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コーヒーと外套、あと冷たい風



ひんやりとした風が心地よく感じられる朝に
遠く離れたコンビニまで
コート1枚羽織ってコーヒーを買いに行く

イヤホンをつけて
好きな音楽を聴きながら
どこを見るともなく
ぼんやりと遠くの景色を見つめながら歩く

どうして、こんなにも穏やかで
幸せだと感じているのだろう

道中小学校の横を通り過ぎ
小さい子供が兄貴らしい青年と
シーソーの周りを走り回っている光景を見て
凄く幸せな気持ちになる

別に、自分の弟でも家族でも
知り合いでもなんでもないのに

頬を切る風が冷たいというだけで、
凄く気分がいい  楽しいと感じる

どうして、こんなにも気持ち良いのだろう

コンビニでコーヒーを買って
一口啜って私はまた
もと来た道を歩き始めた

あんまりにも心地良いから
誰もいない公園でブランコに揺られてみる

空が青く光っている
稚拙な表現かもしれない
それでも光って見えるんだ

どうして、幸せなんだろう

確かにまだ、きついこともある
自分の欠けているところに
嫌気がさすこともある

それでも、今持っているもの全てを失っても
僕は幸せでいられる気がするんだ

満たされたから

昔雲を掴むような思いで
必死に手に入れようとしていたものが

実はもう既に
私の中にあったのだと
気づいたから

私はブランコに揺られている

大人になるために
胸の奥に仕舞い込もうとしていた童心が
じんわりと、胸の内から湧き上がってくる

ちょっとくらい、遊んでみようかな
もう少し、遊んでみようかな

ちょっとくらい、いいよね
いいでしょう?

前は出来なかった高さまで
ブランコを漕いで高い所まで行ってみる

誰も見ていない
最高な気分だ

あぁ、そうか
やっと「大人気ない」が出来るようになったのか

自分が少しずつ
歳を重ねていることを実感する

昔は背負っていなかったものを
今は肩に乗せて
一歩一歩踏みしめながら歩いている

辛いことがあっても
変わらない穏やかな毎日を
自分の力で守っていけるようになるなら

大人になるのも悪くないのかもしれない



何のために生きているのか
昔はずっと考えていた

でも、今なら分かる

私が生きていく理由は
「今まで受けてきた恩に報いるため」だ

こんなにも弱くて何も出来ない自分が
せいぜいここまで来れたのは
沢山の人が力を貸してくれたからだ

才能のない凡人でも
素直に人を頼っていたら
思ってもみない所まで来れた

これからも道は続いていく

空の青さに感激できないときも
周囲の全てが騒音に聞こえる時も
自分の全てが嫌になる時も

きっとまた来るだろう

でも、今の僕には
帰ってくる場所があるんだ

戻ってこれる場所がある
ここまで支えてくれた人たちの顔も浮かぶ


空の青さに魅せられて
無心で飛んでゆく渡り鳥のように
ただ、その一瞬を生きてゆく
それがきっと、生きる答えだ

ただ一瞬を生きて
時折周りの環境が与えてくれる恩義に感謝し
進むべき道を正して進む

ただ淡々と生きてゆく

これまで受けてきた沢山の恩に報いるために
自分も同じものを人に与えてあげられるように

私はきっとどこまでも飛んでゆける
遠くへ舞ってゆく渡り鳥



どうしてこういうときに思い出すんだろう
今までで1番好きだった女の子のこと

一緒に絵を描いて、笑って
鉛筆や消しゴムを取り合って
バスの中で突っつきあって遊んで

特にたくさん話してた訳じゃないのに
あんなにも一人の人で頭が一杯だったのは
今までにあの子しかいなかった

今となっては
どうしてあの子のことを好きだったのか
上手く思い出せないけれど

凄く好きだったことだけは
よく覚えている

あの時の実感が、今も胸の中に残っている

どうして今思い出すんだろう

冷たい風が吹いている
ここには誰もいない
私は遠くの空を眺める

どうして、今思い出すんだろう

きっと、あらゆる困難を乗り越えてきて
そろそろ向き合うべき時がきたのだろう

大切なものを失いたくなくて
もうこれ以上寂しさの渦で泣きたくなくて
一人でいることに慣れようとする
ずるくて弱い惨めな自分を
克服しなくちゃいけない



もう一生分人を好きになった6年間だったのかと
たまに不安になる時がある
もうあれ以上のものは手に入らなくて
あとはすり減らすだけの人生なのかもしれない

もしそうだとしたら
僕の人生は永遠に未完のままだ

もし、あの時の感覚がもう一度
手に入ると分かれば
僕は全てを捨てるかもしれない

いや、僕には分かる
僕は全てを捨てるはずだ

今まで積み上げてきたもの全部

プライドなんて全捨てして告白する
僕は周りの人が羨ましい

人の幸せは素直に祝福する
そこに卑しい感情は抱かない

それでも、僕も欲しいんだ
また本気で人を好きになってみたい




こんな女々しいこと考えている自分が
恥ずかしくなるけれど
それだけ僕は好きだったんだ

僕は本気で人を好きになったことがある
これは一つの自慢かもしれない

本物の愛も知っているし
スキというものが何なのかも
僕は知っている

どれほど嫌なことがあっても
あの子に会うためだけに
毎日学校に通えたくらいに

僕は幸せだった

人の笑顔を見てあれほど嬉しかった瞬間は
他になかったかもしれない

今はどうだろうか
あれもこれも、どれもそれも、全部違う
あの時のものじゃない

本物を知っているから
どうしても分かってしまう
僕は好きじゃないのだと

どれだけ自分を誤魔化そうとしても
僕の心は嘘をつけない

そう気づいて虚しくなる
また、人を傷つける




ねえ、聞いてみてもいいかな
君に聞いてみたいんだ

君は、僕のことを好きだったんだろうか
女々しいとは自分でも分かっているよ

それでもどうか、聞きたいんだ
良い思い出として胸の中に刻まれているから

最後に会った時の感覚が忘れられない

大丈夫、またいつか会えるって
そう思って安心したんだ

あれから4年経って
君は変わってしまっていたけれど
それでも僕は信じているんだ
もう一度、キミに出会える気がする



手に持っているコーヒーが
もう冷たくなっている

私は残りを一気に飲み干す
冷めたコーヒーは苦くて酸い

今まで自分のためだけに生きてきた
高尚なことを唱えてきたけど
思い返せば全部自分のためだ

僕は好きな事だけをやってきた
自由に生きてきた

そこに後悔は何も無い

目指すものを持って
全力で生きてきたから

僕ほど好きなものに正面から向き合って
全力を尽くしてきた人なんて
そこら辺に沢山いるもんじゃないんだ

これだけ頑張ってきたやつが
他にゴロゴロいてたまるか

これは、誰にでもできることじゃない
ここまでの没頭は、僕にしか出来ない

でも、まだ自分ためにしか生きてこれなかった

自分のためにしか生きれていないことが
人に伝わっているだろうし
それを何より僕が自覚しているから
上手くいかないのだろう

でも、何も後悔はしていない

辛いことを振りほどいて
今を生きていくことに必死だったから

でも、僕はもう以前の僕じゃない
どうしようもないクソガキとは違うんだ

ハッキリとした意思を持って
僕は実現したい未来に向かって強く進んでいる

己の限界を知って
弱さを克服して

自身が進み続けられる限界の速度で
長く動くことができるようになった

変なプライドや執着心もなくなった
僕は今持っているものを全て失ったとしても
全く新しく生まれ変わって前に進める

僕が倒れるなんてありえない
今はもう、昔の僕とは違うんだ
僕は新しく生まれ変わった

これからは、少しずつ
利他の心を持って生きていこう

今まで好き勝手やってきた時間を
お世話になっている人や
僕の人生を彩ってくれている人達に
還元していこう

そうすることで
周りにもっと素敵な人たちが溢れていく

何かぽっかりとした穴が
心に空いているように感じるときもあるけれど
いつかきっと、またあの時にだって戻れる

きっと、また会える
ずっと会いたかったキミに

そう信じている

もう、酷いと思ったことはしない
誰かを傷つけることもしない

傷つけられても、傷つけ返さない

それが痛みを知っている
懐の大きくて愛のある人だから

僕が目指しているのはここなんだ
まだ自身の欲が邪魔することもあるけれど

それでも僕は目指している

ただのクソガキじゃない

どうしようもなくて
ワガママで好きなことしかしたくなくて
大して才能もない凡人

それでもここまで来れたから
これからも僕は進んでゆくんだ

まだまだ先が見えない
それでも前に進むしかないんだ

頬を切る風が冷たい
やはり、僕は大人になっている






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