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映画『まく子』感想

予告編
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 先週放送された『アメトーーク!』の読書芸人の回で知ったのですが、今月の19日に、西加奈子さんの初ノンフィクション『くもをさがす』が発売されたそうな。今週中に買いに行かなきゃね。

 というわけで今日は、西加奈子さん原作の小説を実写化した映画の感想文を投稿しますー。


入り口


 近場での上映館数はそれほど多くなかった(軽く探しただけですが、近場だとテアトル新宿だけでした)けど、原作の小説が面白かったので鑑賞。原作と同様に主人公の男の子目線で描かれ、かつて男の子だった大人ならばより一層に理解が深まるような作品だったと思います。そんな物語を女性が執筆していて、女性が監督しているというのもまた面白い事実な気がします。女性の感想も聞きたいものです。


 主題歌(高橋優『若気の至り』)の歌詞より——「偉い人が名前をつけていく どの気持ちも2、3文字にされる」——。

この時分の少年の感情とは多種多様。簡単に一つの言葉にはくくれやしない。けれど残念なことに、当人も含め多くの人が大人になると “思春期” だとか “性徴” だとか、名前の付いている言葉で感情を説明しようとしてしまう。「僕のこの気持ちは僕にしかわからない僕だけのもの」であるはずなのに。

自身の表面上の意識とは無関係に起こる、自分自身の身体や心の変化に戸惑う主人公・サトシ(山崎光)。そんな彼のような少年たちに必要なのはその感情の名前でも原因でもなく、もっと別のもの。そして何を隠そう、そんなモヤモヤを一番理解してくれていたのが、全っ然偉くもクソもないはずの、偉大な “父ちゃん”。


 何も言おうとしない息子。その前で何をするでもなくボーッとタバコをふかす父親。

「腹減ってんだろ」
「おにぎり作ってやるよ」

などと言って立ち上がり、ごはんを温め、水を用意し、突然パンッと手を叩いたと思ったら

「こうすると感覚が麻痺して、熱くても握れるんだよ」

と、おにぎりを握ってくれる……。


きっと多分、最善の対応ではないのかもしれないけど、強く詮索もせず、ただ傍に居てやるだけの父親。悩む息子の心境をどこまで理解しているのかわからない(多分よくわかっていない?笑)けど、説得や共感ではなく、シンプルに “受け入れてやる” その姿に、私はある種の理想的父親像を見たのです。この後の洗濯機の前でのくだらないシーン(笑)も含め、親父と息子との思い出とは、必ずしも劇的とは限らない。上記のようにくだらなかったり、しょーもなかったりする事柄の数々が、その人の心の中に曖昧模糊としながらも、確かな父親像を形成するんじゃないかな。そう思わせてくれる部分ほど、セリフなど説明の言葉に頼らずに役者の表情一つで描いているのも素敵なポイントです。そんな素敵な父ちゃんを演じた草彅剛さんの演技も見どころの一つ。今までに無いつよぽんが見られますよ。



 本作は、“変化を受け入れられないサトシ” と “変化を受け入れに来たコズエ(新音)” という、まるで真逆の2人が中心となっているから面白い。この先、否が応にも変わっていくばかりの人生の中で、今まさに大きな変化の1つとぶつかっている最中のサトシが、時には逃げたりしながらもそれと対峙し、周囲の人々との関わりの中で “受け入れる” ことの大切さを知っていく。

彼はそれを「信じる」と呼んでいた。そして物語の終盤では、以前の彼と同じように、“受け入れられない” 少女と出逢い、今度は逆に「信じる」と伝えていた。その後の彼らがどうなったかは描かれてはいないが、大切なのは以上のようなこと。人と人との繋がり、その入り口はまず “受け入れてみること” なのかもしれない。自分の物差しを押し付けることだけじゃないんだ。そう言われている気がする物語。まぁこれは原作の小説と共通の感想でもあるんですけど。


 文科省推薦?の少年向け・家庭向け映画だか何だからしい(ちゃんと覚えていなくてすみません)のですが、 原作に比べて少し表現が柔らかくな っていたり等々……。ちょっぴりむず痒い説明色がちらほら見えてしまったのは推薦作品とかそういう理由だったのかな? まぁ鶴岡監督の作品は『過ぐる日の山猫』しかチェックできていないので比較のしようが無いのですが。ごめんなさい(だってツタヤに置いてないんだもん!)。

けど、相変わらずの丁寧な描写とかが活きていたのは凄く良かったです。コズエの服装だとか、直前のセリフを暗喩するようなカットだとか。この方の映す画はとてもシンプルなのに「何かあるかも」と思ってしまう。そしてその意図が(僕の思い過ごしなだけの可能性は非常に高いけど)決してくどくない。『過ぐる日の山猫』も本作も背景が綺麗な作品だったからかな?今後の作品も非常に楽しみです。


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