いつだってあのオレンジの光を探している
私たちの行き着く場所はオレンジ色をしているのだと思う。行ったことも見たこともない景色だが、橙色の夕日を揺蕩う水面が照らし返しちらちらと光る。その水は湖なのか、海なのか、実在する場所なのかもわからないが、そんな光景に思い焦がれている。
冒頭で"私たち"なんて馬鹿でかい主語を使ってしまったが、これはきっと海なし県に暮らし続ける私のくだらない執着なのかも知れない。というか絶対そう。
不思議なもので私は、幼少期から海が好きで海に憧れてきたが、群馬に生まれ学生時代は埼玉で過ごし、現在は長野県に住んでいる。ものの見事に内陸暮らしだ。日本には海なし県の方が少ないのに、わざと海のないところを狙ってるんじゃねーか?って思われるぐらい海に縁がない。群馬で生まれること以外は、不可抗力じゃないのに(長野県にいるのは会社の都合だが、本気でイヤならやめりゃ良いんだからね)私の母親も同類で、いつも「海が見たいよ、海水に足を浸してみたいよ」などと言っている。なお、群馬から離れた事は無い。
私のあのオレンジの水面への執着は結構なもので、思わぬところで気持ちが噴出し、恥ずかしい思いをしたことがある。
私は大学時代、無印良品でバイトしていた時、展示品の片付けを担当していた。その展示品の中に「アロマディフューザー」と言うものがある。
店舗で見たことある人もいると思うが、ドーム状の筐体からアロマオイルが香る霧をもくもくと吐き出す、加湿器(厳密にはちょっと違うけど)のような商品だ。
私はこれを片付けるのがとても嫌だった。なぜかって?カバーを外した時の姿がそっくりなんだよ、あの光景に。
カバーを外すと、霧の素となる水をセットするプールになっている。そこにアロマオイルを数滴垂らすと良い香りの霧になるってわけ。問題なのはこのディフューザーがオレンジ色に光るってところだ。
初めて見たとき思わず泣きそうになってしまった。プラスチックの枠の中で、ブクブク揺蕩う水面がオレンジ色に輝いている。これだって思った。憧れていた光景は、少しモヤがかかって幻想的ですらあった。(そりゃそういう機能のマシンだからね)
加湿器を片付けながら、1人で感極まっている鬼太郎なんて誰も見たくない。気持ち悪がられるから堪える。でもなんか泣けてくるんだよ、恥ずかしいなぁ。
冷静に考えてみるとこの光景はおそらく、小さな時にテレビか何かで見た、夕日が沈むビーチの映像なのだろう。旅行会社が作ったハワイとかジャワ島ツアーの宣伝だったのかもしれない。
不思議なもので、この空の下には私が無駄に泣くほど焦がれている光景を、毎日目にする人が山ほどいる。そりゃあそうだ、そこで生まれ育った者にとっては何でもない日常に過ぎない。私の生まれた町でピカピカ光るパチンコ屋やラブホの看板と何ら変わりはない。憧れの尺度は遠さなのかな。
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