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理系大学生の卒業研究で示すべき「新規性」とは? ~分野別の例と、研究を進めるうえでのポイント~
はじめに
大学の理系学部における卒業研究(卒論)では、学会やトップジャーナルのようなレベルの“革新的な大発見”は必ずしも求められません。しかし、「自分なりの視点で既存の研究に新しい要素を加えたり、問題解決のための独自の工夫を行ったりすること」は大切です。これを “卒論レベルでの新規性” と呼ぶことができます。
本記事では、理系の大学生一般に向けて、「卒論で求められる新規性はどの程度のものか」「どんな例なら新規性と認められるか」を分野別(化学・情報・物理など)の例をまじえて解説します。最後には、一見“新規性がありそう”でも実際には評価されにくいケースや、新規性を示すためのヒントも紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
1. 大学卒論レベルで求められる「新規性」とは?
研究そのもののインパクトが必ずしも世界規模でなくても、既存の知識・技術をよく理解し、それを土台に“ちょっとした独自の改良”や“新しい切り口の実験・応用”を行うことが大切です。卒論の場合、“学生がそのテーマを通じてどれだけ学び、論理的にまとめられるか”が評価される部分も大きいため、以下のポイントを意識しておくと良いでしょう。
先行研究や理論を踏まえたうえで、自分ならではの工夫やアレンジを加える
既存の論文・データ・手法の再現だけでなく、「実際にやってみるとこう改善できるのでは?」という着想を形にする。
なぜそれが重要か、なぜその方法が有効かを論理的に説明する
教科書的な理論や先行研究の知見と照らし合わせ、検証プランを組み立てる。
実験やシミュレーション、解析を“丁寧に”行い、結果を考察する
想定通りにならなかった結果にも意義や学びがある。問題点や改善策を整理して示すことが、卒論での評価につながる。
2. 分野別「新規性」の具体例
2.1 化学分野の例
例1:既存の合成法を最適化して副生成物を減らす実験
ある有機合成反応で報告されている手順に対して、触媒の種類や反応温度、溶媒の組み合わせを変更し、副生成物の量を大幅に減らせる条件を探る。
なぜその触媒・溶媒を選んだのか、文献調査を通じて根拠を提示し、実験結果とともに考察すれば、立派な新規性になる。
例2:新しい分析手法の応用・比較
従来はガスクロマトグラフィー(GC)で行っていた分析を、最近注目されている質量分析法やNMR技術で比較し、それぞれの利点・欠点を整理する。
自前で測定方法を組み合わせて解析したり、試料の調整法を工夫したりすることで、先行研究にない細かいデータが得られれば新規性になる。
例3:環境に配慮したグリーンケミストリーの提案
ある化学プロセスで排出される有害物質を低減するために、溶媒をより環境負荷の少ない物質に変えたり、廃液リサイクルの方法を模索したりする。
「なぜこれが環境負荷低減につながるか」を化学的に整理し、定量的に成果を示せば評価される。
2.2 情報(コンピュータサイエンス)分野の例
例1:アルゴリズムやプログラムの部分的な改良・高速化
既存の画像処理アルゴリズムに対し、データ構造や並列化手法を見直して実行時間を短縮。
「高速化率がどの程度か」「どんな環境で有効か」を丁寧にまとめ、理論・実装の両面から考察すれば新規性とみなされる。
例2:実世界の問題に対する新しい応用や独自のデータセットの作成
例えばネットワーク解析を社会システム(交通網やSNSなど)に応用し、特定の指標を分析する。
「どんなデータをどう取得し、なぜその指標が有効か」の説明を加えれば、応用研究として十分評価される。
例3:複数の技術を比較して評価する実験
学習モデルやデータベースシステムなどを同じ条件下で比較し、精度・速度・スケーラビリティを検証。
「どのような場面でどの手法が適しているか」といった提言があると、新たな知見を与える研究となる。
2.3 物理分野の例
例1:既存理論を使った数値シミュレーションで新しいパラメータ領域を探る
流体力学や材料物性に関する方程式モデルを、パラメータを変えながらシミュレーションし、相転移や臨界現象などを観察。
従来の研究と異なる領域(極限高温や特殊形状など)を狙うことで、未報告の振る舞いを見出す可能性がある。
例2:実験装置の自作・改造による新現象の観測
たとえば光学実験で、レーザーの波長や光路設計を少し工夫することで、既存実験では観測されなかった干渉パターンや回折像を得る。
「装置設計の違い」「理論的背景」をきちんと説明できれば、新規性を主張しやすい。
例3:実験精度を上げるための測定方法・解析方法の改良
ノイズ対策や統計誤差を減らす手法を導入して、高精度に物理量を測る。
既存研究との比較で誤差がどれだけ小さくなったかを定量的に示すのがポイント。
3. 一見新規性がありそうでも、実はそうでない例
既存の教科書やチュートリアルをそのままなぞっただけ
設定を変えずに文献どおりやって結果を出しただけでは、誰でも再現できてしまう。
新たな検証や条件設定が無い場合、オリジナリティが乏しい。
パラメータを少し変えただけで終わり
温度や濃度、コードのハイパーパラメータなど、数字を変えただけで違いを並べただけの場合。
“なぜそのパラメータを選んだのか”“理論や機構の観点でどう影響するのか”が説明されていないと評価は低い。
再現実験や追試で新しい発見がない
「先行研究を追試したが、ほぼ同じ結果が出ました」で終わる場合。
追試自体は研究において重要ですが、“元論文では言及されていない○○がわかった”などの新しいインサイトがないと新規性は弱い。
単に大量のデータや計算資源を使って数値を改善
計算機を高性能にした結果、わずかに精度が向上しただけでは“発見”とは言いにくい。
「なぜ大規模計算で得られる知見が重要なのか」「理論的にはどんな意味があるのか」を示さなければ評価されない。
4. 新規性を示すためのヒント
先行研究の整理をしっかり行い、差分を示す
「既に何が分かっていて、どこに課題が残っているのか」を文献調査で把握。
「自分はここを掘り下げる」「この条件を変える」など、研究の独自性をはっきりさせる。
“どうしてそれが有効そうか”の根拠を示す
小さな工夫でも、論理的に説明できれば十分に意義がある。
「先行研究Aの方法を応用すれば、Bの現象を定量化できるのでは」というように具体的に考察する。
実験や解析は“丁寧に”
たとえ結果が予想と異なっても、“なぜそうなったか”を理論やデータから考察すると、独自の発見になる。
誤差要因や限界、今後の展望をきちんと書いておくのも研究として重要。
必要に応じて複数のアプローチを組み合わせる
実験+シミュレーション+文献考察など、いくつかの手段を併用すると説得力が増す。
計測系の研究であれば、複数の機器や分析手法の比較なども良いアプローチ。
まとめ
理系の大学生が卒業研究で示すべき新規性は、既存知見の“ほんの少し先”や“ちょっと違う切り口”でも問題ありません。ポイントは、“それをどうして取り組むのか・なぜ有効なのか”を論理的に組み立て、実験や解析を丁寧に行って考察することです。
分野によって研究手法や常識が異なりますが、どの分野でも「先行研究を理解したうえでの独自の工夫や発見」に着目すると、卒論としてのオリジナリティが生まれます。
一見それらしく見えても、教科書やチュートリアルの丸写し、単なるパラメータ変更、追試だけに終始してしまうと新規性とは認められにくいので注意しましょう。
最後に、卒論は研究活動の入り口です。小さな工夫や改良でも、しっかり理論づけして結果をまとめれば、新規性がしっかり評価される立派な研究になります。ぜひ自分らしい視点や好奇心を大切にしながら、卒業研究に取り組んでみてください。
p.s. カバー画像をジブリ風の画像にしたかったのですが、最近よく使ってる画像生成AIサービスのImage FXだと、「ジブリ」というキーワードが入っていると弾かれてるしまうため、別の言い方でジブリを表現して何とか生成に成功しました…!!
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