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映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』感想

予告編
 ↓

PG-12指定


忘れない


 鬼太郎のことはよく知らないので、そんな奴の感想だと思って頂けると幸いです。いや、『ゲゲゲの鬼太郎』のことくらいは流石に知っているし、他の有名どころのキャラクターも知ってはいたんですが、TVアニメシリーズを見続けていたわけではないし、本作の原作ストーリーが存在するのかもわかっていない。細かな設定とかも特に詳しくないってだけです。
 だから、てっきり “妖怪” の仲間だと思っていた鬼太郎が “幽霊族” っていう設定だったなんて思いも寄らず、それだけでも多少驚きでした。

 

 そんな基本設定みたいなあらすじも知らないくらいだったので、公開開始当初は観に行くつもりもなかったんです。けど、どうやら巷での評判がとても良かったみたいでして。そう言われちゃうと観に行きたくなってしまうもの。まだ上映していてホントに良かったです。「果たして一体どんな怪奇が待ち受けているのか」と、ワクワクしながら劇場へ。

 

 たとえば、道を歩いている、或いは建物、もしくは部屋の中に足を踏み入れるシーン等々、その場所の景色を切り取るようなカットの存在だけでも、本作をとても面白く感じさせてくれます。
 初めて訪れた場所を眺め見るかのように2~3カットだけ景色を映す中で、急に第三者の視点で主人公を覗き見るような場面が描かれたり、急に1カットだけ斜めに捉えたような構図が挟まれたり……。セリフによる説明ではなく、前後のシーンとは角度の異なる捉え方が織り交ぜられているだけで、不気味な世界観が醸成されていた印象です。

  特に、主人公・水木が時弥(村に住む一族の子供)から「よそ者が来たって(村人たちが言ってた)」と言われるシーン。そのセリフの直後に急に周囲の家屋にピントが合うだけで、「誰かに見られているんじゃないか」感がグンッと強くなる。
 先述した「第三者が覗き見るようなカット」が前出のシーンで挟まれていたのもあるし、何より屈託の無いというか、子供らしい何の悪意もない言い方とのギャップも相俟って、余計に不気味に感じます。


 とまぁ、そんな感じで「さぁこれからどんな怪奇が……」と、益々楽しみにしながら見入ってしまいましたが、本作で描かれていることは、想像していたものと大きく毛色が異なっていました。いや、もしかすると怪奇や妖怪云々といった、いわゆるホラー系作品よりもホラーな映画でした


 

 本作は、主人公・水木が会社からの密命で、日本社会を裏で牛耳る一族が住む「哭倉村」という村に訪れるところから始まる物語。そこで描かれる内容や、一族の人間らの様子などからありありと滲み出てくる、気持ちの悪い因習が蔓延る雰囲気は非常に不快。観ていて胸クソの悪くなる、エグみのある内容に反吐が出そうになるかもしれませんが、それらは残念ながら、現代社会にも未だに色濃く残っているものだとも気付いてしまう。

 

 外界と隔絶されたような秘境の村を舞台に、家父長制の強い一族を中心に描かれていますが、それらがまるで社会の縮図のようにも見えてくる。世の中の潮流は大きく変わってきてはいますが、(ネタバレになっちゃうのかな? 微妙なので気になる方はご注意ください→)未だに権力を笠に着たような形で性的に、或いは児童に対しての搾取や虐待というものがまかり通ってしまっている。特に本作の舞台、しかも昭和31年という時代設定もあり、逃げ場のない中で特定の人間のみが優位に立てる状況を良しとしてしまう構造が際立っていたように感じました。

 そんな中、偶然にも出会った水木とゲゲ郎(後の目玉のおやじ)の二人がどう動いていくのかというのは実際にご覧頂くとして。
 各シーンでも表現されていたというか、作品全体を通して読み取れることでもあったのですが、クライマックスで目玉のおやじが口にしたセリフ、そして終幕へ向けての展開の全てが、本作を象徴していたように思えます。

  変わったように見えて、実は不足だらけで未完成の社会。だからまだまだ変えていかなきゃならないし、そしてそのために何が必要なのかもしっかりと言葉にされていたクライマックス。暗い現実など見たくはない、でも目を瞑ったまま放棄してもいけない。「ただ覚えているだけ」では、魂の救済にはなり得ない。二度と繰り返してはならないというメッセージを、「忘れない」という言葉によって印象付けてくれる。

 この一連のシーンは『ゲゲゲの鬼太郎』が何世代(何シリーズ)にも亘って描かれ続けていること、延いては鬼太郎が戦い続けていることの理由付けにもなるシーンだと思えてくる。だからこそ終盤でのタイトルバックが活き、今述べた “理由”、及び『鬼太郎誕生』というタイトルの言葉がより印象的になっていたんじゃないかと思います。

 


 本作の制作過程を知らないので、偶然なのか、それとも製作途中で現実社会の問題を意識して急に舵を切ったのかはさておき。本作では、昨今、世間でも大きな問題となっている数々の件をも連想させられるよう。しかし決して、性的虐待や児童搾取のみを指しているわけではないと思います。

 水木自身の戦争体験(それこそ原作者である水木しげる先生の戦争体験も反映されていた?)の描写も含め、一部の権力者の身勝手や横暴よって生まれる不条理が、多くの人々を傷付けてきたこと、尊厳を踏みにじってきたこと、命を奪ってきたことを強く意識させられる。それは先述したように、過去だけの話ではなく、残念ながら現代社会にも色濃く残るもの。

 

 現実の事柄とのリンク、はたまた連想させ得る内容と、本作に込められたテーマ、そして『ゲゲゲの鬼太郎』の中でそれらを描くということの意味がしっかりと合わさっていたと思います。評判になるのも納得の一本でした。


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