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オンライン授業と著作権 許される配信方法とは

新型コロナウイルスが蔓延し、学校に集うことが難しくなったため、遠隔授業(オンライン授業)のニーズが出てまいりました。
そして、先月28日に授業目的公衆送信補償金制度に関する改正著作権法が施行され、教育機関が、一般社団法人 授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS(サートラス))に相当な額の補償金を支払うことで、個別の許諾を要することなく、教科書等の著作物を使用したオンライン授業をすることが可能になりました(著作権法35条、114条の11)。

改正前・改正後の著作物の利用の取り扱い

(令和2年4月文化庁著作権課作成「平成30年著作権法改正(授業目的公衆送信補償金制度)の早期施行」より引用)

今後は、補償金を支払えば、権利者の許諾がなくても、
・ 予習・復習・自宅学習用の教材をメールで送信
・ オンデマンドやリアルタイムでのオンライン授業において、講義映像や資料をネットを通じて児童生徒等に対して送信
することが可能となります(ちなみに今年度の補償金は無償です。)。

現状、物理的な環境整備のハードルもあり、オンライン授業の実施に至っていない学校もあるようですが、今後は分散登校による対面と遠隔の授業を併存させるハイブリッド型授業のニーズもあるでしょうし、オンライン授業を取り入れる学校は増えてくるものと存じます。

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さて、改正著作権法が施行されましたが、オンライン授業について、補償金を支払ったとしても著作権法違反になるケースがございます
学校、教師がオンライン授業を工夫していくにあたって、著作権法違反にならないための留意点を紹介します(参考として、改正法35条を下記に引用します。)。

改正著作権法35条
1 学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における利用に供することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、公表された著作物を複製し、若しくは公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。以下この条において同じ。)を行い、又は公表された著作物であつて公衆送信されるものを受信装置を用いて公に伝達することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該複製の部数及び当該複製、公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
2 前項の規定により公衆送信を行う場合には、同項の教育機関を設置する者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない。
3 前項の規定は、公表された著作物について、第一項の教育機関における授業の過程において、当該授業を直接受ける者に対して当該著作物をその原作品若しくは複製物を提供し、若しくは提示して利用する場合又は当該著作物を第38条第1項の規定により上演し、演奏し、上映し、若しくは口述して利用する場合において、当該授業が行われる場所以外の場所において当該授業を同時に受ける者に対して公衆送信を行うときには、適用しない。

1. おさえるべきガイドラインとQ&A

次の運用指針(ガイドライン)とQ&Aの2つがポイントになります。

・「改正著作権法第35条運用指針(令和2(2020)年度版)」(先月16日 著作物の教育利用に関する関係者フォーラム 公表)

Q&A(基本的な考え方)( 先月24日 文化庁著作権課 公表)

どちらも必要に応じて具体例の追記等、内容をアップデートしていくようですので、最新版を確認するようにしてください。

以下では、文化庁著作権課とSARTRASによる周知用のリーフレットを参考に、上記ガイドラインとQ&Aから特筆すべき点について、ピックアップして紹介します。

2. 著作権法違反にならないための留意点

35条リーフレット2

(文化庁著作権課とSARTRASによる周知用リーフレット)

(1) 対象機関

学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)」に限定されております(著作権法35条1項本文)。
そのため、営利を目的とした塾や予備校、教育施設等は、著作権法35条が適用されず、個別に著作権者に利用許諾を求める必要があります。
(詳細は、上記運用指針5頁参照)

(2) 利用目的

授業の過程における利用に供することを目的」に限定されております(著作権法35条1項本文)。
学校等の管理下で責任を持って行われる教育活動であれば、教育課程外の活動(例:部活動や補習)も含めて可能です(上記Q&A問8(答)参照)。

しかしながら、それ以外の目的(上記の例にある保護者会や職員会議での配信等は認められません。
個別に著作権者の許諾が得られれば利用できますが、許諾を求めることの手間を考えると、現実的には利用しないように留意すべきでしょう。

(3) 利用範囲

利用範囲は、授業の過程において利用する際に、必要と認められる限度」です(著作権法35条1項本文)。

例えば、YouTubeを活用する場合は、「非公開」や「限定公開」に設定して受信者を限定して配信すれば、権利者の許諾を得なくてもよいです。

逆に、授業の過程から離れ、誰もが見られるウェブサイトにアップロードして公開したり、学校間でシェアしたり、教育委員会等による配信を望む場合は、個別に著作権者から利用許諾を得る必要があります。
なお、学校間での教材の共有については、別途権利者団体において包括的なライセンスの検討がなされているようです(上記Q&A問6(答)2.参照)。

(4) 利用方法

著作物の種類及び用途並びに複製の部数及び複製、公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる利用方法は、個別に権利者の許諾を得る必要があり、得られなければ著作権法違反となります(著作権法35条1項但書)。
「利益を不当に害する」かどうかは、現実に市販物の売れ行きが低下したり、将来における著作物の潜在的販路を阻害するかという観点から判断されます(上記Q&A問10(答)2.参照)。
具体的には、生徒が購入することを想定して販売されているドリル、ワークブック等の資料をそのまま配信するといった、購入等の代替となるような態様で配信する場合は、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」(著作権法35条1項但書)に当たるため、補償金制度の対象外となり、個別に著作権者から利用許諾を得る必要があります(上記Q&A問10(答)3.参照)
上記リーフレットに記載がある「小部分」については、今後、諸外国の事例を参考に、可能な限り具体的な目安を示すように検討されるようです(上記運用指針9,11頁参照)
不当に害する可能性が高い具体例については、上記運用指針8~11頁に詳細が掲載されておりますので参考にしていただければと存じます。

(5) 補償金制度の対象となっている著作物

補償金制度は、法律上、すべての権利者の権利を制限して、一定の要件の下で許諾なく利用できるようにしているため、外国の著作物や、権利者団体に加入していない者の著作物も利用できるように設計されております(上記Q&A問9(答)参照)。

3. 結び

その他関連情報をご覧になりたい方は、文化庁「授業目的公衆送信補償金制度の早期施行について」がまとまっているので参考になさってください。

弊所は、大学と顧問契約を締結しておりますが、この問題はタイムリーにご相談がございました。悩まれている教育機関、教師の方は多いように感じます。
著作権法全般についてご相談がある方は、お気軽にご連絡ください。

弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
所長 弁護士 弁理士 西脇怜史
(お問い合わせは、https://nipo.gr.jp/contactus-2/)


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