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私の彼は、ゲイで小児性愛者で、それでも彼が好きで

「たかこ大丈夫?」
高校の友達からの連絡だった。小さい町だったから、彼の侵した事件はすぐに広まった。

2023年4月26日18時2分。私の彼は現行犯逮捕された。
公園で1人遊んでいた男子小学生にマンガを一緒に読もうと声をかけ、自分の性器を触らせたらしい。今朝の朝刊で読んだだけだから、まだ信じることはできないけれど、多分信じたくないだけ。

私の彼は、ゲイで小児性愛者だった。

彼と出会ったのは2020年の夏。丁度世間がコロナ禍の自粛生活に嫌気が差して、マンボウが出されてても飲みに出かけ、旅行にだって行き始めた頃だった。
私はその年に新卒で地方の市役所に勤め始めて、彼は2個上の先輩だった。みんなこっそり歓迎会や打ち上げをやってる中、彼だけは「政府が自粛を呼びかけてるんだから、公務員だけはしっかり守らなきゃ」と言って、頑なに来なかった。
だからといって人付き合いが下手なわけでなくて、役所内では同期も後輩も、先輩だって彼をしたってた。明らかにキャパオーバーな仕事量をいつも抱えて、しかも頼まれたら嫌な顔せず引き受けて、「俺は独身だし、家でもやることないから」と、目尻にしわを作って笑ってた。

そんな彼に惹かれていくのに時間はかからなかった。毎日彼に会いたいと思った。コロナ禍で主流になったテレワークが市役所にも導入されて、周りの同期は喜んでたけど、私だけは違った。もしかしたら世界で一番、私がコロナを憎んだんじゃないかな。
会う口実を作るためにLINEで「開いてる日ありますか…?仕事のこと相談したくて…!」って送ったら、「今電話できる?」ってすぐ返信が来た。本当に彼のことを好きになったのは、この時だったと思う。本当にホワイトな職場だったから、無理やり仕事の悩みをひねり出して、彼と2時間話した。付き合った後に「実はあれ合うために嘘ついたの」と伝えてみたら、第一声が「良かった。あの後ずっと心配だったから」って言ってくれて、もっと好きになった。

そんな私の彼は、ゲイで小児性愛者だった。

一人暮らしの彼のアパートは、驚くほど生活感がなくて、モデルルームみたいだった。ベッドとソファーと机と椅子と、すっごく軽いノートパソコン。彼の家にはそれだけしかなかったけど、二人でソファーに座って、ノートパソコンでNETFLIXを開いて、私はほろよいを片手に彼は檸檬堂を片手にして、韓国ドラマを見て、眠くなったらベッドに行って。それだけで十分だった。
愛の不時着を2周も見たあのノートパソコンで、彼が彼の一番好きなものを検索してたと思うと、胸のあたりが熱くなって、吐き気がする。
「GO TOキャンペーンが始まったから、政府も旅行行ってほしいんだよ?」って言って、無理やり私が誘った草津温泉旅行。あのとき沢山の写真を撮ったiPhoneで、彼が彼の一番好きな動画を再生してたと思うと、黒目の焦点がどこにも定まらなくなって、呼吸が乱れる。 

彼は死ぬほど気持ち悪くて、人として最低で、今日は私までも職場で怪奇な目で見られるようになってしまって、腹が立った。
「知ってたの?」「変なことされなかった?」「災難だったね」「たかこは悪くないよ」「うわ、ロリコンってキモくね?」「ああいうタイプが一番ヤバかったりするんだよね」
でも彼以上に、彼を侮辱する職場の人間に怒りが湧いた。
なんで?あなた達に彼は何かした?昨日まで彼を頼ってたじゃん。なんで君がそこまで言うの?私を被害者にしないでよ。お前が後輩の女の子にセクハラしてんの知ってるんだよ。キモいのはお前だろバーカ。

昨日は一睡もできなかった。できなかったというより、ネットで色々と検索してたら、気づいたら朝になってた。
小児性愛は病気だと、ネットに書いてあった。それとゲイは生まれ持ったパーソナリティで、誰も否定できないものらしい。
「じゃあ彼は、ただ病気なだけじゃない?」
「何も根本から否定することはないよね?」
「病気が原因だと犯罪になるんだっけ?」
「認知症の人って、万引とかしても確か逮捕されてなかったような、、、」
頭の中に無数の問が浮かび上がって、そのたびにグーグルで文字を打ち込んで検索した。でも毎回毎回分かるのは、やっぱり彼のやったことは犯罪で、世間はそれを許さない。

前に梨泰院クラスを一緒に見てたとき、彼に聞いた。
「仕事めっちゃできるからさ、こんな感じに会社とかでバリバリ経営してそうなタイプだよね」
「俺が?」
「うん。なんで公務員になったの?」
彼はちょっとだけ間を置いて、私と反対方向にある机の方を向いて言ってた。
「んー…安定してるからかな。しっかりしてるしさ。公務員なら親も安心するし。んー…あと俺そんなに目立ちたいタイプじゃないから、細々とね」
この時は、彼にしては意外と安直な理由なんだなと思ったけど、今になって分かった。
普通でいたかったんだよね。
目立つこともなく、波乱万丈なことなんてなく、ただただ平穏に、普通に。平日は週5で会社に行って、休日は趣味に時間を費やして、たまに実家に帰っては、お母さんから「早く彼女さん紹介してよ」なんて急かされて、お父さんからは「仕事は順調か?」って聞かれて。
そうやって普通でいたかったんだよね。
じゃあ私と付き合ったのは、普通でいるための飾りみたいなものだったのかな?
別に怒らないから、今度あったとき聞かせてね。怒ってないよ。本当だよ。
だってそれでいいから。私のこと好きになれなくても、いいから。だって友達でいれるでしょ?
女の子ってね、友達みたいなカップルに憧れるんだよ。

私の彼はゲイで、小児性愛者。
それでも私は彼が好き。
多分、彼を支えられるのは私しかいないから。
私しかもう、彼のこと好きになれないから。
昨日ネットで調べたとき、男性からDVを受けた女性はこういう思考になるんだと知った。
でもそれでいいよ。私は。だって本当に、彼のこと救えるのは私しかいないから。
普通じゃない?おかしい?異常?
それなら異常なままでいたい。
彼が異常って言われるなら、私も異常でいたい。

明日も仕事だ。休んだら傷ついてるって思われるから、絶対に休まないよ。
深夜2時過ぎ、そんなことを思ってベッドに入った。
そうだ、彼にLINEだけしとこう。

空いてるとき連絡して!久々に旅行行こ!全国旅行支援、使わないともったいないよ!笑











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