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お稽古に来ていたMくん(アメリカ人)はこの見慣れぬ物体を最初は要らないと言った。しかし、一つ口に運んだが最後、「うまいうまい」と変なイントネーションで言いながらもう袋から目も手も離せない。

「饅頭怖い」という話をご存じだろうか。

自分の好物を怖い物と偽って、周囲からそれをせしめるという話である。

小学生の頃この話を読んだ俺は、なるほどこういう頭の使い方があるのかと感心したものだ。その顔がニタリとしていたかどうかは鏡をみていなかったので分からない。

しかし、しかしである。所詮そんなものはガキの甘い考えである(饅頭だけに)。世の中には本当に怖い物があるのだ。

そんなのはお話の中のことだろうとタカをくくっていたのだが、本当に「怖ろしい」食べ物というのは実在する。リビングのテレビ画面から貞子が本当に出てきちゃうようなものだ。怖ろしすぎて考えただけでも背中がゾ~ッとする。

写真を撮った。これが貞子だ。袋の中からにゅっと出ている。怖ろしいーーーっ。「にこにこ」なんつってこちらの警戒心を解くような甘い言葉で釣ってくる(甘納豆だけに)。怖い怖い怖い。

砂糖を纏った黄金色の大粒豆。手を伸ばす気なんてサラサラなくても手を伸ばさせてしまうこの見た目。怖ろしい。

そしてそれを一度(ひとたびと読ませたい)口に入れようものなら、それはもう地獄の始まりである。

止まらない。

止まらないのである。俺の左手はこの袋と口の往復のためだけに動くことになる。支配されるというべきか。もう肘が砕けるか豆が無くなるか、俺の意思などでどうにかなるものではない。脳が完全に破壊された証拠である。

しかも仕掛けられている罠も怖ろしい。
袋の中まるごとこの黄金色の豆で満たされている。一度開けたら最後、最後まで一粒残らず、しかも途切れなく食わせる作戦としか考えられない。糖尿病という名詞が頭を過る。

小袋に分かれていれば、
せめて5つくらいの小袋に分けられて入っていれば、
俺が死に物狂いだったら、もし死に物狂いで挑めば、往復マシンと化している我が左手をワンチャン止められるかもしれない。

しかし、この袋のなかに全部ドーンって。豆は全部ドーンって。

止められる要素を何もかも排除するよう画策されている。怖ろしい。ああ怖ろしい。

実際、お稽古に来ていたMくん(アメリカ人)はこの見慣れぬ物体を最初は要らないと言った。しかし、しかしだ。しばらくして我慢ができなくなったのか、一つ口に運んだが最後、「うまいうまい」と変なイントネーションで言いながらもう袋から目も手も離せない。怖ろしい。

かっ〇えびせんなんて比べ物にならない。そんなの屁の河童である。やめられないとまらないのはまさにこの甘納豆なのである。

株式会社つかもとおそるべしである。
どうやら「芋なっとう」まで作ってるらしい。
野放しにしていても大丈夫なのか。

ああ怖い。ああ怖ろしい。
俺にたくさんの敵がいることは自覚している。

間違ってもこの甘納豆も芋なっとうも俺に近づけないでくれ。
本当に、本当に、この甘納豆が怖ろしいのだ。
ぜったーーーいに、俺のオフィスに袋ごといくつも投げ込んだりしないでほしい。

ああ怖い。ああああ、怖い怖い。

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