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自分で決めて、前に進む④

前回の投稿では、「自ら問いを立て、課題形成し、実現に動くこと」ができるようになるには、職場環境や個人能力のアップデートが必要になる、と述べました。

これを受けてまず今回は、職場のなかに個々人の多様な持ち味の発揮を促し、育む環境があるのかという視点について。

マジョリティや声の大きい人とは違った考えとか、これまであまり目を向けられていなかった領域に触れるような情報や着眼点が提示されたとき、その声はどう扱われているのでしょうか。

たとえば、そうした「異質」なものに対する受容性の低い職場であれば、

  • 即座に否定・批判される

  • 考え足りない部分を詰められる

  • 無かったものとして受け流される

といったことが起きるでしょう。また、より巧妙な返しとしては、

「頑張って考えてくれているとは思うけど、長くいるメンバーは、そういう考え方ではうまくいかないことを知っている。あなたはまだこの仕事の経験が浅いから仕方ないことだけど」

といった、やんわりとした上から目線でその声を封じ込めるようなアプローチをかけられることもあります。

一方で、様々な声が受けとめられるタイプの職場であれば、

  • 詳細について質問される

  • 背景にある想いを聴いてもらえる

といった向き合い方をされるでしょう。それぞれの人が発する言葉に、正しいも間違いもない。それぞれの立ち位置から見えること、考えられることは、その人の経験する世界での現実であり、他者に否定される筋合いのものではないのだから、と。

ただ、この場合に難しいのは、それぞれの声が尊重され、受けとめられたように見えても、そこから具体的な課題形成や実行につながるとは限らない、ということだと思います。

「異質」な考えというものは一般に、その組織のなかで実行・検証された経験が乏しい。だからその意見やアイデアは粗削りな状態であったり、どう着手するのか本人にも明確なイメージがつかないこともある。したがって、問題提起にしても、打ち手の発想にしても、そのままの形では前に進められないケースが多い。

ここで大切なのは、各自の声がただ聴かれるということにとどまらず、その声のもたらす意味が吟味され、適切なフィードバックがかかるということなのだと思います。

つまり、個々人の多様な持ち味の発揮を促し、育む環境を備えた職場では、

  • この発言の面白い点はどこか/それはなぜか

  • その面白さを活かすためにさらに何を考えるべきか

といった探索がなされていくわけです。

各人の声のなかに「磨けば光る原石」を見出だして、それをどんな文脈に載せて、いかに価値を生み出していける可能性があるのかを組織的に考え、試行錯誤のなかで実現に向かっていく。

これは、確実性と自己完結性の高い計画を持ち込まなければ実行承認が得られないような環境とは、ある種、対極にある組織文化であり、マネジメントスタイルとも言えるかもしれません。

いま現実問題として「自ら問いを立て、課題形成し、実現に動くこと」という行為を個人が一気通貫でできることなど、ほとんど無いように思います。

様々な分野の知見を自ら発掘・統合して考えられる人、周りの助けを借りることが上手な人、簡単なプロトタイプをつくって実験できる人などは、個人の裁量で物事を進められる範囲は広いのかもしれません。それでもなお、組織のなかで「自分で決めて、前に進む」ためには、様々なタイプの人たちが相互に連携しながらでないと突破できない壁があるものです。

個々人の視点を活かし、相互の連携を促して思考を拡げたり深めたりしながら、一歩先、さらにその一歩先へと背中を押していく、そんな職場環境へとアップデートしていくことが必要ではないかと思います。

次回はさらに、メンバー自身がいかに個人能力を研いていけば良いのかを考えます。

(つづく)


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