ずっと前に『茶道裏千家淡交会シドニー協会40周年記念式典』にお招きいただいたときのこと。

ずっと前になるが、『茶道裏千家淡交会シドニー協会40周年記念式典』にお招きいただいたときのこと。

会場はダーリングハーバーにあるAustralian National Maritime Museum。

沢山の関係者の輪の中心に一際オーラを放つ鵬雲斎千玄室大宗匠(利休居士第15代家元)。

高位と思われる先生方は和服が馴染んでやっぱり雰囲気に落ち着きがある。シドニー側の裏千家の皆様も和服で、やはり先生方は和服の扱いに卒がない。Lottoが当たったら着物を沢山買って所作を習おうと思ったが肝心のLottoが当たらない。俺の所作がいつまでたっても危なっかしいのはLottoのせいである。

俺も一応着物を持ってはいるが(もちろん戴きものだが)自分では着られない。着る順番も分からない。無理やり着ると斬新なオシャレさんになってしまう。というわけで久々ながらいつものスーツ。ジーンズでもいいか、というおバカな発想が一瞬でも浮かんだことが恐ろしい。

さてこんな俺だがVIPでご招待頂いていたので、受付で渡されたリボンを胸につけて会場へ入る。
スーパーVIPの大使夫妻(キャンベラからわざわざいらしたんだろう)やシドニー総領事夫妻などの後部の席に着く。

当時千玄室大宗匠は御年90歳だったそうだが、まあ声ははっきりよく通るし、部分部分に英語をまじえるし、身振り手振りを入れた大宗匠ジョークも炸裂させて、非常に面白い講演だった。俺らが行けない高い高いところから広く物事を見、感じ、そして分け与えてくれるような。

そして京都からいらしたいかにも物腰柔らかなロマンスグレーの先生(名前が思い出させない)のお点前(薄茶)を裏千家のオージーの生徒さんがいただくというデモンストレーション。そしてそれをまた大宗匠が解説。「落語家か?」と思わせる見事な話しぶりで、ここでもかなり沸いた。この短時間で人々は大宗匠に魅せられてしまったのだ。

講演後はお茶会。VIPの方はこちらへ、という着物姿の美しい女性に従って行った先では、なんと大宗匠自らがお茶をたてておられるではないか。『大宗匠の生手前』。テンション↑。

着いた席で伸び上がって見ていると、茶道裏千家淡交会シドニー協会の松永会長がちょうど俺の隣にいらした。「大宗匠がこんなに沢山の人前でお点前されるなんて本当に稀。スケジュールにもなかったんだよ」と耳打ちしてくれた。そう聞くともっとテンション↑↑。

全く力が入らず、なめらかで自然な動作。書にも通じる。素敵だ。

もちろん全員分をたててくださるわけにもいかないわけで、大宗匠のたてたお茶は最前列に陣取った総領事たちがいただいておられた。オレらには見えないところでどなたかがたてられたお茶が次々に運ばれて振舞われた。
お菓子もお茶も旨かった。

そのときにオレの隣に座っていたのがご高齢のオージーの神父さん(ロブ神父っていう名前だったと思うけど…すみません)。話しかけてくれたので割と長く話をしていたのだが、そしたら大宗匠が彼のところに来て英語で話を始めたではないか。通訳なしである。ただの神父さんかと思ってたら、VIPで来られるくらいだから大物だった。かなり親しげだ。

と、オーストラリア在住が長くなって厚かましさが増したオレにスイッチが入り、二人の話が終わった瞬間、間髪いれずに大宗匠に握手をもとめた。「すみません。握手をしていただけますか。」 

「こちらで書道をやっております、書家のれんといいます。」
「ほお、書道を。書の先生か。」
(この間、握手継続)
「あ、はい。」
「書もお茶と一緒で人を和ませるから、頑張って働いてください。」
(握手終了)
「はい、ありがとうございます」

客観的かつ現実的に見れば90歳のおじいさんの手を握ったことによって喜びを得ているかなり可笑しなおっさんということにもなろうが、笑わば笑え!!はっはっは。

なんだかとてつもなくいい作品が書けそうな気がしちゃったりしちゃったんだな。達人のパワーって凄いんだよ。

ということで、たいしたオチもなくすみません。

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