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霊場から出勤するアラフォーOL日記

 あと5ヶ月。10月にはアラフォーからジャスフォー、ことジャストフォーティーに進化してしまう。私は焦っていた。不毛な愛人ライフに甘んじてたばかりに婚期を逃し気づけばこの年に。自業自得なのは百も承知だけどこのまま彼の生活費に頼り続けるともう一生独身決定だしどうしよう、と思っていたところ、平将門ファンでミュージシャン仲間のピアニスト、ハナリンから保険外交員の勧誘を受けた。フーテンの寅次郎よろしく計画性が病的に無いADHDの私はもちろん無保険であるし、色々な意味で人生で一番かけてこなかった「保険」業界に縁なんかあるわけがない。
 
「無理無理絶対。毎日働くのが無理!」と断ると「でも聞いて。私でも働けるのよ。ライブしながらでも音楽活動しながらでもこの仕事できるの。楽しいわよ!」と熱烈アピール。
 
それはたしかに魅力的だけどそもそも競争社会も資本主義も苦手な私が金融業界で通用するとは全く思えない。
 「やめとくー。ヨガの受付楽しいもん」「そうなのね、残念だわ。ところでそういえばハノンちゃん、今度平将門が建てた神社見にうちの近くに来ない?」と趣旨の異なるお誘いを受けた。
 
「それなら行く!」将門ファンの女子として即効快諾して行った平将門ツアーがその後の私の運命を変えることになるとは…。
 平将門公ゆかりの地を車で廻りながら「ここには現地で言い伝えられている七不思議があるのよ。住職は私の保険のお客さんなんだけど」と饒舌にオカルト情報を交えながら案内してくれるハナリン。ハナリンは将門公とその愛人の桔梗姫の鎮魂をしながら全国行脚しているピアニストで、山奥の寺に住んでいる。自称平将門公の末裔の元公安のジャーナリストの愛人である私は、何かと平将門公に縁があり、ハナリンも彼も私に洗脳の如く将門公の武勇伝を語り聞かせるため、気づけば筋金入りの将門公の大ファンになっていた。
 
 もはや時空を超えて将門公と結婚したいと夢想するほど重症で、本気で将門公の愛人に五次元嫉妬を感じていたりした。かたや冷静な自分がここまでこじれると婚期が遠のくばかりだと他人事のように心配していた。
 
 さて、話をハナリンの将門ツアーに戻すとその将門建立のお寺巡りの後に、山の中腹にあるピアノカフェでランチをすることになった。するとそこに保険会社の所長とマネージャーがいたのである。
 
 なぜか初対面でカフェでカレーを食べながら仕事の面接。「社会性無さそうなこのアラフォー女子が働けるのだろうか」と訝しげな表情の所長はさておき「ハノンさんと働けたら嬉しい!一から教えるから安心してきてね」と優しそうな笑顔のマネージャー。
 ピアノカフェで面接とは、なんてフランクな会社だろう…普通の女子なら帰るかもしれないが社会性の無い私は面白いと思った。

 「きっとこのお仕事も平将門公のご縁ね」ハナリンの一言で私の気持ちは変わった。将門公が応援してくれているなら働いてみよう、無理なら辞めればいいし。それに何より将門ゆかりの地で働くことにより将門パワーで自称将門公の末裔のジャーナリストの彼の気持ちが変わり、彼の子供が産めるかもしれない。いや本当は結婚がしたいんだけど、最悪彼の子供が産めればいいような気もする。それもだめなら平将門公の血統の誰かと、将門公の末裔が生き残るこの土地で出会って子孫を残したい。そのような限りなく不順ながらも切実な動機で保険外交員を始めることにした。

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