光ル石山寺へ 成瀬が教えてくれない大津観光案内 ⑤
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石山寺をイチ推しするワケ
大津に行ったことがないけれど、一箇所だけ寄ってみたいという方には、手始めに石山寺をお薦めする。
比叡山延暦寺は天台宗総本山で、その守護社の日吉大社は山王総本宮だ。三井寺や西教寺は天台系の別派で、天台三宗の総本山が大津に所在する。有名寺社の多くが天台・山王系の大津にあって、東寺真言宗に属する大本山の石山寺は、どことなく雰囲気が異なる。平安期以降に強大な力を持った比叡山は、抵抗勢力を激しく制圧した歴史がある。石山寺は比叡山から少し離れた上に、宗派が異なることから、比叡山の戦火とは無縁であったせいか、門前や境内に平穏な空気が漂っている。
境内は、天然記念物の奇岩あり、切手のモチーフにもなった美しい多宝塔など、伽藍や所蔵品の多くが国宝や重文に指定されている。
石山寺から無理なく歩いて行ける範囲には、これといって大きな神社仏閣がない。石山寺の子院や鎮守社も、山門より内側に召し抱えられるように佇んでいる。
石山寺駅から門前までの瀬田川右岸は、完全に電柱が撤去されており、遊歩道の緑化整備も完了している。法律上の古都に指定されて風致地区が多い大津市だが、大津湖岸なぎさ公園を除いて観光エリア全域の景観保全が行き届いているのは、石山寺をおいて他にない。コンパクトながらも門前には、土産屋や飲食店が軒を連ねている。
残念ながら、延暦寺山上や三井寺の門前には、このように観光のついでに寄りたくなるような店舗群の一角は存在しない。
石山寺は瀬田川に張り付くように盛り上がった伽藍山の麓から中腹にあるせいで、あたかも独立峰の孤城の様相を呈していて、境内の周りだけで風景もショッピングも手軽に楽しめるのさ。あちこちに回ろうと色気を出すことなく、のんびり寛ぐのが石山寺を満喫するポイントだ。
石山寺へのアクセス
前回にも書いたとおり、JR石山駅から京阪バスで山門前まで行くのが早いし楽だ。京都駅から嵐山に行くよりも、石山寺に着くほうが時間がかからないのは内緒だよ。
石山寺駅前からも京阪バスに乗れるから心配ない。しかし、フリーきっぷで大津線を利用する方は、往復のうちのどちらかでいいから、石山寺まで歩いてみるといい。川面が目線から近い瀬田川が気持ちいいからね。道を渡って瀬田川ぐるりさんぽ道を行くもいいし、山側を歩いても石山紫の道というよく整備された歩道を歩くことになる。
平安貴族が愛した観音霊場
石山寺の山号は「石光山」で、石山寺の境内に入れば、山号の由来は自ずからわかるだろう。如意輪観音菩薩を本尊とする観音霊場だ。京から歩いてもその日のうちに着くこともあって、平安時代には貴族達がこぞって石山詣に出かけた。実際には大津の打出浜から船で瀬田川を下ったそうな。
石山寺には大津市の観光マスコットが住んでいるという設定になっており、その名も「おおつ光ルくん」だ。源氏物語絡みで作られたゆるキャラなのは説明不要だ。一時は石山寺でもその姿が目撃されたそうだが、近年はどうなんだろう。
石山寺には、俳人の松尾芭蕉も頻繁に訪れ、小説家の島崎藤村が長く滞在したことでも知られる。
大河ドラマ「光る君へ」
紫式部は石山寺に籠って源氏物語の構想を練ったと伝えられる。大河ドラマ「光る君へ」にも石山寺のシーンは多く登場するが、石山寺でのロケは行われていない。
主演の吉高も石山寺を訪れたし、大河ファンなら石山寺に行かない手はない。ちなみに現在の総住職(座主)は女性が務めているぞ。
大河ドラマ館と恋するもののあはれ展は、拝観とセットで買うとお得だ。
花の寺
石山寺は一年中花に彩られる。もちろん紅葉の名所でもある。撮影ポイントは今後に教えちゃう。
どの季節に訪れてもハズレなしだが、観光シーズンが始まる前に梅を眺めに行くのがいいかもしれんね。
東大門をくぐる
山門前は広々としていて、ちょっとした庭などもあるし、こじんまりした店が並ぶ。観光駐車場も多くの台数が停められるので、桜や紅葉の季節の休日を除いては、混み合う心配がない。
門前の案内は後にして、早速山門から拝観することにしよう。
東大門と呼ばれる山門は屋根の反りが美しい。運慶と湛慶の作と伝わる仁王像の立哨に監視されながら門をくぐれば、長く平坦な参道をしばらく歩くことになる。参道の両側には子院の建物が並ぶ。この調子では、境内を回り終えるまでに随分と歩かされるのではないかと不安になる向きもあろうが、80代の同行者も難なく歩き切ったので、そんなに心配しなくてもいいぞ。
志納所で拝観料を支払ったら、いよいよ石山詣の始まりだ。
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