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その名のとおり石の山の寺 成瀬が教えてくれない大津観光案内 ⑥

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境内を見て回るのに2時間はかけたい

初めて石山寺を訪れる方が知りたいことは、おおよその拝観所要時間だろう。大河ドラマの展示をご覧になるなら、境内を一周回って山門を出るまでに少なくとも2時間はかけてほしいな。
え?長いって。いやいや、石山寺はそんじょそこらの寺とは違うんだよ。伽藍は歴史的価値が高く、境内の景色は変化に富んでいるから、ゆっくり回っても飽きることはないぞ。
女性ならハイヒールだけは避けたい。順路は舗装されているが、少々の石段があるうえに全体に傾斜が多いからだ。

石山寺ホームページの境内図
石山寺で貰えるパンフレットの境内図

とはいえ、さほど急傾斜はないので普通に歩けるし、隅々まで行ってもそれほど疲れることはないはずだ。
参道左手に通常は非公開の公風園があるが、門の手前から覗き込めばその佇まいの一部が見える。

公開時の公風園

参道右手の拾翠園しゅうすいえんでは、大河ドラマ関連の商品を販売しているが、荷物になるので境内を全て回り終えてから寄るのがいいだろう。

拾翠園に設けられた物産館「紫」

全ての堂宇を紹介したいところだが、詳しいことはググったほうが、私の説明よりもよほど役に立つので、ここは見ておいたほうがいいというポイントに絞って案内するぞ。

大河ドラマ館

明王院が大河ドラマ館になっており、世尊院では「恋するもののあはれ展」が開催されている。志納所でセット拝観券を買ったら、まずはこちらを観よう。すぐそこにある。

大河ドラマ館観覧に関しては、大津にお住いのクリエイターによる詳細なリポートがあるので、そちらを参考にしていただきたい。

スリムさをアピールするならくぐり岩

有料ゾーンに入ってすぐに目につくのがこのくぐり岩だ。ディズニーのアトラクション気分でくぐってみるも良し。

天然のくぐり岩

狭いというよりは穴の中は高さがないので、屈むような格好になる。石山寺の名刺がわりの風景だ。岩をくぐったら先に進む。右手に見える石段を登りきったらいよいよ堂宇がお目見えだ。大坂と呼ばれるが、たったの67段だ。

観音堂、毘沙門堂、蓮如堂

石段を登り切ると三つのお堂がある。
右手手前は西国三十三所の観音像を集めて安置された観音堂だ。ちなみに、石山寺は西国十三番札所で、その前の十二番が正法寺(岩間寺)で、後ろの十四番が園城寺(三井寺)になる。いずれも大津市内に所在するので、もちろん今後に取り上げる。西国三十三所は日本最古の札所めぐりで、格式が高い寺院が多い。観音堂は割と素朴な作りである。
その隣の毘沙門堂は、重文の毘沙門天が安置されており、年に一度そのお姿を拝むことができる。

左手が毘沙門堂、右奥が観音堂

向かいにある蓮如堂は重文の建造物で、今では蓮如上人の遺品を祀っているが、元々はこちらが三十八所権現社だったらしい。鎮守社が仏殿になるのは面白い。背後に本堂が聳える。

蓮如堂

蓮如堂の隣にはお香の売店がある。源氏香というお香を使った遊びを、石山寺では不定期に開催している。

本堂は舞台造りだが見晴らしは?

蓮如堂の奥に本堂はある。

本堂、写真中央に紫式部源氏の間が見える

国宝の本堂は、滋賀県最古の木造建造物で、本尊が鎮座する正堂に継ぎ足す形で、舞台造り(懸造りかけづくり)の礼堂が建てられている。接続された部分の相の間に「紫式部源氏の間」が設けられる。設置された紫式部の人形はちょっと怖い。

源氏物語執筆中らしい

本堂はちょっと複雑な造りで増築されているので、舞台の下まで下りてみるといい。

懸造りの本堂を下から眺める

懸造りは男のロマン。いつかは建てて世を見下ろしたいものである。ちなみに、石山寺の本堂は木立に阻まれて清水寺のような眺望は期待できない。

記念撮影ポイントなら珪灰石前

山号は石光山せっこうざん、寺号は石山寺。古代は巨石に強烈な光を放つようなインパクトがあったのだろう。うねるような巨岩の石山寺の珪灰石天然記念物に指定されている。珪灰石を見れば石山寺の名も納得だ。かねてより石山寺を訪れたかったとおっしゃる北海道在住のご夫婦から、スマホのカメラを押してほしいと頼まれた。「写真に珪灰石が入っていると、石山寺を印象深く思い出せますよ」と珪灰石の前まで移動して、この構図で撮ってあげた。

この構図での記念撮影が定番

わさわさと生い茂ったモミジが紅葉する頃には、この巨石とのコントラストが何ものにも変え難い美しさを見せるのだよ。

珪灰石の外郭をめぐる

本堂脇から眼下に珪灰石を見下ろしながら小径を進む。
蓮如堂と同時期に建てられた重文の三十八所権現社があり、天智天皇までの歴代天皇が祀られている。山肌に建てられているので非対称になった屋根が面白い。

三十八所権現社

さらに、行く手には経蔵鐘楼(ともに重文)が待ち受け、

袴が高い鐘楼

ぐるっと回り込んで石段を下ると、第三代座主淳祐内供が祀られている重文の御影堂みえいどうだ。

重文の御影堂

この御影堂の右手へ進み、このまま第一梅園を通りながら登っていこう。石山寺の境内には大きな梅園が三つある。

風流な月見亭とセクシーな多宝塔

後白河上皇の行幸に際して建てられたという風流な離れが月見亭だ。

「石山秋月」の月見亭

近江八景の石山秋月いしやまのしゅうげつは、月見亭から琵琶湖を臨んだ構図になっている。残念ながら現在は月見亭から琵琶湖は見えない。目を凝らしてみたが、やはりよく見えなかった。瀬田川はよく見えるが、琵琶湖は心の眼で見つめてくれ。
月見亭の奥に一際目を惹く塔が聳える。

多宝塔を見上げる

源頼朝の寄進と伝えられる国宝の多宝塔(上から見て1階部分が正方形で2階部分が円形の塔)で、均整の取れたプロポーションはセクシーとしか言いようがない。小泉進次郎もきっとそう言うに違いない。おそらく日本で最も美しい仏塔だろう。

多宝塔をモチーフにした4円切手

塔の向かいには、頼朝と亀谷禅尼の供養塔とされる宝篋印塔ほうきょういんとうがひっそりと佇む。境内には宝篋印塔が他にもあるので、見比べるのも良い。

向かって左が亀谷禅尼の供養塔(重文)、右が頼朝の供養塔

ここで引き返すと心経堂、その奥には第二梅園があるので、梅の季節には見逃さないように。

てっぺん豊浄殿

坂を上ってそろそろ足が疲れてくる頃に、所蔵庫が見える。豊浄殿は石山寺の宝物殿だ。

リニューアルされた豊浄殿

石山寺は学問の寺とも言われ、数多くの史料が所蔵されている。季節ごとに特別展示があるので、見ないで帰る手はない。

ポスター 紫式部とほとけの道

豊浄殿から第三梅園を下ると見えてくるのが、建造年代が一様に古い石山寺にあって、とりわけ新しい伽藍の光堂だ。石山で創業した東レの寄進であり、2009年竣工で総工費2億4000万円也。思ったより安いけど太っ腹だ。個人的には東レミュージアムを作ってほしいんだけどな。いやはや、現代に社寺建築を新築するのは技能継承ができて意義深いことだ。

落成して間もない頃の光堂

光堂が建つ段畑にも四季折々の花が植えられている。特に牡丹には心を奪われた。

牡丹が咲いた、真っ赤な牡丹

狭苦しい源氏の間から解放されて日光浴を楽しむ紫式部がいた。

厚みがある紫式部

この順番で回れば、一筆書きに近い形で歩けるぞ。

ここまで来れば憂い無し

坂を下り切ると、最初の参道からまっすぐ行った一円に辿り着く。無憂園むゆうえんと名付けられた庭園は、花の寺にふさわしく目を楽しませてくれる植物が並ぶ。

無憂園に咲く花菖蒲

ちょっとしたワンダーランドになっているから、憂いを取り払い童心に帰って散策しよう。もう疲れたなら東屋があるので腰掛けると良い。

龍穴の池に佇む八大龍王社

無憂園の脇に位置する補陀洛山ふだらくさんと名付けられた丘には、観音像が並んでいて西国三十三所めぐりができるようになっている。面倒くさがり屋にはありがたい日本の寺らしいシステムだ。

山門方向に戻ると右手に密蔵院が見える。小説家の島崎藤村が若い頃にしばらく逗留したことで知られる。こんなエピソードがあるのも文学の寺と呼ばれる所以なのだろう。巨岩あり、美塔あり、四季の花あり。石山寺は訪れる者を決して飽きさせない。

おまけ

戦前に撮影された石山寺の貴重な映像があるのでご覧いただきたい。



次回は、石山寺の門前をぶらり。

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