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自分で決めて、前に進む⑤

少し間が空いてしまいましたが、前回の投稿では、「自ら問いを立て、課題形成し、実現に動くこと」を支える側面のひとつとして、

個々人の視点を活かし、相互の連携を促して思考を拡げたり深めたりしながら、一歩先、さらにその一歩先へと背中を押していく職場環境へのアップデート

が必要になることを述べました。

その前提として、「自ら問いを立て…」という仕事のスタイルをとれるかどうかは、必ずしも組織内のポジションや年次、経験値で決まるわけではなく、いまの環境、立場でそのような振る舞いが許されている(と思える)のかが大きなカギになるのではないか、という見立てを置いていました。

一方で、同じ職場環境にあっても、自律的な行動をする人もいれば、そうでもない人が存在するのも事実です。

そこで、今回はもうひとつの側面として、個人能力の成長に焦点を当てて考えたいと思います。

はじめに、人の能力の成長には、大きく分けて二種類の方向性があるとされています。

ひとつは問題解決力や育成指導力など、仕事のパフォーマンスに直結したものと考えられることの多い「スキル」や「行動」面での成長。

もうひとつは、人格や人間性といった「心」や「器」という面での成長。ここ数年で国内でも知られるようになった成人発達理論で扱われている領域です。

PCで言えば前者が「アプリ」、後者は「OS」に例えられ、この両側面が相互補完的、統合的に発達することで人は成長していく、と考えられています。(詳しくは文末の参考書籍をご覧ください)

それでは「自ら問いを立て、課題形成し、実現に動くこと」を実践するためには、何が必要とされるのでしょうか?

「アプリ」については既に数多くの識者が教育・啓蒙を行っていますので、本稿では「OS」にフォーカスして整理します。

まずは結論から。カギになるのは「意図を起こす」という行為であり、それを支えるのは「願いにつながる知性」と「波に乗る力」ではないかと考えています。

リーダーシップ開発の文脈ではビジョンと表現されることもありますが、こんな未来を見たいという強い想いがあるからこそ、特定の場面や事象を前にしたときに「問題」を見出だすことができる。特に利他性や公益性が高く、自分自身の「内なる声」が聴かれた結果として描き出した世界観であったときに、健全な「問い」が立ち上ってきやすくなる。

このとき大切なのは、単なる現状否定ではなく、向かう先があったうえで現状とその成り行きに目を向けること。もっと言えば、いま見えている以外の世界の存在に心を開いて、現状をどのように見つめているのかをフラットに認識しようと努めること。

そのためには、自分のフィルターによって生み出された囚われであるとか、「この世界には○○があって然るべきだ」という無自覚の信念に対して、自分の期待した形ではそれがいまの世の中に存在していないという痛み(怒りや苦しみ)を受け容れること。そして、その裏側に存在する純粋な願いに耳を傾けて、この人生のなかで全うされようとしている「意図」につながり直すこと。これが「願いにつながる知性」です。

そうやって「自分はなぜこの仕事をするのか」を個人と社会の関係性のなかに位置づけ、さらには組織やチームの関係性のなかに位置づけていくことで、当面目指すアウトカムを明らかにしながら、目の前に広がる環境のなかに機会を見出だし、歩み始めることができる。

すると、その大きな方向性に共感する人たちが少しずつ引き寄せられ、その輪のなかでそれぞれの願いがエコーするようにして多元的な視点が重なり合い、一人ではたどり着けなかった新しい機会と手段が紡ぎ出されていく。さながら大きな「波に乗る」かのように、エフェクチュエーションの波を乗りこなしていく、ということなのです。

つまり自律的な行動ができるかどうかは、個人としてこうしたOS側の能力を磨き、同時にアプリ側の能力も身につけて、実務で試行錯誤しながら両者を統合して「意図を起こす」ことに取り組めるかにかかっていると言えるのです。


ただし個人能力をどこまで発揮できるか、発達過程において背伸びして挑戦しようという意欲が続くかどうかは、その背中を押すような職場環境があるかにも影響されることは、先般の投稿でも記した通りです。

それでは、私たちはどのようにして職場環境のアップデートと個々人の発達を図ることができるのでしょうか。これらを両輪として回していくことを可能にするアプローチがあり得るでしょうか。こんな問いを投げかけたところで、続きは、以下のシリーズで考察していきたいと思います。

(参考書籍)
『成人発達理論による能力の成長 ダイナミックスキル理論の実践的活用法』

『人が成長するとは、どういうことか ーー発達志向型能力開発のためのインテグラル・アプローチ』

『人の器を測るとはどういうことか 成人発達理論における実践的測定手法』


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