの葵が現れるなどの展開になるのか、と村上が想像を巡らせながら、最近流行りだした創作系居酒屋で待っていると、程なくして、女性陣がやってきた。そこには村上が予期していなかった、もう一つ展開が待っていた。

 恵子、髪の長めの女性、そして最後に入ってきた女性を見て村上は思わず自身の目を疑った。女性も村上を見て、目を細め、思わず、「あっ、ウッディ・アレン!」と声を出した。

 女性は先程ビデオ屋で会った、あの綺麗な女性だった。マジ? ほんの二、三時間前に出会ったばかりなのに、流石にこの展開はでき過ぎだろう、と村上も心の声がでそうになった。

 二人を見て佐藤が指を交互に指し、「えっ? 知り合い?」と声をかける。

 「さっき…」と村上が言いかけた所で、「知り合いかと思ったけど、違ったみたい。声出して、ごめんね。気にしないで」と女性は皆に伝えた。

 彼氏がいる所を見られたからなのか、どんな思惑で知ってないふりをしたのかは分からなかったが、怪訝な表情で村上も言葉を飲む。まるで推理物の映画で殺人現場を見たのに、事情があり犯人とアリバイを口合わせしなくてはならないキャラクターの心境だ。

 「そっか。ま、皆、座って、座って。とりあえず飲み物何にする?」 佐藤が場を繕った。

 飲み物が運ばれ、佐藤の乾杯の音頭で合コンが開始する。

つづく


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