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「足利将軍たちの戦国乱世 応仁の乱後、七代の奮闘」 *読書感想:歴史*(0023)

室町時代後半・戦国時代に入った頃からの足利将軍たちの苦闘を記した一冊です。後期足利将軍たちの苦労と無念が切ない…。
(本記事/ 文字数:約3800字、読了:約8分)

「足利将軍たちの戦国乱世 応仁の乱後、七代の奮闘」
著 者: 山田康弘
出版社: 中央公論新社(中公新書)
出版年: 2023年

<趣意>
歴史に関する書籍のブックレビューです。対象は日本の歴史が中心になりますが世界史も範囲内です。新刊・旧刊も含めて広く取上げております。

狩野派,Kano School『洛中洛外図屏風』(東京富士美術館所蔵) 「東京富士美術館収蔵品データベース」収録 (https://jpsearch.go.jp/item/tfam_art_db-1163)

<構成>

全体で七章構成になっています。序章で初代・足利尊氏から第8代・足利義政までの室町幕府前期の将軍をまとめて概説。第1章では明応の政変までの第9代・足利義尚と第10代・足利義稙について紹介。第2章では義稙と第11代・足利義澄の二人の争いについて解説。第3章では複数回の都落ちを経験した第12代・足利義晴について説明。第4章では謀殺された第13代・足利義輝について論述。第5章では織田信長に擁立された第15代・足利義昭について記述。そして終章で最後に総括するとともに足利将軍の権威権力と政治構造について考察が重ねられています。

<ポイント>

(1)室町時代後期の歴史を足利将軍という視点から通した解説
室町時代後期の歴史について足利義政以降の歴代将軍の治世を通じて解説がされています。いわゆる戦国時代の歴史といいますと、とかく戦国大名視点で語られることが多いかと思われます。本書では室町幕府・足利将軍目線で戦国時代史の考察がなされ、理解することができます。
(2)室町幕府・足利将軍の権威権力の構造についての分析
応仁の乱以後の室町幕府・足利将軍といいますと、従来は権威が失墜してすっかり権力も弱体化したような印象を受けることも多かったように思われます。本書では戦国時代に入ったあともなお畿内を中心にして将軍権威が相応に有効に機能していたこと、それがどのようなものであったかが分析されています。

<著者紹介>

山田康弘 (やまだやすひろ)
東京大学史料編纂所学術専門職員。専門は日本中世史。
そのほかの著作:
「戦国期室町幕府と将軍」(吉川弘文館)
「戦国時代の足利将軍」(吉川弘文館)


<私的な雑感>

室町幕府後期そして戦国時代について足利将軍とその権威権力という視点から政治史を通説した一冊という印象です。

学校の教科書的な目線でいうと、応仁の乱以後の足利将軍たちはみな影が薄いイメージです。弱体化して権力を失い、臣下である管領家細川氏やあろうことか陪臣程度にすぎなかった三好長慶や織田信長の権勢に屈してすっかりお飾り程度の存在、そんなイメージにすっかり染まっているかもしれません。

ただ近年は従来の戦国時代像が見直されるにつれ(私が学生時代の頃は日本各地の大名たちが天下の覇権を巡って争いを繰り広げていた的なイメージが一般的には強かったと思います)、室町幕府や足利将軍たちの役割や評価も併せて見直されているのではないか思われます。

そんななかで本書は戦国時代の足利将軍たちのそれぞれのそれなりの活躍と権威権力を再構築しようとする苦労の実像・実情を知ることができる興味深い書籍であると感じました。

新書版で紙幅に制約があるため、それぞれの将軍について少々、駆け足の解説・分析になっているところはやむを得ないでしょうか。したがってもっと掘り下げて知りたい方は別にそれぞれ将軍の解説本などを手に取る必要があるかと思われます。

また戦国時代を学習・研究することの意義や重要性について、現代の国際政治環境と比定しつつ権威権力の在り方、政治の在り方の考察に資するものであるという著者の考えには首肯できる部分が大いにあるなーと感じました。

戦国時代の歴史についてややもすると戦国大名視点からばかりが注目されがちななかでいわば反対の側面・足利将軍という視点から戦国時代を分析・考察することで、両方の側面からより深く理解することができるようになるための貴重な一冊ではないかと思われます。

読んで良かったです!

<本書詳細>

「足利将軍たちの戦国乱世」 (中央公論新社)

<こんな方にオススメ>

(1)室町時代に興味がある
(2)戦国時代が好き
(3)中世日本における政治権力構造に興味がある


伝土佐光信筆,Attributed to Tosa Mitsunobu,東京国立博物館,Tokyo National Museum『伝足利義政像』(東京国立博物館所蔵) 「ColBase」収録 (https://jpsearch.go.jp/item/cobas-37655)

<そもそも論としての室町幕府と足利将軍>

本書を読んであらためて思い直すのは室町幕府や足利将軍の不安定ぶりです(もっと言うと“脆弱”ぶりといっていいかもしれません)。足利義満など一部の例外を除いて、大名たちは将軍の言うことを聞かない…。将軍のことを「お飾りみたいなもの」と内心で軽んじていたのでしょうか(敬意はあったとは思いますが)。

とはいえ、それは江戸時代の徳川将軍と比較してしまう、後世の人間からの視点・印象のせいだと思われます。徳川将軍の実力・権力が桁違いなのであってそれをもって室町幕府や足利将軍を評価することがそもそも間違いなのかもしれません。

足利将軍の位置づけは、やはり南北朝時代が前提としてあり、日本の権威が二分されていたという基礎・土台の弱さに起因しているのでしょうか。足利将軍としては北朝と足利将軍に従う各地の大名たちに対してある意味で取り入る必要があったので、将軍と大名の関係は相対的に垂直というよりも水平に近いものだったいえるかもしれません。

中世から近世にいたる武家政権という文脈のなかで考えると、室町幕府と足利将軍の意義は何だったのかと考えることがあります。正直、ピンと来ない…個人的には悩ましいです。

いずれにせよ、その後の徳川幕府が室町幕府・足利将軍の良い面も悪い面も教科書として自分たちの幕府を作り上げたのは間違いないかと思われます。権威だけではなく、その保持した所領と軍事力などあらゆる面で他の大名たちとの間で隔絶した圧倒的力で垂直的関係を確立したと思われます。これがその後のパックス・トクガワーナを成立させたのでしょう。

その意味では、徳川幕府の反面教師であった、日本型封建制度の過渡期的存在だとか中間的形態であったとは言えるかと思いますが、それですと積極的な意味づけには欠ける…。んー、答えを求めて勉強(?)を続けていきたいと思います。


<補足>

室町幕府 (Wikipedia)
足利将軍家 (Wikipedia)
足利将軍一覧 (Wikipedia)
足利氏 (Wikipedia)

<参考リンク>

書籍「戦国時代の足利将軍」 (吉川弘文館)
書籍「戦国期足利将軍 研究の最前線」 (山川出版社)
書籍「足利将軍と室町幕府」 (戎光祥出版)
書籍「室町幕府論」 (講談社)
書籍「戦国期の室町幕府」 (講談社)
書籍「室町幕府将軍列伝 新装版」 (戎光祥出版)


<関連レビュー記事>


<バックナンバー>
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0002 「ナチスの財宝」
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0004 「幕末単身赴任 下級武士の食日記」
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0010 「戦国、まずい飯!」
0011 「江戸近郊道しるべ 現代語訳」
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0014 「天正伊賀の乱 信長を本気にさせた伊賀衆の意地」
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(2023/11/10 上町嵩広)

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