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2021年、スタート

Retail Aiの辻(@long10lang)と申します。あっという間に2021年を迎えてだいぶ経ちましたが、改めまして本年もよろしくお願いいたします。

 さて、昨年2020年はなんといっても新型コロナウィルスの影響がとても大きかったですよね。期待されていた東京オリンピックも延期されましたし、自分たちが望む望まざるにかかわらず、日常は大きく行動変容を強いられる一年となりました。ぼく自身もご多分に漏れず確実にそのうちの一人でしたので、僭越ながら自分の身の回りのことを少し振り返ってみたいと思います。

外出しない生活

「あぁ、電車通勤はしんどいわ。リモートワークだけで暮らせたらいいのに・・」思い返してみると、一昨年以前はよくそんなことを妄想していました。特に朝の満員電車がほんとに嫌でした。「なんでこんな見知らぬ他人と密着して、毎日毎日辟易しながらオフィスに集合することに一体なんの意味があるのか?」おそらくそんなふうな疑問を感じていたのはぼくに限った話ではないでしょう。ところが不意にその願いが叶って外出しない生活が到来すると、相当混乱するかと思いきや意外とすんなり受け入れられた気がしています。元々そんなに外出好きな方ではありませんでしたが、特に仕事に関して言えば、毎日出社していた頃と比べても、デメリットよりむしろメリットに感じることが多かったようにさえ感じています。

買い物と食事の「めんどくさい」

 続いて買い物と食事についてです。巣ごもり需要なんていう言い方をされてましたが、家で食事をとる機会が格段に増えた方も多いんじゃないかと思います。ぼくもリモートワークがメインになってからは昼ごはんも家で食べてますし、夕飯も割りと早い時間に食べられるようになって、以前と比べて健康的な食事のサイクルになったような気がしています。このように食事の面では良いこともありつつ、その一方ではこれまでになかった「めんどくさい」点も増えたように感じています。なによりまず、自分たちで食事を用意する機会が増えたというのは、まあ「めんどくさい」です。これは調理というプロセス自体が増えたという「めんどくさい」に加えて、買い物に出掛けるときには、マスクをしたりアルコール消毒をしたりと、新型コロナ感染への注意を払いながら慎重に外出しなければならないという新たな「めんどくさい」が追加されたことが大きな要因です。お店で野菜を選ぶ時も気にされる方だったら、なるべく品物に手が触れないように気を配る方もおられるでしょうし、レジ待ちでマスク越しとはいえゴホゴホ咳き込んでいる人など見かけると、なんとなく訝しく感じてしまって、思わず2、3歩退き距離を取るといった日常の小さな「めんどくさい」が増えたような感じがしています。このような小さなストレスが重なって、この先の平和な日常に影を落とすというようなこともあるんじゃないかと思ったりしています。

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Retail Aiって何?

 さて、ぼくのつまらない話はさておき、弊社はリテール(Retail)と人工知能(AI)を掛け合わせたRetail Aiという会社です。リテールという言葉は聴き慣れない方も多いと思いますが、日本語にしますと広い意味で小売業のことを指します。つまり、スーパーやコンビニといったぼくたちが普段「買い物」をしている、いわゆるお店全般のことです。しかしまあ一口にお店といってもいろんなお店がありますよね。スーパーやコンビニ以外にもデパートやホームセンター、100円均一ショップなんかもありますし、駅の売店、アパレルショップ、精肉店、鮮魚店、米屋、八百屋、パン屋、カーディーラー、家電量販店などなど、様々な商品を様々な形で販売するお店がたくさんあります。2007年と少し古いデータではありますが、経済産業省の報告によると、日本全国の小売業商店の数は約142万店という膨大な数に及ぶそうです。コンビニだけでも2019年時点で約5万7千店あるらしく、それにしても全体の4%程度だと考えると、いかに日本のお店が多岐に渡り国内需要を下支えしているかご想像いただけるのではないでしょうか。

小売業の課題1:人口減少

 そんな小売業ですが、実は非常に困った問題も多く抱えています。その中で最も大きな問題の一つが日本における人口減少です。

国立社会保障・人口問題研究所推計

 こちらのグラフ(出典:国立社会保障・人口問題研究所推計(出生中位・死亡中位))をみるといつも恐ろしくなるのですが、日本の人口はこのままいくと減少の一途を辿ることが予測されています。人口が減れば需要も減り、つまりそうなればお店の数も140万店も要らないということになり、段々とお店は減っていくということになります。

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 また、こちらのグラフ(出典:トライアルカンパニーによる推定値)では特に食品スーパーの主要顧客層に着目したときに、現在はいわゆる団塊世代と呼ばれる年齢層(70〜73歳、2020年時点)を含む比較的高齢な方々が客層に多く含まれていますが、この先10年もすれば人口推移によってこの年齢層の方々の来店が難しくなることが予測されています。これによって、食品スーパー全体の売り上げが減少することが危ぶまれていて、流通業全体の売り上げ低下に警鐘が鳴っている状態です。

小売業の課題2:ムダ・ムラ・ムリ

 2つめの課題がムダ(無駄)・ムラ(斑)・ムリ(無理)です。これは小売業に限った話ではないのですが、小売業を含む日本の流通業全体には多くのムダ・ムラ・ムリが存在していまして、ある試算よると数兆円から数十兆円がムダ・ムラ・ムリのせいで失われているという推定すらあります。古くから続く謎の商習慣や場当たり的な対応などが今も多く残されていて、それらの業務を多くの担当者がKKD(勘と経験と度胸)で運営しているため、労働集約的かつ属人的作業がとても多い状況を生んでいまして、これがさらにムダ・ムラ・ムリからなかなか脱却できない一つの要因となっていると考えられています。

小売業の課題3:老朽化システム

 近年、特にここ数年でテクノロジーは大きく進化しました。大手Public Cloudベンダーからは便利なマネージドサービスが提供されしのぎを削っており、コンテナ技術の進化によってポータビリティの高いシステムを気軽に構築・運用できるようになりました。さらに、マイクロサービス化、オーケストレーションといった高可用性構成がテクノロジーの進化を加速させているといえます。AIの分野においても、これまで研究や実証実験レベルにすぎなかったものが、より実用的で低コストに配慮した成果がますます発表されるようになり、GPT-3といった高精度なソフトウェアまで登場してきています。ほんの数年前までは、それなりに障壁の高かったAI、機械学習、深層学習といったものは、一つのサービスとして便利に提供され、技術を全てを理解しなくても容易に利用できるという民主化の波にほぼ覆われたと言っても過言ではないと思っています。

 そんな中、一方で小売業に関して2025年の壁と呼ばれる老朽化システムの問題があります。昨今ではDX(デジタル・トランスフォーメーション)などのキーワードとともに課題意識だけは取り沙汰されていたのですが、ここに来てコロナの影響でDXは加速したとも言われています。ただ、実際のところは、このグラフ(出典:一般社団法人日本情報システム・ユーザ協会「デジタル化の進展に対する意識調査(平成29年)を基に作成」)にあるように多くの企業は老朽化したシステムを抱えたままというのが実状です。特に流通業界においては約8割の企業が老朽化システムを抱えながら、どのようにそれらをモダンな環境へと変革していくか方針さえも定まらないという状況にあります。

デジタル化の進展に対する意識調査

Retail Aiの掲げるミッション

 ここまで小売業の抱える闇ばかりに目を向けてきましたので、なんだか日本の将来は暗いという印象を持たれた方も多いと思います。人口はどんどん減ってお店も減り、古く老朽化したシステムだけが遺跡のように残った未来。日本は世界の産業から取り残され、かつての栄光は忘れ去られ、ひっそりと歴史の影に消えていく、みたいな世界。

 ぼくたちはそんな世界を望みません。日本はもっともっと発展して、かつてのJapan as No1と呼ばれた時代を取り戻したい。だからこそ、そんな未来を今から変えていきたい、まるで猫型ロボットがやってきて、不幸な未来を変えるために現在のだらしない自分を変えていくように、小売業の抱える課題に対してITとAIの力で立ち向かう、これこそがRetail Aiが抱えるミッションだと考えています。

 しかしここでみなさんはきっとこう思うでしょう。「ITとAIだ?そんなの昔からよく聞く話だし、Retail Aiとかいってどうせバズワードだけで中身はたいしたことないんでしょう?」そんなふうに感じられるのもごもっともだと思います。そこで、ぼくたちの取り組みについて2、3具体的な事例をご紹介させてもらいたいと思います。

スマートショッピングカート

 スーパーで買い物するときに、ショッピングカートを利用されることも多いかと思いますが、このカートで商品をピックアップしていく時にその場で決済できればレジに並ぶという「めんどくさい」を解消できる。そのような発想からこのスマートショッピングカートは生まれました。現在はTRIAL社と他の小売業で数千台稼働している状況です。ご高齢の方からも便利に使っているという支持をいただいています。

 使い方は、まずこのようにカートに付属しているタブレット画面から自分のプリペイドカード情報を読み込ませることで利用します。

カートログイントリミング

 商品を買うときは、このように自分で商品をスキャンすればその場で購入完了になります。子供たちは「わたし、ピッってやりたい!」とお母さんにねだって買い物を楽しんでくれてたりしますね。

商品スキャンアリエールトリミング

 スマートショッピングカートを導入してもらうと、レジに並ぶという「めんどくさい」を解消できると同時に、スマートショッピングカートに備わっている多種多様な機能を使うことができるようになります。

 例えば、自分が過去に購入した商品の中から、そろそろ使い切ってそうな商品を予測して、「そろそろこの商品買い足した方がよくないですか?」といったレコメンドをタブレットに表示したり、買い物の傾向を分析して「こういう新商品が発売されたので、きっとあなたの好みだと思いますよ。」といったお知らせを表示することができます。

 または、そうした商品を好んでもらえそうなお客さんたちに対して、メーカーさんからは「クーポンを差し上げますので一度御賞味ください。」と販促に利用することもできます。

 このように、これまでスーパーのカートといえばただカゴをのせて商品を運ぶだけの道具だったのが、この道具に目(スキャナーおよびセンサー)と頭(タブレット)を付けることによってお客さんとの接点を急激に広げることができると考えています。

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 さて、お客さんが便利になると共に、小売業側にもデータという点で確かなメリットがあります。スマートショッピングカートを利用することでお客さんの行動データが取得できるようになりますので、お客さん自身も知らず知らずにやっている「潜在的な行動」を知ることができます。

 たとえば、とあるお店で「バナナ」を買った後に中央の島陳列(通路に積み上げた商品陳列棚のこと)の左側を通過して「コーンフレーク」を買う、という人流が多かったとします。その場合考えられる因果推論としては、島陳列の左側に「コーンフレーク」があるから左側を通過する人流が多い、あるいは元々「バナナ」を買う人が「コーンフレーク」を同時購入する人が多いので、左側を通過する人が多いと2通りが考えられると思いますが、それらをデータを用いて明確かつ再現性を持って分析することができます。

 こういった分析結果を蓄積していくことで、店舗レイアウトの最適化や、相性の良い併売商品を見極めることができるようになります。つまり、小売業側にとってスマートショッピングカートを導入することは、お客さん自身も知らない本当のニーズを獲得するチャンスを得られるといえます。

リテールAIカメラ

 次にリテールAIカメラをご紹介します。カートはお客さんと直接接点となる道具ですが、スマートショッピングカートだけではどうしてもお店の状況をすべて理解するというのは難しい話です。そこでスマートショッピングカートと併せて重要になってくるのがリテールAIカメラになります。

AIカメラ

 この小さなカメラをお店のいろんな場所に設置して、お店の中の様子を定点観測しながら状況を把握するというのがリテールAIカメラの基本的な役割になります。ベテランのパートさんでさえ見過ごすような場面を一部始終撮影することで、さらに詳細なお店の状況を把握できるようになるというわけです。

 ただ撮影するだけなら監視カメラの役割と変わらないのですが、そこはAIカメラと称している以上もう少しスマートなことが可能となります。例えば、こちらは定番の棚の欠品を検知している様子です。仕組みとしてはまず、棚板を検出して、棚ラベルを読み込み、欠品位置を検出して、欠品している商品と段列を特定して棚割り(どの棚にどの商品を陳列するか)とマッチングすることで、商品を特定するというロジックで検知しています。

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 また、こちらは商品に対するお客さんの行動をタグ付けしている様子です。とある商品について、そのお客さんは素通りしたのか、興味を示して注目していたのか、手を伸ばして接触したのか、スマートショッピングカートで購入したのか、といったお店内でのファネル分析を行うためにリテールAIカメラを利用した実験を行っています。

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データの利活用

 スマートショッピングカートやリテールAIカメラを導入することでデータが取得できるようになり、それなりにデータ活用はできますが、それだけではお客さんの「めんどくさい」に十分に応えることはできません。お客さんが潜在的に求めている価値を知るためには、取得したデータを分析しその結果からさらに深い考察を見出していく(探索的データ分析)必要があります。そのためにはデータの利活用が欠かせません。

 こちらの図で示しているのは、データ活用とデータ利活用の違いについてRetail Aiにおける考え方です。付加価値を得たデータをさらに活用してこそ、真のお客さんニーズに辿り着けると考えており、そのサイクル自体をデータ利活用と捉えています。

データの利活用

 さらに、データの利活用サイクルを複数組み合わせたものが事業であり、事業のエコシステムを構築していきます。そこには、スマートショッピングカートやリテールAIカメラのデータだけでなく、ID-POSデータやセンサーデータ、GPSデータ、オンラインでの行動データなどなど、ありとあらゆるデータを利活用することによって付加価値を提供できる様々なプロダクト開発を行っています。また、プロダクト開発で得た知見やデータをさらに事業の改善へとつなげていくために科学的なアプローチを行っています。

科学的なアプローチ

 このようにあらゆる場面あらゆるフェーズにおいて、データを利活用する組織・文化・サイクルを生み出すことで、結果的に不確実性を下げることが可能となり、お客さんや流通業が潜在的に解決を求めている課題に対して、より具体的に向き合っていくことが可能になると考えています。

データ利活用

まとめ:ホールプロダクトとしてRetail Ai

 Retail Aiはスマートショッピングカートを作っているだけの会社でもリテールAIカメラを作っているだけの会社ではなくお客さんファーストの会社です。スーパーで買い物するお客さんがよりよい買い物体験をするためにはどうすればいいのか、このまま老朽化したシステムを抱えて薄れゆく小売業をどうすれば活性化していけるのか、そのことを常に念頭において行動しています。つまり、ぼくたちにとってITとAIは単なる手段であり、目的はそこではありません。

 個別のプロダクト開発の先には、単なる利益の獲得があるのではなく、お客さんへ価値を還元するために必要なプロダクトをすべて、それを必要とするお店に提供するというホールプロダクトとしての考え方です。こうしたRetai Aiの考え方にご賛同頂ける方、あるいは企業様とは是非一緒にやっていきたいと考えておりますので、ぜひぜひご連絡頂きたいと考えております。そして最後に、2021年も楽しい買い物体験を提案できる未来を作れるよう努力していきます。本年も何卒よろしくお願いいたします。

 ここまで駄文にお付き合い頂き、どうもありがとうございました。もしご興味を持っていただいた方は、Retail Ai関連書籍をお読みいただけるとさらにご理解いただけると思いますのでよろしければご一読ください。

 また、弊社Retail Aiではデータサイエンティスト、エンジニアを絶賛募集中です。データ分析をしてお客さんに付加価値を還元したいという方や、業界全体に価値のあるプロダクトを提供したいという方はもちろん、そこまでではないにしても、ちょっとだけ興味もったので話してみたいという方は是非ご連絡ください!お待ちしておりますー