見出し画像

なぜ現役世代を活用しようと思わないのか。


高齢者が活躍できる社会の次は外国人?

 外国人労働者の特定技能対象に、バス運転手を追加することを検討しているという、かつて交通産業に携わっていた身としてはヤブからスティックな話を、国交省が会見で発言したらしい。

 タクシーやトラックを含め外国人材の活用を目指すとのことで、先日、個人タクシーの上限年齢を地方部に限り80歳まで容認する意向を示して物議を醸したばかりにも関わらず、今度は外国人労働者と人手不足が深刻なのは見て取れる。

 言わずもがな、2024年問題は物流業界に限らず、バス業界にも影響が出る。残業時間を年間上限960時間に収めようとすると、現行の人員だけではとても足りず、人手を増やすか減便するかの二択を迫られ、ほぼ全ての事業者が後者を選んでいるのが実情である。

 冷静に考えて残業規制の年間960時間は、月換算で80時間と過労死ラインギリギリだが、裏を返せば24年度に厳格化されるまで、月の残業時間80時間超がまかり通っていた訳である。

 交通産業の場合、年間休日104日が標準で、実働が8時間とか7時間45分なのだから、残業がない場合の年間の所定労働時間が2,000時間超となる。それに加えて年間960時間の残業でも、要員不足を埋め合わせられないのは、構造上の欠陥としか言いようがなく、現場レベルで対処できる問題ではない。

 所定労働時間の1.5倍働かなければ回らない現場をサラリーマンで例えるなら、毎回実働12時間の勤務をしているのと変わらない訳で、それでいて休みは祝日は関係なく、シフトで週に2日割り当てられる104日のみ。しかも休日出勤で清算されることが往々にしてあるため、有給を加味しても年間で104日休めているのか怪しい。

 そんな激務かつ、人命を預かる重積な割に、若手だと薄給で手取りが20万円超えない事業者の方が恐らく多く、現代版奴隷制度と揶揄されても仕方がない状況で、それを外国人労働者に押し付けようとしている魂胆が見え見えなのが解せない。

現役世代の置き去り感。

 以前にも記しているが、公共交通機関は公共事業の一角でありながらも、多くは地方公営企業ではなく、民間企業が担っており、営利目的で事業を営む点で公共性と相反して相性が悪い。

 先述した所定労働時間のおよそ1.5倍まで働かせることができる、現代版奴隷制度を加味しても人手が足りていないことを、構造上の欠陥と記したのも、公共性と営利性の相性の悪さに他ならない。

 公共交通機関の運賃はヤードスティック方式により、適正な原価かつ、最低限の利益しか得られないよう規制されており、値上げをするのに国交省の承認を得る必要がある。

 これにより、無駄の極みな怠慢経営の結果、初乗りが1,000円みたいな事態が起きない意味で、利用者にとって短期的にはメリットだが、事業者側からすれば、経営の鉄則である単価×数量で、単価の天井が決まっており、数量は人口減少で増加が見込めないのだから、基本的には減収路線となる。

 営利企業である以上、利益を増やすために事業を行っているのだから、収益−費用=利益の構図から考えるに、収益は減少傾向。

 利益を増やしたいなら、残る費用を収益減よりも削る他なく、これが従事者からすれば薄給激務の温床となっており、それが人手不足からの減便と、利用者にも長期目線でデメリットが生じる。

 この傾向がバスやトラックよりも、比較的マイルドと言われている鉄道ですら、私のように詰んでいる構図に気付いた若手から業界を去っているのが現状である。

 本来であれば、現役世代がここなら長く勤められそうだと思えるような、待遇改善に本気で取り組むのがあるべき姿だが、現状の貧乏クジを高齢者や外国人に押し付ける体たらくでは、根本的な問題は解決しない。

 2030年度にバス業界全体で3.6万人不足すると嘆いておきながら、国は完全失業者186万人を持て余しているのだから、当事者からすれば置き去りにされている感覚が否めない。

安全は金食い虫だが、経費削減は命取り。

 働き手が居ないのではなく、誰も奴隷労働をしたくないだけで、労働者にも選ぶ権利はある。日本国憲法第22条の「居住・移転および職業選択の自由」がそれに当たる。

 しかし、この22条のアタマの部分にある移転の自由、つまりは移動する権利も同じ条文で定められている訳で、これを満たすためには公共交通機関が必須で、それが現代版奴隷労働によって維持されている現状は不健全だと思わないだろうか。

 なにより現役世代が誰も寄り付かなくなったからと、貧乏クジを高齢者や外国人に押し付けたことで、最も危惧すべきなのは、現在の安全水準が保持できるか否かだろう。

 人間は加齢とともにあらゆる能力が低下するため、高齢ドライバーで移動権を保障していると言われても、本当に大丈夫なのか疑問である。

 外国人労働者に関しても、別に途上国の人間が能力的に劣っているとは思わないが、英有力紙に在日ライターが「低賃金に言語の壁…そんな日本で働きたい外国人なんてまだいるの?」と寄稿されたように、わざわざ難解言語の日本語を習得する優秀さがある人ほど、日本を選ばないだろう。

 結果として、他の先進国で出稼ぎできるほどのスキルは持ち合わせていないが、自国よりは賃金が高いため、仕方なく日本で出稼ぎする外国人労働者に偏ると思われ、日本語すら儘ならない人が、交通ルールを覚えて、しかも人命を預かる職種で、果たして安全を担保できるのか?

 安全対策は直接利益に結び付かず、経営目線では金食い虫だが、それらを蔑ろにしてコストカットを重ねたことで、尼崎の脱線事故のような悲劇を起こしてからでは取り返しがつかない。

 待遇の大幅改善で短期的にはコストが掛かっても、長期目線ではネイティブの現役世代を活用した方が、結果として安上がりだと思うのは私だけだろうか。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?