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道端で、決してきれいとは言えない格好をしたおじいさんが、ヴァイオリンでジングルベルを弾いていた。

会社の帰りだった。
夕刻の街は行き交う人でごった返していた。

道端で、決してきれいとは言えない格好をしたおじいさんが、ヴァイオリンでジングルベルを弾いていた。

シドニーは秋真っただ中。
そのおじいさんは暮れかかる空を仰ぎながら、
真っ直ぐに張った絃の上を軽やかに弓を動かして
堂々とジングルベルを弾いていた。

4月のジングルベル

不自然さやその風体への周囲からの嘲りが
たとえあったとしても彼には届いていないようだった。

それどころか 周囲のなにものも彼の意識には入っていないように見えた。

誰かのために弾いてる…
俺はそう感じた。

俺はは足を止めなかった。

ジングルベルはうねる人の波にのみこまれ、
跳ねた飛沫とともに遠くへ消えていった。

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