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ネタがのっていない酢飯

あくまでも個人的な見解としての恐らく、ではあるが、
例えば握り寿司を1人前注文したとして、
ウニ、いくら、トロ…と並んだその隣の2貫くらい、ネタがのっていない酢飯の塊だったら衝撃を受けないだろうか。

夏の甲子園高校野球大会で、
グランドに整列して校歌を歌っている勝利チームの選手の中で
18人中3人ほど下半身パンツ一丁だったとしたら
見た瞬間に凍りついてしまいはしないだろうか。

脇を猛スピードで通り過ぎたバスが
左側の後部タイヤが完全に取れた状態だったら
目が点にはならないだろうか。

それと似ていると「個人的には」感じた事件に遭遇した。

外は霧雨ぱらつく肌寒い曇天模様だったが書道教室は普段と変わらない、
どちらかと言えば温かめの、のんびりした空気が占めていた。

皆さん素晴らしい作品を書かれ、
この教室のレベルの高さを誇らしげに思っていた頃である。

お稽古では作品を数点、ホワイトボードに貼ってもらって
俺が細かく(口煩く?)講評をすることにしている。

と、Aさんがご自分の臨書作品を磁石でボードに留めた。
音に気づいた俺は体を数十度回転させ、視線を半紙の文字群に向けた。その時である。その時に衝撃が走ったのだ。

「ない」のである。
あることに疑いを持ったことがないほど、
あるのが当然のものが、ない、のである。

書かれた文字は6文字。 左右に縦3文字ずつ。
右側の3文字の最後は「滅」。

そのハズのはずだった。

しかしその彼女の「滅」の字、
偏の部分と垂れから一、火の部分までは存在するが、その後にあってしかるべきビヨーンとした長い斜め線と、ぺろっとしたノと、最後のチョンの3画がないのだ。

その後の左の3文字は問題なく鎮座している。
全く途中の3文字目の「滅」だけ、その一部が消えているのだ。

頭の先からだったか、足の先からだったかかは忘れてしまったが、
とにかく全身に鳥肌が広がる思いがした。

本人に促してみたがちっとも意に介す様子はなく、
どちらかと言うとしれーっとした面持ちにさえ見えた。

いやいやいやいや、おかしいでしょう。
ネタ乗ってませんよ、その寿司。
ユニフォームのズボン履いてないじゃないですか。
タイヤ取れてますって。
暫くして漸く事の恐ろしさに気がづいて、彼女は奇声をあげるが…。

と、こうやって文章にしているとこの恐怖が伝わりづらくないか心配ではあるが、手を加えるのを放棄し、読解力と感性のレベルの高い人がいることを願う。

でも教室内には爆笑が起こって素敵な時間になりましたとさ。


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