【日本語教師の本棚6冊目】「日本語が世界を平和にするこれだけの理由」
「ありがとう」「おはよう」「はじめまして」
どのフレーズも初級の学生でも知っているおなじみのあいさつ。0基礎の学生が「あいうえお」の練習に飽きてきたら、ひとまず日本語のあいさつでお茶を濁してきた。
しかし、ある日とんでもなことがおこった。「ありがとう」はThank youですと説明すると、生徒に「先生、どのことばがThankでどの言葉がYouですか?」と聞かれたのだ。「え?この学生は何を言っているんだろう」と思ったけど「たしかに”ありがとう”にYouはない。なんで・・・」。
ひとまず「え〜っと。”ありがとう”に、Youは入ってませんよ」と汗をかきながら説明。当然「なんで?」と聞かれる。私、「なんでって・・・・」しばしの沈黙、「日本語ってそういうもんなんですよ。じゃ、次のフレーズ」。外目にはすずしい顔をしていたけど、私の頭には「今の質問、なんて答えたらいいんだろう」が渦巻いていた。
それからしばらくたって、友人からすすめられて読んだ本書にはすべて答えが書いてあった。
「ありがとう」とは「めったにない」という形容詞
おはようも「まだ早い時間ですね」という情景描写
というわけで、しつこいようだが「はじめまして」は「How do you do?」だが「You」は一つも入らない。「はじめて会いました」という状況説明なのだ。
このように、あいさつに「You」が入らない日本語が共感の言語だから、と本書では説明されている。
つまり、日本語のあいさつとは「今は、まだ朝早い時間ですね」、「こんなことはめったにないことですね」、「はじめて会いましたよね」と、その場にいる人々が共通の思いに浸り、その感情を共有しようとしているのだ。
本書はほかにも「人名や地名」の秘密、「声の出し方」の秘密など、日本語教師ならだれでも知っておきたい知識の宝庫だ。
日本には人名を冠した駅名がほぼ0。たしかに、駅名だけでなく、地名や通りの名前などにも人の名前は少ない。これは欧米に比べても相当少ないのだそう。一方、欧米には人名にちなんだ地名は多い。
そもそもアメリカという国名からして「アメリゴ・ヴェスプッチ」から来ているわけで。さらに人名も誰かの名前ににちなんだものも多い。デビッドソンや、ウィルソンの「〜ソン」という名前も誰々の息子という意味だから、人名に人名が入っていることになる。
このように、この一冊で授業の合間に生徒と雑談する際のネタにはしばらく困らないほど内容豊富。ただし、雑学発表会の様になってしまうため注意が必要だ。「雑学オジサン/オバサン」」は生徒には好かれない。
私個人は、「自然をあるがままに描写する日本語のスタイル」は日本語の自動詞・他動詞の説明に役立つと思った。
おそらく、書店でこのタイトルを見ただけでは、手に取ろうとは思わなかったはずだ。私の父の世代なら、「日本人は」とか「日本語は」という主張に対し敏感に反応するだろうが、私自身はそれほどこの「日本語→平和」論に関心がない。ただし、「日本語論」という観点から見れば、本書は日本語教師なら誰でも知っておいたほうがいい知識にあふれている。しかも平易で読みやすい。しかも、英語勉強法についても書いてある、という親切さ。
ひとまず日本語関連の本をいろいろ読んでみたいけど、どれから読もうかな、という人は読んでみてほしい。
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