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✦子どもたちの未来を守る【前編】 社会全体を支える大切なインフラ✦

✦子どもたちの未来を守る〜社会全体を支える大切なインフラ✦

「僕には妹がいて、その妹には2歳になる小さな娘がいます。つまりは僕の姪に当たるわけですが、その子の通う保育園が先日、休園になってしまいました。
妹夫婦はバリバリ働いていて休めないので “一時的に、高齢の両親の家を保育園の代わりにして” という日々が続きました。
その騒ぎを話で聞いた時に痛感したのは、保育園というのは、小さな子どもたちの成長を助けるだけでなく、働く親や祖父母の老後の自由にまで広く資する “重要な社会インフラ” なのだなという事でした。
そういう一件もあって今日は、西葛西の『おれんじハウス西葛西保育園』の園長・中陳亜希子さんに『保育園は今どの様な状況にあって、そこではどの様な取り組みをされているのか』などのお話を伺えるのをとても楽しみにして来ました。どうぞよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」

✦ここに保育園があって、開いていることの意味

「野咲さんのご家族の様な例は、この頃ではとても増えていますよね。
ご実家とか、預ける先があれば良いんですけど、中にはそうでない方もいらっしゃいます。
そうした場合には自分たちで見なければいけないので、お父さん・お母さんが交互に会社を休んで交代制で見たりとかされています。ズームなどオンラインを使って在宅で仕事されている方も多いですけど、特に0〜2歳など、まだ一人では遊べない年頃のお子さんだったりすると、とても仕事どころではありませんよね。
なので “少しでもいいから預けたいです” という親御さんたちの声は本当に多いですね」

「なるほど。うちのケースは実家に頼れた分だけ、まだ幾分かは良かったとも言えるわけですね」

「もちろん大変だったとは思いますけど、そうなんですね。
やはり保育園というのは福祉事業であって “本来、止めてはいけないもの”なんです。そういう問題意識や行政の対応については、第6波になってから漸く変わって来たかなとも思います。
前回(第5波)はそれを完全に止めてしまった事によって、例えば虐待の件数なども、報告されている範囲だけでもだいぶ増えてしまいました」

「休園の判断というのは、こちらでするものなのですか?」

「いえ、それは保健所・区役所の側の判断になります」

「なるほど “保護者の方たちの望む声があるからうちは開けます” というわけにもいかないんですね」

「そうなんです。ただ、ここ江戸川区に関しましても、『濃厚接触者』という定義をあまり厳密にし過ぎないことで “なるべくお子さんたちをお預かりできる様に” という形にしてくれる様になりました」

「自治体の側も、実情になるべく合わせる形で柔軟に変化してきたという事ですね」

「そうですね。“子どもを預かって貰えないことの大変さ” というのは、なかなかすぐには分かってもらえない所もありました。
そしてそれは、実は私たちにとっては、コロナになる前から直面していた大きな問題でもあったのです」

“コロナ渦の前から” ですか?ぜひ詳しく聞かせて下さい」

「私の息子(6歳)は、『医療的ケア児(医療的ケアが日常的に必要な児童)』なんです。いざ保育園へ預けようとして分かったんですが、簡単には受け入れて貰えないんですね。かなりの数を当たるまで、行く場所が見つからなかったんです。園としては対応できる看護師さんが必要だったり、様々な背景がありました。
なので私たちは、『そうした子どもたちが、保育園をはじめとして、普通の施設を使えない』という社会課題に取り組んで来たという経緯がありました。
受け入れてもらえないということは、自分たちで見るしかない。
“仕事はどうしよう” 、 “この子の将来はどうなるんだろう……” 
そうやって、ご家族の方が、経済的にも精神的にもどんどん追い詰められて行ってしまう。そういう姿を、コロナの前からたくさん見てきたんです」

「ご自身も当事者として “あらゆる方たちに開かれた保育園” というものの実現に取り組んで来られたのですね」

「はい。そうした活動があり、数多くのご家族の方々の頑張りの甲斐もあって、『医療的ケア児支援法』というものが遂に昨年9月に施行されました。
これによって、自治体の取り組み方に大きな進展が期待できます。また私たちの園でも、そうした医療的ケアが必要なお子さんのお預かりをするだけでなくて、ここでの経験を活かして、そういう子たちを見てあげられる看護師や保育士を他の保育園に派遣したりもしています」

「とても素晴らしい取り組みですね。 “子どもを預かってもらえない親の大変さ” というものを、中陳さんは、パンデミックの騒ぎになる前からご自身の体験としてよく理解されてきたのですね」

「そうなんです。だからこそ、例えばこのコロナ渦にあっても、小さなお子さんを持つ親御さんの生活や活動が滞ってしまわない様に、園を開ける限りは、地域のご家族の支えになり続けて行けたらと思っています」

「 “保育園が開かれていることの大切さ” について、とてもよく分かりました」

✦子どもたちに起きていること

「少し聞きづらい事を伺いますが、こちらでも、園を一時的に閉じられたことはあったのでしょうか?」

「そうですね。休園は一度だけありました。全体ではなく、部分休園なんですけど。保育士の一人が感染してしまったんです」

「そうなってしまった場合はどうなるのでしょう。具体的な流れをお聞かせ頂けますか?」

「他の保育士たちが濃厚接触者にあたるかどうかを確認して、当時の状況などを区役所に伝えます。先ほども少し触れました通り、エッセンシャル・ワーカーは、マスクをきちんと着けていれば該当しない様に変わりました。それから、保護者の方々に連絡しますね。
この場合、対応は “感染疑い” に当たる子とそうでない子とで分かれます。
感染した保育士と接触していなかったお子さんは登園できるので、その家には状況報告のメールをして、接触のあったお子さんの家には、電話をして一定期間は登園を控えて頂く旨の事情を丁寧に説明しました。
それから、スタッフの数が減るわけですから、翌日以降のシフトの調整をして、体制もきちんと組み替えて……」

「大変ですね……」

「その時ばかりは、ですよね(苦笑)。
時間の方も、登園できるお子さんたちへのサービスに関しては、保育士も限られた人数しかいなかったので、閉園時間を通常よりも早くさせて頂いて、ご協力をお願いしました」

「お話で伺うだけでも “本当にギリギリの感じ” が伝わってきます。それに対する親御さんたちの反応はどうでしたか?」

「幸い、親御さんたちも協力的でした」

「クレーム的な反応になったりはしなかったのですね」

「はい。むしろ『他の先生方は大丈夫でしたか?』といった感じで、こちらを気遣ってくださる方も多かったくらいですね」

「それは心温まると言いますか、少しホッとしました」

「普段からよくコミュニケーションを取ってきたというのはあったと思います。園内での風景も、いつもよりは短めの時間にはなりますが、親御さんに一度はちゃんと見て頂いて、後は園の入り口に子どもたちの過ごしている様子を撮った写真を貼ったりとか、なるべく細やかに情報発信していく様な取り組みはしていました」

「何か問題が起きる前から、情報開示などによって “なるべく不安を溜めないように心掛けていた” のが功を奏したのですね。とても勉強になりました。
休園が解けて戻って来た子どもたちを見て、何か具体的な変化に気づくことはありましたか?」

『お昼寝の時間』というのを設けているのですが、寝つけなくなってしまっている子どもがけっこういましたね。園に来て、休みになって、また来れる様になって。子どもというのは変化に脆いので、生活のリズムが狂ってしまうんだと思います。生活リズムが崩れると情緒不安定にもなりますから、いつも以上に甘えたがる様なお子さんが増えたりもしました。
後はそうですね。こちらは2年経ってみて感じる変化ですが “以前の子どもたちと比べて、体力が落ちているな” と思うこともありますね」

「それはどういった時に感じますか?」

『お散歩の時間』があるのですが、その途中で道ばたに座り込んでしまう子どもがいたりもします。“抱っこして〜” って、やはりここでも甘える様な感じだったりもします。もちろん、そういうのが以前から全く無かったわけではないのですが」

「ちょっとした変化でも、たくさんの子どもたちを途切れずに見てきたから分かるのですね」

「そうだと思います」

「そうした事からも、なるべく園を開き続けていることが大切なのですね。よく分かりました」

✦(後編『おれんじオハナ園が守りたかったもの』に続く〜)✦


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