不忍池でベンチに座っていたら (後編)
(前編はこちら)
(中編はこちら)
「職場ではどうですか?そういう人、いませんでしたか?」
「あー、いましたけど…」
「どういうことがあったんですか?」
「…その人が、できると自信を持っていることがあって。でも、私の方ができると思ったらしくて…その人が勝手にそう判断しただけなんですよ、優劣つける必要ないのに。それで、変なこと言ってくるようになったんです。」
「それ、妬みですね。今まさに、僕、同じようなことで悩んでるんです。妬まれて困ってるんです。」
「今、悩まれてるんですか?」
「そうです。」
職場で妬まれて、その仲間の人達も一緒に複数でいろいろと言ってくるという。
…理解した。
話しかけてきた理由。これまでの話。
この話をするため…。
「それで、どうしましたか?」
私のときはどうしたか訊かれた。
「『なんでそんなこと言うの?』って。それで、普通にその人に接してました。普通に仕事して。」
「言いましたか。メンタル強いですね。」
「そうですか?」
「強いですよ。」
私の場合は、その人に加担する人は1人だけで、まともな人の方が多かったため、他の人は「何あれ?」という感じで取り合わなかった。
私はその人のことを「大人気ない人だなぁ」と、ただ呆れていた。
(思い返してみれば、もともとは普通に仲良くしていたので、ああ、そんな人か、と少々残念ではあった。)
比べる必要のないことを比べ、自分より相手が優っていると勝手に決め、悔しがって意地悪する。大人が。
不思議だ。
「自分はこんなことをするような人間です」と周囲に知らしめるようなことを、なぜするのか。
「変な人」と思われ嫌われるだけではないか。
自分と同じようにできる人がいると思ったならば、それは、仕事を進めていく上でいいことなのでは?
そう思わないということは、おそらく、そこにいる目的が違うということなのだろう。
「人によって何が辛いかは違いますからね。…私の場合は、みんなからではなかったし、ちゃんとわかってくれてる人がいるからいいと思ってました。」
「いやー、強いですね。」
うーん…。
「大勢にやられたら辛いですよね。なんなんでしょうね、優劣つける必要ないのに。」
「そうなんですよ。」
「妬んで変なこと言うとか、業務に支障が出ますよね。」
「そうなんですよ。」
「円滑に仕事を進めていくようにしなきゃならないのに、そんなことしたら仕事の邪魔ですよね。何しに来てるんでしょう?」
「そうなんですよ。…転職とかもありだと思いますか?」
それほどに、辛いのだね。
うーん…。
「ひとつの案だとは思います。…迷ってるんでしたら、書き出してみたらどうですか?転職した場合のメリット、デメリット、他の場合のメリット、デメリット。自分にとって何が嫌なのか、何がいいのか。整理されると思います。」
「あー、紙に書く。それ、いいですね。」
「迷ったときに、そうしてみたことがあるんです。何が引っ掛かるのか、書いてみたら、整理されてはっきりしたので、決められました。」
「いやー、素晴らしいですね。紙に書く…あー、ありがとうございます。」
なんだか感謝され、頭がいいなどと言われてしまった。
書いて整理すると言っただけで、頭の良し悪しは関係ない気が…。
「先生とか、心理カウンセラーになれますよ。」
「いやいや、なれないですよ。」
「なれますよ!なった方がいい!」
「なれないですよ。…お役に立てました?」
「役に立ちました!ありがとうございます!」
よかった。
そんなやりとりをしていたら、娘から「終わったよー!」とLINEが来た。
その旨を告げ、ベンチを立って歩き出した。
「本当に、ありがとうございました!」
と、甚く感謝された。
警戒しながら答えていたら、最後は人生相談になっていた。
誰かに相談したくて、話を聴いてくれそうな人を探していたのか。
「美術館ってどっちの方ですか」って、月曜日だから美術館は休みだと思うし。
いきなり本題ではなくて、少しずつ、上手く話を持っていったな。
「人間関係は」「大丈夫です」を繰り返したから時間がかかったけど、粘り強く頑張って辿り着いた…。
すごいな。
人との交渉とか上手そう。
振り向かずに歩いたが、もしかしたら、振り向いたら誰もいなかったりして…?
妖精か幽霊か…。
周りの人には、私がひとりで喋っているように見えてたりして。
…なんて。
娘に話すと、
「話聴いてくれそうな人、わかるんだよ。」
と言われた。
そういえば、買い物していて他のお客さんに話しかけられることもある。
…話したそうに見える?
家に帰ってから息子に話すと
「妖精が人生相談しないでしょ。人だよ。」
「そっか。じゃあ、幽霊か人だね。どっちにしても、人か。」
「99.99999…%人だよ。」
そう?
不思議な時間だった。
後日、知人に話したら、
「相談料もらいたいぐらいですよね。丁寧に聴いてあげて…。」
と言われた。
!
それは思いもしなかった。
相談を受ける仕事、しようかしら?
あの人、その後どうしたかな。
解決してるといいな、と思う。
人なら。
この記事が参加している募集
サポートいただけましたら、息子のために牛乳を買います🥛