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EUで売れ残った服や靴が廃棄できなくなる!?〜EUの規制内容解説 & 日本にも及ぼす今後の影響とは〜

こんにちは!リコマース総合研究所(リコマース総研)、主席研究員のakaneです。
2023年12月5日、欧州議会とEU加盟国は、売れ残った服や靴などの衣類を破棄することを禁止する法案で大筋合意したという画期的なニュースが日本でも話題になりました。

欧州連合理事会のプレスリリース

この法案の解説と、今後日本にどのような影響がありそうかを予測していきたいと思います。


法案のサマリー

製品をより長持ちさせ、修理、アップグレード、リサイクルを容易にするための「デジタルプロダクトパスポート」

製品のエネルギーおよび資源効率だけでなく、耐久性、信頼性、再利用性、アップグレード可能性、修復可能性、リサイクル可能性、および保守のしやすさなどの情報をQRコードに記載し管理する「デジタルプロダクトパスポート」。製品の環境持続可能性に関する情報も提供することで、消費者や企業は製品を購入する際に公平な情報を得ることができ、また公共機関は製品のチェックとコントロールをより効果的に行うことができるようになります。

売れ残りの衣類や履物を破棄することの禁止

売れ残った商品を廃棄した事業者は、廃棄した製品の数量とその理由を毎年報告する義務が発生します。今後、正式な承認手続きに入り、2年後(中堅企業の場合は6年後)に施行予定。売れ残ったアパレル、衣料品付属品、履物の廃棄を特に禁止することで合意しました。

新規制の背景

2022年3月、欧州委員会は持続可能な製品のエコデザイン要件を設定する「エコデザイン規制」を制定しましたが、この規制はエネルギー関連製品のみを対象としていました。今回規制対象範囲をEU市場に供給されるあらゆる種類の商品へと拡大し、特に優先製品として鉄、鋼鉄、アルミニウム、繊維製品(特に衣類と履物)、家具、タイヤ、洗剤、塗料、潤滑剤、化学薬品が挙げられました。

Global Fashion Agendaの調査結果によると、世界では毎年9200万トンの衣類が廃棄されており、2030年には1億4800万トンに増えると予測されています。アパレル業界では大量に商品を生産することで原価を抑え、大量販売をすることが商習慣として当たり前でした。特に2000年代から低価格で大量生産・大量販売する「ファストファッション」の流行により、消費者は気軽に流行の服を買えるようになりましたが、一方で短期的な流行に合わせた服はそのトレンドの終わりとともに気軽に廃棄されるようになりました。このような大量生産・大量廃棄の商習慣を変えるべく、今回の新しい規制では、売れ残った衣料品の廃棄を禁止することで、生産者に対して必要以上に大量につくることを抑制することになります。また、「デジタルプロダクトパスポート」では、まだ使えるが不要になった服を修理・リサイクルなどを通じて永く活用することを奨励することになります。

この法案を提案した欧州議会のアレッサンドラ・モレッティ議員は、「私たちの地球、私たちの健康、経済に非常に有害な「採って、作って、処分する」というモデルを終わらせる時が来ています。これからの新しい製品は、すべての人に利益をもたらし、地球を尊重し、環境保護に配慮された製品になるでしょう。持続可能な製品が標準となることで、消費者が買い物する際に、エネルギーの節約や、修理、環境に良い選択を行うことができるようになります。売れ残った繊維製品や履物の廃棄を禁止することは、ファストファッションメーカーが商品を生産する方法の変化にも貢献するでしょう。」とコメントしています。

日本で取り組んでいること

日本でも2023年11月に開催された、第2回 産業構造審議会 産業技術環境分科会 資源循環経済小委員会の資料内に、「デジタルプロダクトパスポート」を含む情報連携の取り組みが挙げられています。また、委員の方々の多くも、その重要性を指摘しています。

欧州では、在庫の廃棄などを批判するようなNGO等が多くある一方、日本の環境NPO/NGOの会員数は欧米と比べて圧倒的に少なく(※)、また、消費者の循環消費に対する意識が欧州と比べてはそこまで高くないと言われていることもあり、EUのような規制という法整備が進みづらいことが予想されます。米国はイノベーション勝負、欧州は法整備勝負をしているという意見が上記の資料内にもありましたが、ある種、法制度で高いハードルを設けることによって、グローバル企業がそれに応じる必要が生じ、企業側はコストを考えると統一基準にしたいことから、EUの基準がグローバル標準となりやすい状況であるかもしれません。
※国立環境研究所「日本の環境NPO/NGOの活動と課題に関する アンケート調査報告書 (2021年4月) p.7より」
https://www.nies.go.jp/whatsnew/jqjm1000000x1vct-att/jqjm1000000x1xh3.pdf

今後日本で起きそうなこと

欧州に進出しているユニクロなどの大手アパレル企業が「デジタルプロダクトパスポート」を取り入れていく中で、日本から欧州に衣類を輸出する企業、現地で生産する企業なども対応をせざる負えなくなり、結果的に日本も「デジタルプロダクトパスポート」への対応を迫られると思います。

日本の企業や市場において、循環経済がより進み、かつ企業の成長力を阻害しないような“製品の見える化”が進むと、今は「メルカリ」で取引された商品を作り手や消費者がトラッキングすることは難しいですが、今後は作り手や消費者が何人に受け継がれたか、どのようなリペアが施されたのかなどの情報を得ることが可能になる未来が考えられます。その情報を元に、作り手はより循環する製品を研究・製造できるでしょうし、消費者も環境に良い商品やアップサイクルされた唯一無二の商品など、消費者一人ひとりにとって価値がある製品を選ぶことが可能になるでしょう。

▼主席研究員

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