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突然、演劇の舞台くらいでしか聞かない、金持ち貴族的な大仰な笑いが周囲に響いた。 そして止まる。

ジムのシャワールームに向かう。
一汗かいて仕事に向かう前の至極の時間だ。
今朝は遅番出勤のため普段と時間が少しずれているからか、もうジムにはほとんど人がいない。みんなそれぞれすでに出勤してしまったんだろう。ちらほら見えるのは年寄り連中の姿くらいだ。

シャワー室は左右にずらっと7つずつ半透明の板で仕切られたシャワースペースが並ぶ。
入り口からすぐの、左手前から三番目のスペースに人がいるが、そのほかに誰もいない。

その人のいるスペースは中でも一番水圧が高く、空いてさえいれば俺は真っ先にそこを使う。聞こえる威勢がいい水の音に俺はちょっと嫉妬するが、レギュラーメンバーならお気に入りのシャワーはチェックしていることだろうから、気にしないようにして水圧二番手の右側四番目に入る。

半透明の扉を閉める。
今日オフィスに行ったらまず何をしなければならないか。昨日残して帰ったうんざりするくらい退屈な作業が頭をよぎる。しかし、今日は今日でまた新たな作業がベルトコンベアのように流れてくるのだ。一体いつまでこんな毎日を過ごさなければならないのか。

そういえばさっきまで走っていたランニングマシンもベルトコンベアだ。走っても走っても同じ場所にいる。走っても走ってもだ。走っても走っても走ってもである。横に並んだ年寄りはペースが遅くゆっくり歩いていた。しかしガンガン走っていた俺と最終的にいた場所は一緒だった。どんなに走っても隣の年寄りのじいさんと同じ場所にいるというのが現実なのだ。

俺はタオルを扉に引っ掛け、シャワーのコックに手をかける。
その時だった。

うぉっはっはっはっはぉはぉほっ

突然、演劇の舞台くらいでしか聞かない、金持ち貴族的な大仰な笑いが周囲に響いた。

そして止まる。

ええええええっ。
びっくりしてこっちの心臓も止まりそうだった。

この場にいるのは俺とその左3番目の奴だけなんだから、これはそいつが突然笑ったってことだよな。
こわいこわいこわいこわい。
なんだよ、その笑い。。。
そんな笑い方ある?お前は貴族じゃなかろうよ。

いやいやいや、それより、シャワー中にお前さんに一体何が起こったわけよ?
どうして突然笑い出す?しかも一人で?
突然一人で笑い出す?どうして~~~。
えっ、思い出し笑い?思い出し笑いの貴族笑い?
ええええええっ。

そんで、どうして止まった?止まったろ?急に止まったろ?
思わず笑っったけども、人がいるヤバイ、と気が付いて息を止めた?
え、そうなの?そうだろ、だろ、そうだろ?

やばいやばいやばい、お前今素っ裸じゃん。
その思い出し笑いの貴族笑いを素っ裸でやっちまったんだよな。
それを人に聞かれて息止めちゃった?
やああ、まじか。

お前の中は恥ずかしさで一杯なんだろ?だろ、そうだろ?
わーっはっは、お前の前で中指立てて笑ってやりたい。
いやめっちゃやりたい、めっちゃやりたい。
超恥ずかしいじゃん!!!

自分より下の立場にいる他人を思い切り貶めてやりたい気持ちで一杯になったが、もちろんそんなことはできるはずはない。

手をかけたシャワーのコックを手前に引くと湯がはじけだして勢いよく床をたたく音をたてた。

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あれ、やばい、人がいるじゃん。
俺はシャワーの音に気が付いてびくっとした。

半透明の扉を通して向こう側の斜め向かいに誰かいるのがわかる。
よくは見えないが、背がでかくてデブだ。

ちぇっ聞かれたかな。
生まれてこの方したことないような笑いになっちゃったよ。
どっから出したんだよ、今の声。自分でびっくりするわ。

いやあ、今朝のラインメッセージに送られてきた写真、
ツボっっちゃったんだよなあ。
面白すぎる。やばい、思い出したらまた笑いそう。
いやもうやばいやばい、もう早く出ちゃおう。

知らない間に斜め向かいにいたやつに顔を見られるのが嫌だったもんで、
タオルで体をぱっぱっと拭いて、俺は急いでシャワールームを出た。
(パンツを忘れてきたことに気が付くのはもうしばらく後。)

そんな今朝のジムでの一コマ。

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