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映画『サバカン SABAKAN』感想

予告編
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昨日、ネット記事に載っていた ”サバ缶ショック” の文字。
なんじゃそりゃ? と思ったら、記録的な不漁で、一部の水産食品会社では出荷の一時停止を発表したそうです。

こりゃあ大変だ!

もしかすると僕のように、本作をきっかけに、久しぶりにサバ缶を食べたくなって購入した人も多いんじゃないだろうか笑


ということで、今日は映画『サバカン SABAKAN』の感想文ですー。


不思議


 「和製スタンド・バイ・ミー」なんて触れ込みもあった本作は、子供の頃の一夏の思い出を、大人になった主人公が回想するような語り口で描かれ、基本的には主人公の子供時代が物語の主軸になっています。

とはいえ、大人パートは添え物ではありません。大人になった主人公・久田孝明(草彅剛)の、仕事も家族の事も順調とは言い難い日々の様子が描かれる冒頭シーン。その後、進まないWord原稿が表示されたPC画面が映し出される。対照的に直後のカットでは、彼の部屋の壁に掛けられたカレンダーの日付部分は✖印だらけで、仕事やプライベートとは真逆に時間だけは止まることなく進んでいることが遠巻きに描かれているように見えます(子供パートで、タケちゃん(原田琥之佑)の貧乏を笑いものにしているクラスメイトたちの頭上に「やさしく」と書かれた標語が掛けられていたシーンがあったんだけど、それを考えると、このカレンダーでの表現は遠巻きな描写というより、どこか皮肉めいた遊び心のような描写だったのかも……?)。

そこから本作のタイトルにもなっているサバの缶詰が映し出され、過去パート(本編)へと切り替わるように長崎の景色を背景にしたタイトルバック。前触れもなく、ふと見やった視線の先にサバ缶があるのは、まるでそれと同様に前触れもなく何の気無しに過去の事を思い出してしまうような、ごく当たり前に起こり得る思考を想起させてくれる

暗めの部屋から綺麗な景色を写したドローン映像への変化も心地良かったし、カレンダーを使った細かな見せ方も冴える面白い始まり方だったと思います。



 その他にも面白い描写というか上手い見せ方は幾つもあったのですが、実を言うとそういった細々した技巧は本作にとっては重要ではないのかもしれません。子供の頃の何でもない記憶というか……何も得られなかった日常の中で得た色んなものが、”大人になった自分自身にどれくらい残っているのか”、なんてことを考えさせてくれる映画でした。

映画を観るのが好きになり、映画を観慣れてきてからは、一つ一つのシーンに何か意味を見出そうとしたり、頭でっかちになって作品を “理解しよう” というマインドになりがちな節が多分にあります……あくまで僕個人の話ですが。でももしかすると僕以外にもそういう方々は多いんじゃないかな。でも子供の頃の記憶なんて、前後のことすらはっきり覚えていないのに何故か覚えている ”どうでもいい一瞬” が鮮明に残っていたりするものだと思うんです。映画『6才のボクが、大人になるまで。』を観た時にも感じたような、「なんでこんなしょうもないこと今でもハッキリ覚えてんだろう」みたいな感覚を思い出させてくれる一瞬の無意味なカットに、不思議とノスタルジーを感じてしまう。


 ここで「不思議と」と付け足してしまうのは、本編の舞台となる長崎県も、それどころか昭和という時代すらも経験したことがない僕が、どこか懐かしさを覚えてしまったから。こんな不可思議な事態を見越して「和製スタンド ・バイ・ミー」と銘打たれていたのかな。



 社会的なことはほぼ皆無に等しく、身の回りの何の変哲も無い事柄・日常ばかりが描かれ、生涯忘れ得ない大冒険ながらも、形に残るようなものは何一つ得ていない……。子供の頃のそんな記憶を回顧する本作。そんな何も得られなかった旅で得たものが、大人になった今でもちゃんと残っていることを示すためにも、改めて本作における大人パートも必要だったのだと思います。小説家として、或いは父親としてなどなど。本編で得た成長が反映されていたように感じます。


 周りに流されがちだった少年時代の主人公(番家一路)が、ある時、タケちゃんの「決めろ!」という言葉を受け、自ら走り出すシーン。その直後に続く、追いかけてくる内田のジジイ(岩松了)を置き去りにするようなカットは、旅の出発の時に自転車を押してくれた父親(竹原ピストル)を映していたシーンの画角と酷似している

“走り出す” という同じ動きの中で異なるのは、自分自身の力で走り始めていたかどうか。自転車での出発シーンは、躍動感ある動きのおかげで「大冒険が始まる!」という子供ながらのドキドキやワクワクを浮き彫りにしてくれているような印象でしたが、この内田のジジイから逃げるシーンで同じような構図を反復することにより、主人公の変化が際立ってくる。反復と変化を上手く用いたシーンだったと思います。


 大人になった主人公にとって良き変化をもたらしてくれた回顧録を終え、ラストの美しい締め括り。メロディアスなBGMや感動的な本編等々、どこか青臭い魅力が詰まった素敵な映画でした。


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