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寝返り動作で最初に見るべきポイントと治療のヒント PT・OT動作分析

こんにちは。ReHub林です。
先日、山の中で寝返り動作の解説動画を撮影したので、背中が傷だらけになってしまいました(笑)
👉「理学療法士・作業療法士が知らないとヤバイ!寝返りの動作分析

動画の中では、数々の書籍の取り上げられている一般的なバイオメカニクスだけでは、動き出しの反応を捉えにくいということを伝えました。
これは、バイオメカニクスを否定するわけではありません。
しかし、バイオメカニクス的視点が前面に先立つことは、ヒトの動作を見る上で恐ろしいことだと感じています。

今回提案するのは、寝返り動作の動き出しを捉える動作分析です。
これは、非常に小さな身体反応ですが、動き出しを捉えて、現象を解釈することは、動作障害の根本的な問題を捉える上で非常に重要な臨床技術です。

是非、最後まで読んで頂けると嬉しいです。

基本動作の獲得について「自己組織化」のおさらい

「自己組織化」とは、“環境からの情報に基づいて動き、環境と自分の間の安定した秩序を見つけ出す作業”と定義されています。

ReHub#13サムネ(自己組織化)

自己組織化についての解説動画👉コチラ

ベッド上背臥位で、左に顔を向けた時、自分の左側にあるベッド面の拡がりやその質感を知覚します。さらに左を向いて、左側背面の支持面をベッド面に合わせて拡大していった時、ベッド面の硬さに合わせて自己身体を固定しようとしたり、動かそうとしたりします。その時のフィードバックから、左に動くとはどういうことなのか、左に転がるとはどういうことなのか、環境と自身の動作の間にある因果関係を知る作業が「自己組織化」です。

ヒトは、発達過程において、この自己組織化を繰り返すことで、基本動作を獲得していきます。
そのため、基本動作を観察・分析する際、周辺環境・支持面との関わりにおける患者の動作の是非を検討することが非常に重要なのです

まず見るべき「構え」の反応

「構え」とは、動作開始時に、次の目的動作に合わせて全身の緊張状態を調節する反応です。この反応に強く関わっているのが「予測的姿勢制御:APA(Anticipatory Postural Adjustment)」です。教科書的に、最も多くみられるのは、上肢を前方挙上する際、先行してハムストリングスなどの筋活動が生じるという内容ですね。

寝返り動作におけるAPAの反応と意味を考えてみましょう。

右に寝返るということは、身体の右側に新たな支持面を形成するということです。ヒトはサイコロのようにひと塊に転がりませんよね。
日没とともに影が伸びていくように、右への寝返り動作の中で、右側の支持面をジワジワと広げながら、新たな支持面を形成し、徐々に新たな支持面の上に身体を合わせていきます。

寝返り動作動き出し

この右側の支持面をジワジワと広げ始める最初の反応がAPAによる「構え」の反応です。
寝返ろうとした瞬間には、既に右肩甲骨で支持しようと緊張を高め、右側に支持面を広げます。この時、胸郭も右に広がる反応が生じます。

寝返り動作において「構え」の反応が生じることは、その後の上部・下部体幹の連結と体軸内回旋、骨盤の回旋へと運動を波及させ、新たに右側に形成される支持面に対して分節的に乗っかっていく準備をするということです。

したがって、「構え」の反応がなければ、全身的な協調運動をとることが難しくなるため、末梢は各部位を独立して動かさなければならず、エコな動作ではなくなります。過剰な努力を要する動作は、安定を得るために過剰な固定部位が発生します。

もう一つの“APA”

実は、APAにはもう一つ種類があります。
上で主に述べたのは動作に先行して生じる反応でしたね。
もう一つのAPAはaccompany-APAとも呼ばれており、随伴性予測的姿勢制御といいます。
動作の中で、リアルタイムに緊張状態を調節しつつ支持面に対する全身性の姿勢調節を行います。

上のチャプターで“支持面をジワジワと広げながら、新たな支持面を形成”と表現していたのが、このaccompany-APAの反応です。
これも動画で解説してありますが、寝返る側に胸郭が徐々に広がっていき、新たな支持面となる胸郭をベッド面に合わせていきます。

寝返りにおける胸郭の広がりnote

解説動画👉「理学療法士・作業療法士は知らないとヤバイ!寝返り動作の動作分析

非常に流動的で微妙な反応ですが、物凄く大事な身体反応です。

冒頭で我々ヒトは「自己組織化」によって基本動作を獲得していることを解説しましたね。
環境と自己身体との間の秩序を知ることで基本動作を行えるようになるとすれば、寝返り動作が上手く行えているかどうかを見るポイントは、支持面との関わりの中で動作できているかどうか」です。

支持面との関わりの中で動くことができていない動作パターンというのは、自己身体内部の力感によって動くということです。
そのため、過剰固定部位や過剰努力を要している部位が生じやすく、分節的な動きが難しくなります。一つの剛体、塊として動いている印象を強く受けるでしょう。

評価・治療のヒント

👉もしあなたが、動き出しの瞬間に構えの反応が乏しいと感じた場合、下肢の反応も見ると面白いかもしれません。過剰固定によって寝返る側に支持面を広げられない場合、そこで失っているエネルギーを代償するために、反対側の下肢を強く伸展してベッド面を押さえつける反応が出ることがあります。
それは反対側の肩甲帯においても同様の現象が生じる可能性があります。

支持面の変化に対する反応を評価するポイントとしては、肩甲帯や胸郭を徒手的に誘導して確認する方法があります。

寝返る側の支持面が少しずつ広がり、そこに荷重していくようにベッド面に圧を加えながら動かします。この支持面の広がりに対して、頸部や体幹・骨盤帯などの反応が波及して生じるかどうかを評価します。

他部位に波及して動作の円滑性が増す場合、その患者は寝返る側に機能的な支持面を形成できていなかったことになります。

まとめ

今回は寝返り動作でまず見るべきポイントをお伝えしました。
①「構え」の反応、予測的姿勢制御(APA)
②もう一つのAPA(accompany-APA)

支持面との関わりの中で動作できているかどうかをベースに動作を捉え、その中で先行する反応、随伴する反応、それぞれの姿勢制御が行われているかどうかが重要です。

そして、これらの反応が乏しい場合、徒手で疑似的にその反応を作り出してあげます。この徒手誘導に対する身体各部位の反応をよく観察し、動作障害の本質を見極めることで、評価・治療につなげることができるでしょう。

次回は、動き出しの「構え」から繋がるバイオメカニクス的視点についてお伝えします。

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