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映画『ソン・ランの響き』感想

予告編
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 本文中に、他人様のコメントを拝借した件があるのですが、、、果たして一体どこで見聞きしたコメントだったのか、覚えていなくてですね……。なんせ観に行ったのは3年以上も前のことですし。

 公式ホームページ? 或いはネット記事? はたまた、新宿武蔵野館のトイレの壁の張り紙か?笑

 とまぁ場所や媒体は覚えていなくとも、心に残る素敵なコメントだったのは間違いありません。


タイムトラベル


 これが「どんな物語か?」と問われると、非常に難しい。が、それが本作最大の魅力で、観終わってからの余韻に浸るにはもってこいの一本。端的に言えば、〈出逢い〉の物語。キャッチコピーにも「ボーイ・ミーツ・ボーイ」と書いてあるくらいなので、人によっては「LGBTQがテーマなのかな?」と思うかもしれません。僕自身もそうでしたし。

 けど本作で描かれる繋がりは、そういった視点では語れない、もっと根源的な、人と人の出逢いを描いた物語……だと思う。こんなに歯切れが悪いのは久しぶりかもしれない笑。ごめんなさい。


 「(あの時)もし〇〇していれば」「もし~~しなかったなら」という架空の話は、自分が居る世界とは異なる別の平行世界を妄想すること。それは願望だったり疑問だったり、意味のない思い付きの無駄話かもしれない。たった一つの事象が異なれば、現在は大きく違っていたかもしれないし、本作のような結末にはならなかったかもしれない……。

 何故こんな話をしているかと言えば、劇中でタイムトラベルの話が出てきたから。無論、本作は決して『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のようなSF作品ではありません。あくまで雑談程度で話題に上がっていただけのこと。

(ちょっと脱線しますが、ベトナムのサイゴン(現:ホーチミン)を舞台にした物語で尚且つ、タイムトラベルの話題を持ち出してくる辺りは素敵ですよね。ラジオの放送、ブラウン管テレビ、一昔前のゲームハード等々、不思議とその場の匂いや空気感すら味わっているという勘違いをも誘発する、まるでタイムトラベルしたかのような感覚に、観客は陥ってしまうかもしれません。めちゃくちゃざっくりと搔い摘んだ要約ですが、「この映画にはウォン・カーウァイ作品と通じる点がある」という旨のコメントを溝口彰子さんがされていまして、それを目にした時に「うわぁ!まさにそういう感じ!言い得て妙とは正にこのこと!ステキっ!」と思わされました。印象的だったので、勝手にコメントを拝借。本題に戻ります。)

 そんな “もしも” の話は、ユン(リエン・ビン・ファット)とリン・フン(アイザック)の出逢いに何かしらを感じさせてくれる素敵なエッセンスだと思う。出自も立場もまるで違う二人がひょんなことから出逢い、友情にも似た感情で繋がっていくことは、偶然以上の何か——例えば運命——なのだ、と。


 ユンとリン・フンの関係は、まるでカイルオンとソン・ラン。カイルオンとはベトナムの伝統芸能のことで、ソン・ランとはそれにも用いられている民族楽器のことなんだそうです。カイルオンの始まりと終わりには必ずソン・ランが用いられ、劇中においても演奏者と役者にとって重要なリズムの基盤となる存在。そんなソン・ランは本作における象徴。「ソン・ラン」という言葉に隠されたもう一つの意味(公式サイトに載っています)を知ると、より一層この物語を深く味わえるというのもありますが、ソン・ランが果たしている役割にこそ意味があるんじゃないかな。

 カイルオンにおいて中枢を担うソン・ランの存在は、「ユンにとってのソン・ランはリン・フンであり、リン・フンにとってのそれもまたユンである」と教えてくれるよう。……随分と回りくどい説明になってしまった気がしますが、何を言いたいかというと、互いにとって互いは無くてはならない存在だということ。偶然出逢っただけの二人を見てそう思わせる本作の美しさは素晴らしい。


 そしてクライマックス。ソン・ランの音が二回鳴り響く。物語の中でも既に描かれていた通り、カイルオンの終演時にもソン・ランを二回鳴らすのですが、この音がカイルオンの物語とユンの人生が重なっていることを観客に知らしめてくれます。もしかしたらこんな結末にはならなかったかもしれない、でもその抗えない運命が、刹那的な二人の出逢いを浮き彫りにし、同時にある種のカタルシスとなって襲いかかってくる。なんとも印象深いラストシーン。これこそが「余韻に浸るにはもってこい」と冒頭で述べた理由。



 本作で初めてカイルオンとソン・ランの存在を知れたわけですが、演劇には娯楽以外の側面、例えばプロパガンダに利用されたりするのは言わずもがな、こうして知らなかった世界を教えてくれる、ある種のマスメディア的な役割——演劇を通して「遠く離れた異国の地ではこんな事が起きている、こんな世界が存在している」と大衆に情報を伝え届ける——を改めて思い起こす……。シェイクスピアの時代からも同様だった、とかなんとか、どこかで聞いたことがあるような無いような……、まぁあんまり詳しくないことを声高に語れる勇気は持ち合わせていないのでこれ以上は言及しません。


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