文芸誌「煉瓦」

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文芸誌「煉瓦」

沖縄県内の文芸団体/詩、小説、エッセイ等を掲載した文芸誌を発行/県内のアートギャラリー(CURIOSITIES)、書店(ブンコノブンコ)にて配布中/オンラインストア▶rengabungaku.theshop.jp 連絡先▶︎rengabungaku@gmail.com

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最近の記事

バスに揺られて[秘め事]薄荷飴

天国行きのバスに揺られて 私は舌舐めずりをする。 朝焼け、は、まだ、ほの 暗く、すこし、だけ、青い。 まるで、紺色の絵の具を水に溶かしたような きみの横顔にこの空が反射する。 街の明かりはちらほらときえて いずれ生まれる私たちの赤ちゃんのために 今はだけは踊るように眠ろう。 星と月と太陽が共存するこの時間には 海と空は静かにまじわって 風は止み、ヤシの葉がかすかに動くのが見える 〈降ります〉ボタンが点灯し もうきみの目に映る夏が翳ってゆく 東からさす陽の光、ゆらめき この車全

    • この刹那[着飾る本心]綾村湯葉

      死にたいって言いたくて言ってるんだと思ってる? そんなわけないじゃん 私をなんだと思ってるの 馬鹿にしないでほしい こっちは生きるだけで精一杯なのに やらなきゃいけないことは多くて やるのが当然だと思われていることも多くて 一度刃物を腹に突き立ててしまえば もうどうしたって苦痛しかない パソコンのファンが回る音にもいたたまれなくなって 自分を正当化するための自己暗示だけが上手くなる 私の一切合切を信用できなくて 判断が下せなくなってくる 心配されたところで相手の心さえ信じない

      • 透明宇宙の誰もどこにも[秘め事]薄荷飴

        夜になって、光る虫 遠くに、月 明かりのない通りをひとり 行くだけの日曜日 ……ため息 捨てられた愛 その名残惜しそうな顔つき こちらを見つめないでください プラスチック・シャンデリアのある部屋 効きすぎた空調 白くて、白い それはもう 白すぎるベッドシーツ 4つある枕 壁掛けテレビの暗闇は 誰もいない世界 みたいな顔して 嘘つきだ 建前も遠慮もどうせ影の底 黒く固まってるんだろ シックなカーテンは窓を隠して 露骨にティッシュの柔らかが そこかしこに咲き誇り 花の蜜の芳し

        • 急速決闘セクシーショット/ひづみ[爆発オチなんてサイテー!!]

           今をときめく男性アイドル道三郎(通称みっくん)はストーカーの被害に遭っていた。ファン同士で叩き合うスレと化した交流サイトで、そのストーカーであるりぁめろはみっくん信者のゆあたゃに決闘を挑まれた。 「さあ、その手袋を拾いたまへ!」 「いや古風すぎない?」  みっくんの事務所は不祥事を避けるためにスレを監視していた。当然この件は把握していたが、この事務所は良く言えば自由な会社だったため、「なんか面白いことやってんじゃん?」と決闘場所にテレビスタッフを連れて行くことにした。  

        バスに揺られて[秘め事]薄荷飴

        マガジン

        • 葬式・作品集
          4本
        • 荒井青・作品集
          2本
        • 元澤一樹
          4本
        • 綾村湯葉・作品集
          3本
        • 安堂・作品集
          12本

        記事

          言わぬが花/二歩[爆発オチなんてサイテー!!]

          『今日の服、ピンクだらけになっちゃったwww』  お気に入りのブローチが付いた、ピンクと白のフリルワンピース。厚底の黒いブーツ。フェイクパールのカチューシャに、ハートモチーフのイヤリング。部屋の全身鏡でポーズを取り自撮りした写真を添付してツイートする。  情報が飛び交うTLの先頭に私の写真が表示される。シュッ、ポッとスワイプすると、それはTLの波に呑み込まれ、跡形もなくなった。  通知には、「yuiさんと他3人があなたのツイートをいいねしました」と表示されている。yuiは、

          言わぬが花/二歩[爆発オチなんてサイテー!!]

          glitch/葬式[爆発オチなんてサイテー!!]

           じっと夜を耐える。俺は歯茎の形が変わるほど奥歯を噛み締めて、短く燃えてゆく紙巻き煙草を唇だけで咥えた。 隣で横たわるトリメが伸びをすると、何も身に纏っていない身体からくたびれたブランケットがずり落ちて、刺青に覆われた肉の付いていない太腿が月光のもとに曝け出された。青く沈んだそこに煙を吹きかけてやると、靄の中で朽ちていく死体のような青白さを浮かび上がらせる。俺は骨のくぼみのある太腿から目線を滑らせ、淡い輪郭の乳房をゆっくりと眺めながら、サイドテーブルの引き出しからパッケージに

          glitch/葬式[爆発オチなんてサイテー!!]

          埖夫/元澤一樹[爆発オチなんてサイテー!!]

           埖夫は全てを失った。家族も未来も自分自身も、記憶も安全も一瞬で失った。  埖夫という名前は本名ではない。本名は確かに別にあったはずなのだが、「本名は別にある」という以外の記憶をほとんど失っていた。  着ているシャツの胸のポケットが空なら履いている七分丈のカーゴパンツの前後左右のポケットも空だった。  ここまで言うと埖夫は全てを失っていないのではないか、と思うのかもしれない。それは半分当たっているが半分は不正解だ。なぜなら、埖夫は〈人として生きるために最低限度、持っているべき

          埖夫/元澤一樹[爆発オチなんてサイテー!!]

          flower bud[melancholic children]

          死は愛せない隣人である 遠ざけることも、避けることもできず 手の届くところで佇んでいる ただ黙ってこちらを見ている 待つことしかできないわたしは そのまま溶けて消えてしまいそう しがみつくことも叶わずに、たゆたう 流されるままに、身体を丸めて 手向けられた花は いまだ蕾のまま、開くことなく わたしの隣にある [詩画集]melancholic children 文芸団体「煉瓦」主宰・安堂と三界による詩画集 《収録作品》 1.flower bud 2.baby d

          flower bud[melancholic children]

          baby doll [melancholic children]

          sleep. 足元から伸びる白線を歩く 踏み外さないように慎重に進む 枯れ木のように痩せて 黙って従うだけの屍と同じ forest. この穴は食事をするための器官.無駄なことは口に出さない. 適当に受け流し相槌を打つ.押し寄せた波が引くのを待つ. 反骨心は息を潜めて.願いを受け入れて歩く子供. 治りかけの瘡蓋が剥がれる.青痣を重ねながら.求めている答えを察する. fool. 恥をかくことも.気づくことも.学ぶことも.それらすべてを積み重ねることも.何も知らない.無知のまま

          baby doll [melancholic children]

          熱中症 詩

          イラストに詩を書きました ーーーーーーーーーーーーーー 向こう岸へ渡れない僕は 水平線の外側を知らない 頭上を飛び交う渡鳥は 太陽を背に受けて輝いている 思いを馳せるだけで日は暮れて 静かに暗幕が降りる 深く重い夜がこの島をのみこむ 雨はなにも洗い流さずに過ぎ去る 僕と島を繋ぐ縁 僕らを繋ぎ止める鎖 この鼻から垂れる血から 確かに鉄の匂いがする ーーーーーーーーーーーーーーー 詩    安堂(@andou1126)  イラスト 葬式(@sou_sai4) ーーーーーー

          詩「面影」

          学歴や長所・短所を埋める。頭のおかしい子どもが空を真っ赤に塗りつぶすように。死んだハムスターを両手で優しく包み込むように。私が私を殺すみたいに! 過去を肯定するかのように、否定する日々にいっそ狂えてしまえたら! って。マジで思うよ。思うだけ。そう願うだけの私は所詮凡人だから、結局のところ、なにをやっても正気でいるし、手首は見ての通り真っ白なままだし、死にたいって口で言うのは簡単だから、透明な鋭いもので体に刻む。痛みで自分にわからせる。弱さと脆さ、どうしようもなさを。一切合切i

          呼び掛ける 詩

          大きな台風が過ぎ去って 道が荒れていた 数十年あった農具小屋は潰れ 戦後すぐからの慎ましい生活による泥は 横殴りの雨で洗い流された うつ伏せになって鍬やそれを手にする老人を眺めてきたトタン板は はじめて空を見上げる 横転した一輪車には玉虫が這い いくつかのスコップはさとうきび畑の中 大嵐だった おーい おーい 小川に目を向ける 魚が跳ね コンクリートに水しぶきが滲む おーい おーい 雲の吹き飛ばされた空に呼び掛ける あなたがそろそろ帰ってくる 数週間後には 農具小屋はす

          呼び掛ける 詩

          詩「today」

          3円のレジ袋に死んだ子供を入れる。濡れたまま、だから、袋を二重にして入れた。6円の袋。を、きつく縛ってコインロッカーに入れる。300円のコインロッカー。僕が女の中に入れた精子が長い時間をかけて大きくなった。大きくなって、頭ができて、手足が生えて、目玉や口ができたところで怖くなって僕は殺した。殺したのは母親になりかけた僕の恋人。恋人が死んだら子供も死んだ。ちょうどよかった。恋人はまだ僕の部屋にいる。洗濯機で2時間たっぷり脱水して、その倍の時間をかけてノコギリで四肢を細切れにして

          名乗りを上げる ひづみ    【JOINT POEMS】

          【JOINT POEMS】収録作品 名乗りを上げる  ひづみ 角を曲がれば青が見えた そこには様々な色があった 沢山の人が自分の色を飾り 沢山の人が自分の色を探しに来た その溢れる色を包み込むようにあった青色 生命の源である水 上を見上げれば目に入る空 私たちを包み込んでくれる青色は その空間を優しく抱いてくれていた 血が流れた 止血は間に合わない 周りの人はただ眺めることしか出来ず 辺りは騒がしくなり、やがて静かになった どんなことがあろうと朝は来てしまう 血は止まっ

          名乗りを上げる ひづみ    【JOINT POEMS】

          Neo town  葬式【JOINT POEMS】

          【JOINT POEMS】収録作品 Neo town  葬式 潰えたのか そこにあったneo 画面の中で叫ばれる文字にそう叫び返して 角に強く頭を打った 痛みに耐えかねて飲む、のだ煩雑の夜 危険はない? いや、危険のみがある 舌の上で転がっていく彫像も絵も写真も 何一つぼやけずに 唾液に濡れて薄青く光って 砂利のなか、深い洞に眠り込む 白煙と共に砂埃が立ち 飲み込まれて行く俺たち 街 の一つの終わり あるいは始まり よりもっと高尚な 転化 変化 流転 はたまた進化 断たれた

          Neo town  葬式【JOINT POEMS】

          潮の礫  安堂 【JOINT POEMS】

          【JOINT POEMS】収録作品 潮の礫  安堂 限界を迎えて崩れ落ちる 破片を拾って重ね合わせる 瓦礫から新たに生まれ変わる 垣間見える激情 見てろ、知ったような口をきくな 陽炎のように消えてしまう 許すな、落ち着く前に焚きつけろ 小さくとも灯火を絶やすな 荒波に呑み込まれて 失うのは道理か、笑わせんな 差し伸べた手、爪の垢 廃車、立ち並ぶ空き家 もう何年も整備されていない道を車で通り抜ける 路上では子供が走り回り 年老いた男が日陰から見ている 傷が走るほど美しい

          潮の礫  安堂 【JOINT POEMS】