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詩「today」

3円のレジ袋に死んだ子供を入れる。濡れたまま、だから、袋を二重にして入れた。6円の袋。を、きつく縛ってコインロッカーに入れる。300円のコインロッカー。僕が女の中に入れた精子が長い時間をかけて大きくなった。大きくなって、頭ができて、手足が生えて、目玉や口ができたところで怖くなって僕は殺した。殺したのは母親になりかけた僕の恋人。恋人が死んだら子供も死んだ。ちょうどよかった。恋人はまだ僕の部屋にいる。洗濯機で2時間たっぷり脱水して、その倍の時間をかけてノコギリで四肢を細切れにして、布団圧縮袋にかけて、びっちりダンボールの中にぎゅうぎゅうに詰めて、きちんと整理整頓して、そのまま風呂場の浴槽の中に入れてる。蓋もちゃんとして、家の鍵を閉めて出た。子供は最初、ゴミ袋に入れて雑木林の中にでも穴を掘って、そこに埋めようかとも思ったけど、手間だと思って、結果こうした。2リットルのペットボトルの重さもない、空の弁当を捨てる感覚だった。駅の、入り組んだ南口にあるガチャガチャしかない小さなゲームセンターの前の人気のないコインロッカーの上から二番目、右端の300円のロッカー。あいにく200円しかなかったから、しょうがないけどゲーセンの両替機で千円を崩してまで300円を作って、ロッカーの鍵を開けた。手間だったが、仕方なかった、二重のビニール。殺した、というより死んだ、という感覚に近く、「人」というより「臓器」と言う方が近いであろう僕と僕の愛した女の間にできた忌子。今はもう二人とも死んでしまったけど、感覚としてはもうどうでもよかった。過去は過去、今は今。うちはうちで、他所は他所。これは僕以外にとっては他所事でしかないことを呪うことはしない。現実の空気はこんなにも無機質で、駅の構内には、それぞれの人生が行き過ぎる。僕は家に帰る。今はもう次のことを考えている。風呂場にいるバラバラになった彼女の捨て場所。西口を出ると射し込む夕日に目が沁みる、眩しい時の顔は笑って見えるらしいが、僕も他人から見ればそう見えるだろうか。そうだったら、さすがに、ちょっと狂気じみてる。家路を急ぐ。日が変わる前には終わらせないと、明日はバイト。8時起き

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イラスト 二歩(@nifu527)
詩    元澤一樹(@sawa_sawa64) 
2020年7月。レジ袋有料化に伴って書き下ろした詩です。今読み返すと、就活期特有の大人になることへの不安感や閉塞感、社会への苛立ちのようなものを感じます。月刊詩誌『ココア共和国 9月号 電子版』投稿佳作集に掲載。 

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