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名物准教授とヤバい勉強会

思い出話をしよう。

大学の先輩に、松本健太郎さん(@matsuken0716)という方がいる。
JX通信社でマーケティングを担当する傍ら、日経ビジネス等で記事を執筆し、『大学生のためのドラッカー』( リーダーズノート,2011)『人は悪魔に熱狂する 悪と欲望の行動経済学』(毎日新聞出版,2020)など多数の書籍も出版されているスゴイ先輩だ。

その松本さんが先日寄稿された記事で、懐かしい名前を見た。

「学び続ける情熱を持て」とは、私の恩師である松谷徳八(元龍谷大学准教授)から約10年前に授かった言葉です。松谷先生は大阪芸術大学時代に「自主制作の映画を撮りたい」と相談に来た学生に「悩む前に手を動かせ!」と泣かすほど叱咤するような”変わった先生”で、私もその薫陶を受けました。何度泣かされたか。ちなみにその学生は後にアニメや特撮の分野で大活躍、映画「シン・ゴジラ」の総監督を務めた庵野秀明さんだそうです。

この松谷徳八先生、実は私もお世話になった「名物准教授」なのだ。
今回は大先輩・松本さんの記事に乗っかる形で、徳八先生が主催していたイロモノ勉強会の思い出を語ろうと思う。

「あそこに誘われるとえらい目に遭う」

当時私は文学部の一回生で、専攻の歴史学とは別に心理学系の講義も履修していた。
その中のひとつに、徳八先生が開講していた講義があった。
講義内容は、映画や舞台を見てレポートを毎回提出するというもの。
もう10年も前なので細かいところは覚えていないが、徳八先生のキャラの濃さだけは覚えている。

「自分で考え続けろ」「授業でグロい戦争映画なんて見せるなとクレームもくるが、そんなクレームには負けない」「自分で考えない奴がカルトにハマる」

松本さんの記事にもあるように、学生が泣くまで叱咤をかける、合わない人には絶対に合わない、変わった先生だった。
その変人っぷりは学内に知れ渡り、「あの先生の授業はヤバい」と言われるほど。

「あの先生はヤバい」と言われる所以のひとつが、徳八先生が開いていた勉強会――みどり勉強会だ。

誘い文句すら忘れたが、先生は毎回その勉強会に学生たちを誘っていた。
そして学生たちの間では、「あの勉強会はヤバい。誘われても行くな」とまことしやかに噂されていたのだ。

私は、そのヤバい勉強会に一年ほど在籍していた。

毎回ギッタギタにされる勉強会

みどり勉強会に行ったきっかけは、同じく徳八先生の講義を受けていた1個上の先輩からの誘いだった。

『OBの社会人も含め、いろんな人が集まって異業種交流会をしている』

当時意識高い系を拗らせていた私は、「なんか面白そうだし勉強になりそう」と食いつき、のこのこ付いて行った。

結論から言うと、なんのことはない、意識がガッチガチに高くて毎回ギッタギタのボッコボコにされる勉強会なだけだった。

週に一回、大学近くの「喫茶みどり」で行われるその勉強会では、学生たちが取り組んでいることなどをレジュメにして発表していた。
参加費は自分が飲み食いする分だけ。
「クリームソーダ一杯分で学びを得られる云々」と徳八先生がよく言っていた。
世話役といわれるリーダーが場を回しており、当時は松本さんが世話役だったはずだ。
(※松本さんからご訂正があり、世話役だったのは私の記憶違いでした……! 世話役と勘違いするほど存在感の大きい先輩でした。)

誰かが自分の取り組みなどを発表し、それについて意見交換する。
その意見交換が割と地獄だったと記憶している。

褒められている学生はいないんじゃないか? というくらい、毎回みんなダメ出しされる。
参加者は学生だけでなく、前述のように徳八先生ゆかりのOBなど社会人もいた。
特に徳八先生のダメ出しは辛辣で、自分に自信が持てない学生だとボッキリ心が折れていただろう(もちろん松本さんから学生への指摘も厳しいものだった)。

1、2回参加しただけで去っていった学生もたくさんいた。
ダメ出しといっても理不尽なものではなく、きちんと意見を拾ってインプットできれば自分のためになるものだった。
ただ、なんせキツイ。発表を聞いてる側もグサグサくる。

上手く意見を拾って次回に向けてブラッシュアップできる者や、雰囲気に折れない者だけが生き残っていった。

その壮絶さが部外者から見ると「ヤバい」と感じるものだったのだろう。

参加しているだけで意識「だけ」高くなる気がした

レジュメ発表は義務ではなく、「参加するならいつか発表しなさいね」程度だった。
特に発表するものもないしなぁと、とりあえず参加するだけ参加し、意見交換に混ざっていただけの私は、いつからか勘違いするようになった。

「みどり勉強会にいる私は、他の学生とは違う。一歩進んだ学生なんだ」

お分かりいただけるだろうか。中二病ならぬ大二病である。
自分では何もしていないくせに、話を聞いているだけで「成長している」と勘違いしていたのだ。
みどり勉強会に参加していたメンバーの中に、私と同じような学生は何人かいただろう。
雰囲気に酔っていた。自分はただ座っているだけなのに、「能力がある人たちに囲まれている自分、スゴイ」と思っていた。

徳八先生は口癖の如く「カルトに騙されるな」と言っていたが、みどり勉強会は徳八先生を教祖とした一種のカルトとも言えた。
自分の考えを持たない学生ほど「先生の言うことは絶対!」のような雰囲気があり、私も含めて徳八先生を崇める学生もいたので、カルト化してもおかしくはなかった(あんまり言うと弟子である松本さんに怒られそうだが)。

きちんと行動力と学ぶ姿勢を持った参加者なら、また違った見え方がしていたと思う。
意識高い系の学生にとっては「付いていけば違う自分を見せてくれそうな」教祖様だっただけで。

と、古巣を悪く言うような文章をまき散らしたが、個人的にみどり勉強会にいて正しく恩恵も受けた。
というか、真面目に行動した結果、ちゃんと形に残るものを勉強させてもらった。

国家資格をみんなで取ろう

ある日、徳八先生がこんな話を持ってきた。

「民間資格から国家資格に移行するものがある。移行初年度は合格ラインが甘いから、みんなで勉強して全員合格を目指そう」

その資格とは貸金業務取扱主任者だったのだが、私は興味を持てず、ほーんと聞き流しそうになった。
自分も参加するか、と決め手になったのは、徳八先生からの一言だ。

「倉本さん、家業継ぐんでしょ? 家業継ぐなら、今からお金の勉強はしておいたほうがいいよ。絶対に必要になることだから。自分が継いだ時のビジネスプランも浮かびやすいでしょ」

こんな感じのことを言われ、それもそうだと納得し、参加を決めた。
この時までお金や経営・経済のことは一切勉強してこなかったので、丁度よい機会だった。

みどり勉強会のメンバーで勉強法などを共有し、みんなで合格に向かって進む。
同じ目標に向かってチームで何かをするのは好きだったし、当時は資格の数=自分の価値みたいに考えていたので、「国家資格持ってる私カッコよくね?!」とアホみたいな気持ちもあった。

約半年ほどせっせと勉強し、一発合格。
「貸金と内容が掠るファイナンシャルプランナーや宅建を持っていると強い」という徳八先生からのアドバイスもあり、ファイナンシャルプランナーも勉強した。

この時も先生から「FPなら2級からが活かせるから、3級の勉強と並行で2級も勉強しなさい」と言われ、ふんふんなるほど、と勉強した。

みどり勉強会にいた約1年で、この体験を得られたのは良い財産だ。
経営者としての視点を持つという考えも、徳八先生に出会わなければ今でも無かったかもしれない(家業は業種的に『経営』の視点を持たない分野なので)。

フェードアウトしたその後

無事に貸金に合格したあと、自然とみどり勉強会からフェードアウトした。
嫌になったとかではなく、文化祭の実行委員になったことで参加する暇がなくなったのだ。

一度足が遠のくと「もう一度参加するぞ!」という気力が無くなり、結局みどり勉強会に復帰することは無かった。

ただ勉強会に誘ってくれた先輩からはよく話を聞いていて、『大学生のためのドラッカー』の出版経緯、準備過程などもこっそり耳には入っていた。

「おもしろそうなことしてるなぁ」「また参加したいな」と思っていても復帰しなかったのは、積極的にそこで何かをしたいというビジョンが無かったからだろう。

何かを真剣に取り組んでいる人にとっては良い勉強会でも、目的無く座っているだけの学生には受け身で終わってしまう。
ここまで記事を読んだ人には分かるように、勉強会の内容に関するエピソードが薄いのはそういうことだ。
せっかく為になる話を聞いていても、右から左に流してるだけだったのだから。
本人は聞いて実にしてるつもりでも、結局は何にも残ってなかった。
せめて一度でも勉強会でレジュメ発表していれば、語れることも多かったのかもしれない。

みどり勉強会に限らず、各学校での授業・セミナー・オンラインサロンでも同じことが言える。
受け身で参加しているだけでは、自分の実にならない。
コミュニティに属しているだけで「何かしてる」と錯覚はできる。
そこから本当に結果や成長を得たかったら、積極的に行動するしかないのだ。

徳八先生絡みで言えば、毎週映画や舞台を観に行かされてレポート最低3000字を課せられた経験は今に活きていると思う。
長文を書くのは苦ではないし、アウトプットするの前提で映画を観るようになった。
どんなZ級娯楽映画でも「記事にできそうな」切り口や視点を自然と探しながら観ている。

「レポート数と文字数に応じて図書カードを配布」と餌に釣られた形だったが、何でもいいから書いて出せ!! 精神は鍛えられた(書きまくった結果、5000円分の図書カードを貰えた)。

今の自分がみどり勉強会に参加したら、どんな感想を持つだろうか? 何を得るだろうか?
ボケーっと座っていただけの時と違って、積極的に良いモノを得られるのでは?

そう思い、元世話役の先輩に連絡を取ってみたところ、なんと今でも開催しているとのこと。
最近はもっぱらZoomでの開催らしいが、コロナが落ち着いて対面開催になった時には参加しようと思う。

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