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にじさんじのユニット曲たちを聴いてきた ~Virtual to LIVEから、暗躍者たちのエレクトロソングまで~


はじめに  個性、グループ、そしてシンフォニー


YouTuberは「個性」や個々人の好きなものを発信する場所として考えられている。その一方でにじさんじの魅力として語られているのが「てぇてぇ」という言葉に代表されるような、ライバー同士で起こる関係性、コラボレーションの魅力である。

ひとりではできないことだって、ふたり、さんにん、さらにいっぱいの友達たちとならできるかもしれない。そういえばビートルズだって、その魅力の一部は個々人の才能だけではなく、その個性を重ね合わせたコーラスワークだった。

また、この記事をまとめるにあたって感じたのは、そうした集団制作は個々人の個性の発露というよりも、その個性のぶつかり合いが奏でるひとつの現象のように映った。例えばVtlやWonder Neverland、インレイドのような曲は個性というよりもPVの作りからもわかるように、色の重なりや電気のような現象を描く交響曲に聞こえた。その織られた網の重なりを、ちょっとだけ覗いてみよう。

※前回のソロ曲レビューと同じ方針で、「アルバムの出ていない」かつ、「Spotifyで聴ける」曲を選んでいます。ただし、海外勢に関しては、自分の知識不足が激しすぎて、まだレビューしていないものが多いです。ご了承ください。

また、ソロ曲を聴いてきたシリーズと、今回のこの記事で紹介した曲の大半は、DAMのカラオケにじさんじ特集により、その多くが歌えるようになっている。


にじさんじ Virtual to LIVE

歌い手:月ノ美兎、静凛、樋口楓、える、剣持刀也、森中花咲、シスター・クレア、緑仙、ドーラ、本間ひまわり、鷹宮リオン、ジョー・力一

作詞・作曲・編曲:kz

2019年8月に出来た、「にじさんじ」という概念、そしてバーチャルに生きること、そのことの意味を伝える曲。バーチャルユーチューバーの世界において、最も大事に歌い継がれてきた曲のひとつ。最後のコーラス部分は月ノ美兎『Moon!!』を意識されているという。ざっと検索しただけでもメイフ版にじさんじ国際歌リレー企画版ex Gamers版さんばか版SMC組版NIJISANJI ID版と、それぞれのグループの節目の時期にカバー動画が出されている。

にじさんじのはじまりは、孤独な一人ひとりの「」だった。それは画面のこちら側も、向こう側も変わらなかった。

この2年ほどでにじさんじを始め多くのバーチャルユーチューバーファンの方々と話してきた。バーチャルユーチューバーという存在自体が刹那的なもの――いつ終わってもおかしくないものと、ある部分では感じてきた人が大半だった。

画面のこちら側も向こう側も、自分の言葉がどう届くかはわからない。だとすれば、いつこの魔法の時間が終わるか分からないことを感じていたのはライバー側ならなおさらだろう。

好きなゲームや人、演劇や物語にかけてきた想いは、実は窓の向こう側に届いていた。笹木が引退後に何故かあるゲーム会社から許可が出たように、ラグビー日本代表戦で男泣きしていた舞元にスポーツの依頼がやってきたように。

livetuneさんはミュージシャンkzによるソロプロジェクト。個人で初音ミクがボーカルの作品「Pacaged」を発表後、Google ChromeのCM曲「Tell Your World」が大ヒット。さらに2014年にはBUMP OF CHIKENの曲「ray」の初音ミク調声を担当。ジャンルを超えて、インターネット音楽の先頭を走り続ける。


Wonder NeverLand

Vocal:花畑チャイカ、町田ちま、ジョー・力一、健屋花那、卯月コウ、レヴィ・エリファ、リゼ・ヘルエスタ、鈴原るる、メリッサ・キンレンカ、不破湊、

Lyrics & Music: kz 
Arrangement: kz,やしきん

PALLETE 1

Virtual to LIVEの続編のように聞くことができる一曲。Vtlの時は、声自体はひとりひとりのものだったのに、この曲では主語が「僕ら」になっている。

しかもこの「僕ら」は厳密にいうと、同じ方向を向いているわけではなくて、まるで星座がそもそもは一つ一つの星でしかないように「バラバラ」で、輝き合う。

ネバーランドはもともとピーターパンに登場する、どこで誕生したのか分からない不思議な島だ。この曲のPVにもライブをやってきた場所の名前が静かに刻まれているように、その場所で起こった、やかましくステキな出来事が忘れても思い出せるように反響し続けている。


にじさんじPALLETEプログラムは、3周年を記念してイラスト、漫画、動画などの二次創作によって支えられてきたことへの感謝と、一緒にクリエイティヴの世界を描く願いを込めたプロジェクト。「Wonder NeverLand」「虹色のPuddle」「Virtual Strike」「Trial and Error」の4曲が発表された。

(参考)


虹色のPuddle

Vocal:三枝明那、フレン・E・ルスタリオ、加賀美ハヤト、樋口楓、葛葉、夜見れな、鷹宮リオン、緑仙、星川サラ、シェリン・バーガンディ、剣持刀也

Lyrics: KOHSHI ASAKAWA, KEIGO HAYASHI
Music: TAKESHI ASAKAWA
Arrangement: FLOW

PALETTE 2

かわってこちらの曲は、ロックバンドFLOWが作った曲らしく元気がはじけ飛ぶロックチューンになっている。特に中盤のラップは、アニメで彼らの曲を聴いた人からすれば、FLOWのボーカルたちがのり移ったような気持ちになる。

そして何度も繰り返される、歌いやすくクセになるサビは、生配信に向かっていくライバーたちを強く応援していくだろう。

FLOWは、2000年台を代表する5ピースロックバンド。特に『NARUTO』『交響詩篇エウレカセブン』『コードギアス』といった大ヒットアニメとのタイアップソングで大きく当時のアニメファンの心をつかむ。

にじFes2011前夜祭ではにじさんじのメンバーたちと対バン。虹色のPuddleを披露した。

(参考)

【裏話】「虹色のPaddle」レコーディングの話しをするフレン【フレン・E・ルスタリオ/にじさんじ/切り抜き】


Virtual Strike

Vocal:早瀬走、メリッサ・キンレンカ

Written, Produced by TeddyLoid
All Instruments, Programming by TeddyLoid

早瀬走さん、メリッサ・キンレンカさん、溌剌とした黄色をモチーフにしたパワフルな歌声の二人による一曲。やはり「電気」というイメージを想起させる色だからか、バチバチとした音使いがTeddyLoidさんにより作られている。(もう少しエレクトロミュージックに造形が深ければ、音の話ができるのだが申し訳ない・・・)

加えて、この曲は日本語バージョンだけではなく、

English Ver. feat. Finana Ryugu   Indonesian Ver. feat. ZEA Cornelia  Korean Ver. feat. Nun Bora    Chinese Ver. feat. Shaun

の4バージョンがリリースされた。

日本の男性音楽プロデューサーとして、Ado、DAOKO、HIKAKIN & SEIKINといったインターネットとクラブシーンをつなぐようなミックスを決められるDJ。2021年紅白歌合戦では「マツケンサンバⅡ」のリミックス/バックDJを担当した。

Trial and Error

Vocal:静凛、東堂コハク

Lyrics by Natsumi Tadano
All Instruments, Programming by banvox 

PALLETE 4

PALLETEシリーズのなかで一番落ち着いた曲。Virtual Strikeと同様に、各国語バージョンが存在している。

PVを見ていても、この曲だけ歌っているものがバーチャル世界の物事というよりも、夢に対して頑張っている人とその失敗、あるいは諦めについて語っているように聞こえる。

にじさんじを見る人の全てがバーチャルの世界を目指すわけではない。この曲で歌われている、スポットライトを浴びている「あいつ」はキラキラに見える。そのあいつも、暗い顔をしている時があった。そうした人生の苦しい場面にも寄り添ってきたのは、明らかににじさんじの一面だろう。

夢を追う人の、モヤモヤや葛藤に寄り添う一曲。


2012年に「Buildup Monster」「FAlling」「Instinct Dazzling Starlinght」といった曲たちをチャート入りさせ、Google CM曲を担当するなど、普遍的に愛されるトラックメーカー。


PALLETEシリーズで重なり合っていたシンボルマークを作っていたのは有馬トモユキさん。


Hurrah!!

Vocal: 月ノ美兎、笹木咲、葛葉、リゼ・ヘルエスタ、星川サラ、不破湊、アクシア・クローネ

作詞・作曲・編曲:じん

2022年のにじさんじフェスのメインテーマソング。

じんさんらしい、アップテンポだがはっきりとメロディーと歌詞が聞こえてくるポップロック。おそらく、にじさんじの曲の中でもかなり最高音が低く若干女性陣が歌いにくそうだ。

一曲の中で激しくパートが変わっていくドタバタな様子と、サビで一気に全員の声が合わさり、メロディーラインが一段上がる時に、何回も背中を押してくれる一曲。この曲のサビをにじさんじ甲子園の応援に使うと合いの手もあって、めっちゃよさそうだ・・・。

じんは、じん(自然の敵P)として2011年より活動するボカロP・作曲家。『カゲロウデイズ』から始まる楽曲を元にしたシリーズ「カゲロウプロジェクト」は、ボーカロイド界の一大ムーブメントを巻き起こした。近年はRaindropsへの曲提供や、個人名義での楽曲発表を行っている。

1 ∞ COLOR

Vocal:にじさんじ元一期生(月ノ美兎、樋口楓、静凛、える、勇気ちひろ、鈴谷アキ、モイラ、渋谷ハジメ)

作詞/作曲: れるりり
編曲: teppe

2021年の公演「initial step in NIJISANJI」のために作られた一曲。

この曲がこのタイトルなのは、社名が変わってもやはり「いちから」という言葉に強い思いがあるのだろう。活動4年目を超えても一人も欠けなかった、にじさんじ一期生。

PVに登場するサイコロは、いちから時代のシンボル。転がる偶然のサイコロは、街を色々な色に染め上げた。この曲で歌われている「ありがとう」の言葉たちは、1期生のみんなからみても「有り難い」、奇跡のような毎日だったと、伝えているように聞こえる。


ボカロPとして、いわゆる電波曲の一種である「脳漿炸裂ガール」シリーズや「神のまにまに」をヒットさせた。にじさんじ一期生は、初期から「Mr.Music」を大事な曲として、3Dライブなどで歌い継いでいる。

あいがたりない(feat.中田ヤスタカ)

作詞・作曲・編曲:中田ヤスタカ
歌:バーチャルリアル(ミライアカリ、電脳少女シロ、猫宮ひなた、月ノ美兎、田中ヒメ、鈴木ヒナによるVTuberスペシャルユニット)

厳密にいえばにじさんじの曲ではないが、バーチャルユーチューバーの世界にとって大きな意味のあるコラボとなった一曲。バーチャル四天王と呼ばれたミライアカリさん、電脳少女シロさん他、にじさんじからは月ノ美兎委員長が選ばれている。

中田ヤスタカ作品にある「パーリーない」「AIと愛」のようなゆるーい韻や言葉遊びがさりげなく詰め込まれている。メロディラインの裏側では、いつもきらびやかなオルガン?にも似た音がなっており、バーチャルの不思議さを音で表現しきっている。

なお、アニメを見る際は、自己責任でお願いする。(委員長の証言

Perfume,きゃりーぱみゅぱみゅ,CAPSULEのプロデューサーとして、渋谷系のニュアンスを引き継いだまま、新しい世界を切り開き続ける日本を代表するDJ/トラックメーカー。


ド葛本社 Fam☆Fam☆Time!

Vocal:ド葛本社(ドーラ、葛葉、本間ひまわり、社築)         作曲:DJ Genki                           作詞:yukacco                           動画:りゅうせー

2019年時点で作られていた、「家族」をテーマにして作られていたグループの四人組の一曲。男性2人、女性2人のグループで、しかも同性同士で得意な音域が違うため、声の重ね方でそれぞれ一行の意味が変わっていく、不思議な四人組の一曲。


DJ Genkiこと、彦田元気さんはHARDCORE TANO*Cなどに所属するDJ。羽田野渉、山崎はるかなどの有名声優に多く曲を提供している。今回、ド葛本社の縁があり、こちら側のアルバムにも参加することになった。


ヨツバフォエバ

Vocal:ド葛本社(ドーラ、葛葉、本間ひまわり、社築)

作詞・作曲:sasakure.UK                      MIX:藤井 辰好(Jack zoo Ray Studio)
     

1曲目から2年後、4人で遊びまくったド葛本社の4人は、オフラインミーティングライブや3D配信で遊びまくっていた。実は『ヨツバフォエバ』が発表されてから、非公式wikiなどを見る限りド葛本社の放送はない。

明確にユニットがなくなったわけではない。この曲の中盤に「離れても 離れないようにいこうよ」という歌詞がある。どちらかというとこの歌詞は、この時期からくろのわや個人の楽曲など本格的な展開が始まっていた葛葉くんを始め、それぞれが活動を増やす中で一緒に時間を過ごしていなくても、家族はずっといることを暗示しているように聞こえる。

人と人の繋がりを思い返す一曲。



le jouet P.F.M.

Vocal:le jouet(夢追翔、加賀美ハヤト、緑仙)

Lyrics, Music:ぼっちぼろまる                                                                            Arrangement:zukio

タイトルのP.F.MはPerfume(香水)のことだろうか。夢追くんや加賀美社長を追ってきた人からすれば、かなり新しいタイプの曲を歌っているように聞こえそうな、アイドルソング。さらに、このこの曲を作っているのがぼっちぼろまるさんというので、作曲できる曲のテリトリーの幅に驚く。わざとダンスグループっぽくつくり、この3人のイメージングをはかったのを感じる一曲。


ぼっちぼろまるさんは、初期のころから緑仙などVtuberたちに曲を提供していた作曲家。時にVtuberと呼ばれ、時にVtuberではないと言われ、その狭間で戦い続けた方でもあり、今年Tiktokで「おとせダンサー」が大バズリすることになった。

Viking

Lyrics, Music:ぼっちぼろまる
English Lyrics:江戸レナ

Vocal: le jouet(夢追翔、加賀美ハヤト、緑仙)

社長の衝撃的なデスボイスからはじまる、冒険を歌った一曲。英語の歌詞はVtuberの江戸川レナさんが担当しており、2000年代頭のラウドロックのような構成になっている。

英語の歌詞の部分も、歌詞の部分も、全てが前に進んでいく自分たちのミライに思い切り希望を描いている。

le jouetは、夢追翔、緑仙人、加賀美ハヤトの三人により組まれたユニット。名前の由来は「おもちゃ」から。


こじらせハラスメント 全力ブーメラン

Vocal:こじらせハラスメント(弦月藤士郎、相羽ういは、緑仙)

-Sound Producer
弦月藤士郎

弦月さんと緑仙が雑談放送中に徐々に詩を書き、最後に相羽ういはさんを招聘して誕生したユニット/デビュー曲。実際の生放送を見てみると、歌詞の一行一行を、配信者側の目線で書いていった結果、どんどん煮込みすぎた鍋のようにギトギトの歌詞になり、何故か本人たちの心に刺さってたらしい。

歌詞が「私」と書いてあることを「僕」と歌っていたり、弦月さんが高音パートを歌っていたり、この曲のためにおそろのワンピースが作られていたりと、情報量の暴力と、配信者である彼女たちの状況をメタ的に見る視点が、好奇心と考察を誘う。一方で、Bメロ終わりの引き(なんてね?)から、サビの「全力ブーメラン」という合言葉の繰り返しが、王道のポップソングであることを外していない。

アイドルたちの共犯者になることを誘ってくる、怖くてかわいい一曲。

にじさんじ所属、弦月藤士郎さんは初期から「NEWインド」、名取さな「てあらいうがいの歌」、▽▲TRiNITY▲▽「L♡ファンファーレ」、VΔLZ「浮世の演舞」といった作品の作詞作曲/Mixしている。


インターネットは最悪

Vocal:こじらせハラスメント(弦月藤士郎、相羽ういは、緑仙)

-Sound Producer
弦月藤士郎
-Lyrics
こじらせハラスメント

『全力ブーメラン』がこれから活動を始めるアイドルの宣言(光)ならば、この曲は、インターネットに生きるアイドルたちの日常(闇/病み)を描いている曲。ただし、歌っている部分の歌詞は、意外と意味よりも韻を大事に作られている感じがする。

インターネットで起こる出来事は、自分自身を偽ろうと思えばいくらでも偽れるし、他人の意見を自分の意見のように取り繕うこともいくらでもできる。そんな場所では、確かに信じられるものなど存在しないのかもしれない。しかし、それでもアイドルとしての生活は続く。怒りというよりは、その倦怠感にも似た空気感を、曲でまるまる描き出すことに成功している。

中盤の台詞パートをよくよく聞いていると、「まさかにじさんじのライバーたちもここまで見てしまっているのか?!」みたいな気持ちになっている。しかし、何を言っているか分かってしまっている時点で、あなたも最悪インターネットの仲間入りである。


こじらせハラスメントは、緑仙と弦月さんが雑談をしていた時に『全力ブーメラン』という曲が作りたいねと話したことがきっかけで出来た三人組アイドルグループ。Spotifyになかったため今回は感想を書いていないが、『大切なお知らせ』『渋谷ナイトタクシー~18350~』と次々と新曲が発表されており、実は後天的に出来たグループの中で最も活発なユニットのひとつ。

Ranunculus DONBURA KONBURA SPEAKERS

Vocal: Ranunculus(天ヶ瀬むゆ、先斗寧、海妹四葉)

作詞・作曲・編曲:広川恵一 (MONACA)
Mixing Engineer:前田和哉

デビュー時からいきなり新曲を出す例は、個人配信内で発表することはあったが、三人の全体曲を出すのはRanunculusが初めて。グループの名前は「金鳳花」という花を意味しており、花言葉は「栄光」や「子供らしさ」。

そしてこの曲は、この花言葉を実はぴったりなぞるようにGloryという言葉が書かれている。そして「わからないことが一番の武器」であるのは、まさに子供らしい無邪気さに他ならないだろう。この曲は、ももいろクローバーZの「ミライボウル」でも使われていたように、言葉が若干ぶち切りに聞こえてもよいくらいリズムに乗れるように曲が作られている。一方で、ひとつひとつのパーツが短いということは印象的なメロディーの衝突事故が起こりやすくなり、結果的に「全労災」についてのこんなことが起こった。

VΔLZの三人によるカバー版も先日発表された。3人の冒険を全力で応援する楽しい一曲。

日本を代表するアニメ/ゲーム音楽制作集団であるMONACAに所属し、アニメ「Wake Up,Girls!」や「アイドルマスター」の曲を手掛ける。にじさんじでは、月ノ美兎「ウラノミト」の作曲/編曲を担当する。

Ranunculusは、2022年3月16日にデビューした、三人組。にじさんじ初の「バーチャル・タレント・アカデミー(VTA)」出身者となった。


cresc. エトワール

Vocal: cresc.(緑仙、シスタークレア、ドーラ)

作詞・作曲 ぼっちぼろまる                                                                        

編曲 HAMA-kgn (Felion Sounds)

cresc.のオリジナル曲第一弾。エトワールはフランス語で「星」の意味であり、第一弾にふさわしいまっすぐな曲。

ロックな曲を作る印象が個人的に強かった、ぼっちぼろまるさんによるポップチューン。木琴系の音をつかった編曲の工夫がHAMA-kgnさんによりなされている。「ずっとずっとキラリたい」というキメ台詞の部分で、1音ずつ上がるメロディーラインがポイント。他の曲と比べると、女の子衣装だからか、cresc.の曲だと緑仙が女の子っぽく歌っているようにも聞こえる。


cresc.は、三人の頭文字を取って作られたグループ。2019年から長く活動している。


殺屋中毒

Vocal: cresc.(ドーラ、緑仙、シスタークレア)

Lyrics,Music:アザミ

1曲目からうってかわって、マイナー調で世界に対して斜に構えたような一曲。「ドグマバラバラ」の所の語感が個人的には大好きである。そして、この曲のキーパーソンは、「信じれば救われる」の部分を歌っているクレアさんである。シスターのはずなのに、神様を突き放したマフィアのような曲を歌えば、そのギャップの強さに色々な想像を掻き立てられるはずだ。

そしてSEEDSファンには重要なことに、この曲の自己紹介などの部分は、4年前に行われたSEEDsマフィアという声劇シリーズを知っていると、裏設定まで読みに行けてしまう。ここにも、ファンを自分たちの沼に巻き込もうとする策略が展開されている。


Vtuberであり、シンガソングライターのアザミさんは、妖しげな愛の様相を歌う。緑仙との共作が多く、「ベニクラゲ / アザミ feat. 緑仙」を2022年4月にリリースしている。

mischief

Vocal: cresc.(シスタークレア、ドーラ、緑仙)

Lyricist: hijiri
Composer: hijiri

mischiefは「いたずら」の意味。チップチューンぽい音を絡めて始まった一曲には、よわーく声に対してエフェクトが入っている。特にタイトルがいたずらと書いてあるように、二番が終わった瞬間突然音が消えるので、「曲が終わった」と勘違いさせる効果を持たせている。サビの部分では、三人の声が重ねられているのだが、生声のまま合わせるので出にくい、一人が歌っているような感じが出ている。

ひじりさんは、夜に生きる人たちのふわふわした空間を描く作曲家。式部めぐりさん、 BOOGEY VOXX、あかつきるき等、Vtuberへの楽曲提供をメインに活動している。


フルトイ ゲッカビジン

Vocal:フルトイ(フミ、白雪巴、ルイス・キャミー)

◆music&lyric:すこっぷ 様

ボーカロイドの世界でよく特徴として挙げられる、テクニカルなコード進行と廃退的な歌詞の、その二つを花魁の世界に落とし込んだような一曲。フミ様が間違ってswichを二台かった結果この曲が出来たとなると、人生摩訶不思議である。

「私だけしか見ないで」と「三人」に言わせるのは、なかなかに意地悪な歌詞である。

すこっぷさんは、『アイロニ』『ケッペキショウ』『クライヤ』といった、人の心の中のキズを静かになぞりながらよりそう、ミドルバラードが有名なボカロP。

百鬼マスカレイド

Vocal:フルトイ(白雪巴、ルイス・キャミー、フミ)

◆music:buzzG 様

投稿されたアカウントがルイスさんのチャンネルなのがわかるように、今度は西洋の舞踏会に潜入する怪盗を意識したような一曲。

一方で、歌詞を見ると西洋のイメージに、「あやかし」「がしゃどくろ」と、むしろフミ様に近い、日本の妖怪のイメージが撃ち込まれている。そして二番の後のCメロのフミ様のひとりパートが、この曲のかっこよさのキメ処になっている。

buzzGさんは加賀美ハヤト「トレモロムーン」をはじめ、GUMIの曲「しわ」「かくれんぼ」など、多くのロックチューンを作り出すボカロP。

恋なんて蜃気楼

Vocal:フルトイ(白雪巴、ルイス・キャミー、フミ)

music&lyric Nem◆ 様

米津玄師の「POP SONG」などが日本では代表的な、いわゆるエレクトロスイングと呼ばれるジャンルに当たる一曲。お茶らけた様子や、けだるい様子を表す曲風に的確にフィットする。

そして、前二曲とうって変わって、現実世界に生きるOLの女性の本音をぶち込んだ、ぶっちゃけソングである。2番はルイスさんから入っていくラップっぽい部分になったかと思えば、Cメロの「古いフォルダ」を思い出すところで、一瞬ノスタルジーを感じさせてからの、「いつだってx3」と「転調なしで」からの、大サビ(ドラムの手数が明らかに増えている)で、OLさんたちのいらだちの盛り上がり方を演出している。


ボカロPのNemさんは「嗚呼、素晴らしきニャン生」「怪盗ピーター&ジェニイ」「シザーハンズ」のような、おしゃれな夜の空気感を演出するような曲が代表曲。

フルトイは、元々麻雀用語のトイトイから「フルートイトイ」という名前だった。2020年冬から一緒に配信をするようになり、妖しい夜のお話を繰り広げている。

夜見れな,天宮こころ& 魔使マオ 女子会えぶりでいっ!

Vocal:夜見れな、天宮こころ、魔使マオ

Lyricist: Highkara Sound
Composer: Highkara Sound

配信中は活舌や、ゲームプレイがとろとろ(?)な三人だが、歌はビシッと決まっている。ゲームと女子会が主題に作られた本作は、チップチューンらしい音がそこら中にちりばめられた一曲になっている。三人が声を合わせるパートと、台詞パートが目まぐるしく変わり、ラストサビ前からラスサビ後も新しいメロディーラインがすっと入ってくる。

しかし、この歌詞だと、番組にやってきた人たちみんな強制徹夜モードにつれていかれてないだろうか・・・?


ハイカラサウンドさんは、アニメ音源をなるべく原曲再現したカラオケ音源を制作するスタジオ。上記のページを見れば分かるように、にじさんじやホロライブのカラオケ音源を支える影の功労者。


『ゲームる?ゲームる!』は、『ヤシロ&ササキのレバガチャダイパン』の後継にあたる、にじさんじの新しいゲーム番組。ツッコミ不在のどんちゃん騒ぎが繰り広げられている。

Nornis Abyssal Zone

Vocal: Nornis (町田ちま、戌亥とこ、朝日南アカネ)

作詞:螺子アリサ, Yocke
作曲/編曲:夢見クジラ

にじさんじの中でも、歌唱力の高さでにじさんじの枠を超えて聞かれていた3人による新ユニット。PVではすでに、Vtuberの姿ではなく、ひとりの力強く生きようとする女性の姿を、アニメ監督の山下RIRIさんが描いている。

タイトルのAbyssal Zoneとは深海帯のこと。PV中には、一瞬作曲をした夢見クジラさんを思わせるような大きなクジラも泳いでいる。特にラストの落ちていくサビの部分では、3人だからこそできる別メロディーでのハーモニーが光る。

にじさんじのこれまでの曲の多くは文字による「メッセージソング」の意味合いが大きかった。しかし、この曲はボーカルの一言一言を丁寧に歌う上手さや、曲そのものが伝えようとする情景が主題になっている、これまでにはなかった曲になっている。


夢見クジラさんはデヴィッドフォスター、チックコリアや上原ひろみといった幅広いアーティストに影響を受けながら、ストリングアレンジを基調とした曲を倉木麻衣さんやアニソンシンガーたちに提供している。

Daydreamer

Vocal: Nornis (町田ちま、戌亥とこ、朝日南アカネ)

作詞:螺子アリサ, Yocke
作曲/編曲:Ash

Nornisのオリジナル2曲目。イラストレーターに80年代を思わせる絵を描く田中 寛崇さんを起用したこともあり、Yacht Rock(totoやスティーリーダンなど、さわやかでギターのカッティングを多用する、落ち着いた曲調のロック)やシティポップを思わせる一曲。

この曲も、描かれたイラストはNornisの三人ではない。もうすこし作曲のAshさんに迫ってみたかったものの、お名前がシンプルだからこそ、うまく検索して探し出すことができなかった。

しかし、一聴していると良い意味でこの曲がバーチャルユーチューバーの文脈を飛び越えはじめていることを感じるだろう。タイトなベースラインとインストに融けるようなボーカルライン、跳ねるようなリズムが、ここではない夏空の景色に僕たちをいざなってくれるだろう。


「3人にしか作り出せないハーモニーを届けるため、2022年6月にユニットとして活動開始。」町田ちま、戌亥とこ、朝日南アカネの三人による、本格的シンガーズユニット。

VOLTACTION インレイド

Vocal: VOLTACTION(風楽奏斗、渡会雲雀、四季凪アキラ、セラフ・ダズルガーデン)

作詞・作曲・編曲:R・O・N

にじさんじに突如出現した、裏社会からやってきた4人組がリリースした一曲。ヴォルタクションは、「電圧」という意味もあるが、この四人の出自を考えると「ボルトアクション」という古くからある銃の打ち方の方式もなぞっていそうである。PVは1番のみだが、フルの音源が存在する。

切れ味の鋭いギターリフの上に、この社会への虚無感をけりとっばすような歌詞をもらった4人組の進む道はどっちだろう。


STEREO DIVE FOUNDATIONは、「境界の彼方」「ノブナガ・ザ・フール」「GANGSTA.」といったアニメの曲を制作する、作曲家R・O・Nさんの個人プロジェクト。

VOLTACTIONは、2022年7月にデビューした4人組。現実のアイドルでいえばSixtonesのように、グループでのチャンネルも持ち、新しい時代の活動方式を探る。


まとめと問い にじさんじは新しい「スタンダード」を作れるか?



前回、今回とにじさんじの曲たちを触ってきて感じたのは、①文字数の圧倒的多さ②BPMの速さ③文脈により読み取れることの多さの3点である。①②は恐らく、ボカロPの曲を聴いて育った世代というのもあるだろう。

そこで、個人的に浮かび上がった問いをひとつ記してみよう。それは、果たしてにじさんじはウルフルズやYUIさんのように、シンプルかつジャンルを超えて聞かれる曲を作れるだろうかという問いである。この2名のアーティストは、歌詞の上に強く文脈がのっているわけではなく、難しい言葉遣いはつかわない。特にウルフルズは、『ええねん』『ガッツだぜ』『笑えれば』という曲たちは、すでにタイトルの時点で言いたいことは言ってしまっているシンプルさだ。

しかし、明らかにその歌・音楽が普遍的に、時代や場所を超えて人々を勇気づけている。もっと前であれば井上陽水の『少年時代』、最近であれば米津玄師の『Lemon』やあいみょんの『マリーゴールド』のような曲は、どんな世代の人でも戻って来れる家のような曲たちだ。こうした曲を『スタンダード』と呼ぶ。この意味で、『Virtual To LIVE』は明らかにVTuber/バーチャルユーチューバーの文化の中でのスタンダードになった。

ユニット曲を特集するなかで、特にPVにVtuberのイラストを使わなかったNornisを始め、明らかにネットカルチャーだけじゃない目線(歌唱力、ファッション、アイドル・・・)を狙っている曲があった。果たしてこれらの曲がミュージックステーションに出るほどの知名度や、ずっと語り継がれる伝説の曲となることはあるだろうか?

ふと、まとめていてこんなことを感じた。

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