見出し画像

映画『フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて』感想

予告編
 ↓


最上の歌を 最高の仲間たちと


 村の漁師たちによって代々歌い継がれてきた伝統的な漁歌がイギリス国内でヒットしたという実話を基にした本作は、村と市街地とで、流れるBGMなど背景の音楽のテイストが基本的に異なっています。物語の舞台となる漁師たちが暮らすコーンウォールでは、漁歌、あるいは漁歌を想起させるトラディショナルな、けれど決してクラシックのように敷居の高くない音楽が流れ、逆に市街地では、流行りのEDMのように縦ノリしたくなるポップミュージックが流れている。割と序盤のうちに村と市街地とのBGMの違いが描かれているから「これから彼らが、そして彼らのフィッシャーマンズ・ソングが街へ乗り込んでいくんだ!」と思えて凄く面白い。音楽自体の心地良さも相俟って、作品の掴みとしてもとても良い。

 音楽絡みの感想文になると毎回言い訳していますが笑、先程のような「クラシック=敷居が高い」という短絡的な記述からもお分かりになる通り、僕には音楽の素養が無い。ただ好きで聞き漁っているだけの素人ですが、それでも本作で奏でられるフィッシャーマンズ・ソングが素晴らしいものであるということはわかる。酒場で歌い出し、周りの客たちが引き寄せられ、次第に店全体を巻き込んで大合唱になっていくシーンは物凄く気持ちが良い。劇中の台詞を若干引用する形になりますが、本当に良いものには真に価値・魅力があると思わせられる。

 現代ポピュラー音楽では当たり前と言っても過言ではないエフェクトなどを、彼らフィッシャーマンズ・フレンズが用いることは全く無い。実際に日々命懸けで漁に出る男たちの歌声をただシンプルにメロディに乗せているからこそ心に届く。一方で、本作で漁夫を演じる俳優陣の歌声にそれを感じられたのですから、音楽の魅力+映画の魅力とも呼べる気がします。例えば邦画『WOOD JOB!~神去なあなあ村~』(感想文リンク)とかでも思いましたけど、たとえ演技と言えども俳優たち自身が実際に本物の場所に立ち、本物に触れ、実践することにより、高度な技術や膨大な費用を用いた壮大なセットやCGとはまた違った “贅沢な本物感” が生まれる。船に乗り海に出て、潮風に吹かれながら歌う姿は、見ているだけでも素敵。


 少し本線とはズレるかもしれませんけど、彼らの服装も本物らしくて良いんです。彼らが街へ繰り出す時に着ているPコート、それにハンチングやキャスケット姿は、元々そういうファッションが個人的に好きというのもあってか「ああ、やっぱり彼らが着ると違うな」なんて思ってしまうし、トラッドな英国ファッションとはまた違った良さが、登場人物たちの漁夫としての存在感を色濃くしてくれている気がします。

 そして、これからフィッシャーマンズ・フレンズが街へ乗り込むぞ、という雰囲気になって、彼らがPコートを着て現れたシーンがめちゃめちゃ面白い、というか大好き。揃いも揃ってサングラスをかけていて、心の中で「『レザボア・ドッグス』のオープニングかよ」とか思っていたら「タランティーノの映画に出るつもりか?」だなんて台詞が流れたもんだからさ笑。もぉ最高。ちらほら見受けられるこういったユーモアや、王道のロマンス、サクセスストーリー等、多くの人が楽しめるような要素が詰まっています。

 他にも、彼らの一人が歌い始め、チームとしての光明が見えた瞬間に夕陽を上手く利用していたり、登場人物たちを一つの画角に収めたり、或いは2つのカットに分けたりすることでそれぞれの関係性や距離感を表現するなど、細やかな部分からも作り手の手腕が垣間見える素敵な映画です。


 最後にもう一度だけ音楽の話に戻りますが、物語の中盤、主人公とヒロインとの会話の中に出てきた台詞が未だに忘れられません——「最近の人たちはアルバムの中から好きな曲だけダウンロードする」——。一枚のアルバムで一つの作品なのに、それをお構いなしに流行りの曲や知っている曲だけを聴いて満足している風潮を、皮肉なぞ織り交ぜずにストレートに口にしていたこのシーンは衝撃的でした(好きなアーティストは別にして、たまにそんなことをしてしまう節が思い当たったせいもあるけど笑)。まるで「今の音楽界に一石を投じてやるんだ」と言わんばかりに彼らの漁歌を売り込む主人公の姿勢とリンクさせた、本作の裏テーマというか、表には見せていない姿勢を台詞……だとしたら面白いなぁ、だなんて勘繰ってしまうくらいに好きな台詞でした。


#映画 #映画感想 #映画レビュー #映画感想文 #コンテンツ会議 #音楽 #フィッシャーマンズ・ソング

この記事が参加している募集

#コンテンツ会議

30,708件

#映画感想文

66,330件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?