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災害時の安心と健康を守り 日本の食文化を継承する おみそ汁缶

TIPSが『SDGs・ダイバーシティ』をテーマに自ら取材し、発信するWEBメディアRECT。今回は、味噌づくりが盛んな信州の伝統的な味噌蔵と連携し、災害時の非常食として、平時にも美味しく食べられる「日本の食卓 郷土のおみそ汁缶」シリーズの開発を手掛ける 株式会社いつもこころは太陽と を取り上げます。代表取締役の弓田望氏に、おみそ汁缶の特徴や開発に至った経緯、品物に込めた思いについてお話をうかがいました。

弓田 望(ゆみた のぞみ)氏
株式会社いつもこころは太陽と 代表取締役。大学卒業後、一般企業に就職し運送事業を経営。30歳のときに、幼少期からの夢であった医師を目指すことを決意するが、その後の経験を通して「メスを持たない医療」の道を進む。予防医療やリトリートの取り組みのなかで長野県に魅力を感じ、自身も長野県に移住して、2019年7月に 株式会社いつもこころは太陽と を設立。その矢先に起きた千曲川の氾濫(令和元年東日本台風)での経験を通し、味噌汁缶の開発を始める。2021年1月、「日本の食卓 郷土のおみそ汁缶」シリーズの販売を開始。


■ 日本の食卓 郷土のおみそ汁缶 とは

「日本の食卓 郷土のおみそ汁缶」は、缶を開けて常温のままでも食べることができ、災害時にも手軽に栄養が摂れる備蓄用の非常食として開発された、味噌と具材がたっぷり詰まった味噌汁の缶詰です。栄養価の高い日本の伝統的な調味料 味噌を使うことで、災害時に不足するミネラルが豊富に含まれています。賞味期限は3年、一杯160gの食べきりサイズで、野菜から出る出汁を活かしながら災害時用に濃いめの味付けをしているため、平時や賞味期限が迫ったときには、お米と一緒にお鍋に入れてリゾットにしたり、氷を入れて冷や汁にしたりと、とても美味しくいただけます。

「おみそ汁缶」をお椀に移したお味噌汁

「“郷土の”おみそ汁」の名の通り、各県の名産品を活かした味噌汁を商品化しており、第一弾として、長野県で愛されるサバとタケノコが入ったサバタケ汁を2021年1月に発売しました。その後も、愛媛県のじゃこ天を使用した「じゃこ天と大根のおみそ汁」や、兵庫県淡路島産の玉ねぎを使用した「玉ねぎのおみそ汁」、富山県の「ぶり大根のおみそ汁」など、ラインナップの拡充を続けており、47都道府県の郷土汁をおみそ汁缶として展開する予定です。パッケージはそれぞれの件の旗の配色をモチーフにするなど、細部にまでこだわりが詰まった「郷土のおみそ汁缶」。そんなおみそ汁缶の開発に至るきっかけは、どのようなものだったのでしょうか。

愛媛県「じゃこ天と大根のおみそ汁」

■ おみそ汁缶ができるまで

― 長野との出会い

弓田さんは、大学卒業後に就職した企業で事業経営を任されていた30歳のときに、幼い頃からの夢だった医師を目指すことを決意し、医学部の試験を受けるとともに、アジアではじめての子どものホスピスにボランティアスタッフとして関わりはじめました。その後、医学部の試験に苦戦するなかで、ホスピスのスタッフをしていて言われた「今から医者になるには10年はかかる。だけど、その10年の間にも目の前で苦しむ人がたくさんいる。もっと他に、できることがあるはずだよ」という言葉から、メスを持たなくてもできる医療へのかかわり方を模索しはじめました。予防医療や医療の仕組みをつくる立場への関心から、医療サポートやケアの現場との関わりを続けるなかで、1つのアプローチだけではどうしても良くならない患者が少なくないことから、様々な立場から医療に関わる人が、1つの症例に対してそれぞれの視点からの見方を共有する「統合医療」に可能性を感じ、統合医療に取り組む社団法人を設立。生活の基礎となる食事や睡眠、ストレスといった要因にアプローチをするために、東京で働く人々をターゲットとしたリトリート旅行を企画するなかで、長野県と出会いました。

― 味噌×非常食に至る

長野県を訪れ、地域と関わるなかで、長野がもつエネルギーに強い魅力を感じ、事業をするための場所ではなく、自分が暮らす場所として長野県に移住。信州の味噌で知られ、味噌の生産量が全国一位の長野県で、味噌の蔵元とつながり、味噌がもつ可能性や、味噌の消費量の減少、後継者不足による廃業といった蔵元が抱える課題を知りました。そんな矢先に、令和元年東日本台風で長野県を流れる千曲川が氾濫し、大きなニュースとなった新幹線の水没をはじめ、県内で多くの被害が発生。災害を身をもって体感するなかで、災害時の不安な心を温まる一杯のお味噌汁で少しでも和らげ、元気にすることができるのではないかいう想いから、長野の味噌を使った、備蓄ができる味噌汁の缶詰の開発に至りました。

■ おみそ汁缶のもうひとつの使命

お味噌汁缶には、非常食と同時に、もうひとつ役割があります。それは「日本の食文化を後世に継ぐ」こと。かつては家庭でも作られ、日本の食卓になくてはならなかった味噌ですが、食生活の多様化などを背景に消費量は10年で3割減少し、伝統的な味噌蔵も、後継者不足も相まって廃業が増加しています。一方で、世界に目を向けると、和食が世界遺産に登録されて以降、味噌が海外で注目を集めており、味噌ラーメンを筆頭に知名度が向上、現在では海外でフリーズドライの味噌汁の販売が成長しています。

手軽に美味しく食べられる おみそ汁缶

また、味噌の生産量が全国一位の長野県は、健康寿命全国一を掲げており、健康寿命が女性は2018年から2022年まで5年連続全国1位、男性も2018年から2021年まで4年連続全国1位と、健康寿命が長い県として知られています。海外では、日本以上に健康な食事への関心が高まっており、なかでも味噌は特に注目されている日本の食文化のため、弓田さんは、災害時の栄養確保はもちろん、日々の健康を支える食事としても、味噌は非常に重要であると考えています。

■ おみそ汁缶のこれから

現在4種類が販売されているおみそ汁缶は、すべて信州味噌をベースに、各地の食材と組み合わせて郷土汁として展開されています。異なる地域の品を掛け合わせて商品を作ることで、みんなが手を取り合い、讃え合って共に生きていく“持続可能な社会づくり”の重要なコンセプトを表しています。今後の展開にあたっては、他の味噌の活用も検討しているほか、展示会などを通じて各地の事業者と共同開発の機会も増え、さらに、海外の健康な食事への関心の高まりを背景に、様々な企業から注目を集めており、高い栄養価と健康を切り口とした海外への展開も視野に入れています。

また、全国で活用できる現在の備蓄用のおみそ汁缶の拡大を図ることに加えて、さらに味噌という食文化を盛り上げ、再び広く浸透させていくために、若い世代と連携し、食べたい、おしゃれ、かわいいと思ってもらえるような切り口を模索しているといいます。例えば、海外展開の先には、海外からの逆輸入といった手法も考えているそうです。

■ 「いつここ」を通じて目指す未来

弓田さんが解決したいと考えている一番の社会課題は「10代、20代、30代の若者の自殺」だと言います。現在、日本における10~39歳の死因で最も多いのが自殺であり、15~34歳の死因の1位が自殺となっているのはG7でも日本のみと、国際的に見ても深刻な状況です。(参考:厚生労働省 若年層をめぐる自殺の状況 https://www.mhlw.go.jp/content/r1h-2-3.pdf)

弓田さんは、子どもたちが自ら命を絶ってしまうことに対して、どうにかできないかと考えるなかで、子どもたちが何かに悩んだり、つらい思いをしたり、問題に直面したりしたときに、食卓を囲んで今日の出来事を会話する「食卓の温もり」が、ひとつの解決策であると考えています。自殺という課題に対して、その選択のずっと手前の、ささいな日常のなかにある「食」の分野に取り組むことで、自殺を減らすことに貢献しようとしているのです。これは必ずしも食卓という形にこだわるものではなく、地元を離れて暮らす若者のような人も含めて、元気であり続けるために、昔と比べて失われてきている「食卓の温もり」を通じて、本当に解決したい課題にアプローチしようとしています。

食事と教育のつながりに目を付け、自殺という課題に対して、その選択のずっと手前にある、ささいな日常のなかの「食」に取り組むアプローチは、まさに統合医療などに取り組んできた弓田さんならではの視点なのかもしれません。

■ おみそ汁缶を買う

― 日本の食卓 公式サイト(オンラインショップ)

― おみそ汁缶を買えるお店

● 長野県
 ・セブンイレブン17店舗
 ・ながの東急百貨店
 ・すや亀 本店、すや亀 善光寺店
 ・ローソン 長野駅前店
 ・ファミリーマート FC長野駅前店
 ・油や
 ・ながのキャンパル
 ・株式会社サンエー
 ・24koujiya
 ・淵之坊
 ・YUDANAKA BREWERY COMPLEX U 他
● 東京都
 ・日本百貨店しょくひんかん
 ・ローソン銀座四丁目昭和通り店、日本橋蠣殻町一丁目
 ・銀座NAGANO
 ・FOODLAB
● 埼玉県
 ・おふろcafe白寿の湯
● 兵庫県
 ・アウトドアショップテントス
● 愛媛県
 ・ABENTEUER

日本の食卓 HPより/一部整理、敬称略
※お買い求めの際は、予めお問い合わせの上お出かけください

(Writer:佐田美優、吉良萌)

■ ABOUT RECT

RECTは、2018年に設立し、東洋大学を拠点にSDGsとダイバーシティに取り組む学生団体TIPSが運営する、SDGs & Diversity WEB MAGAZINEです。


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