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映画『461個のおべんとう』感想

予告編
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 なんか近頃、大変なことになっているみたいですが、何かと話題に上がっていたからってわけではなくて、過去の感想文のデータを整理している過程で、たまたま今日投稿するってだけです。

……こんな前置きが余計なのかもしれませんけど。悪しからず。


 渡辺俊美さんのエッセイを井ノ原快彦さん主演で実写化した映画です。よければどうぞー。



反復


 冒頭、そしてラストにも語られている通り、本作は、高校三年間のお弁当についての話でしかない。たったそれだけのことに対して “どんなドラマが描かれているか” というよりは、一組の親子の様子を、“お弁当” というフィルターを通して眺めていくような物語。

 多感な年頃の息子・虹輝(道枝駿佑)と、あまり干渉しない父親・一樹(井ノ原快彦)の絶妙な距離感が良い。特にお説教をしたり、威厳がある風でもないから、一見、子供に対して甘い性格のように思えなくもない一樹ですけど、よく見ると性格の割には虹輝に対してベタベタしていない。親との間に距離ができ始める思春期や反抗期のせいもあるのかな? 生活に関する最低限のコミュニケーション、そして毎日のお弁当……。仕事の都合であまり干渉できないという状況ではあるけど、逆にそれがあまり干渉し合わない男親子らしいと思うし、何より、それでもなんだかんだで息子の小さな変化や機微に気付き、想いを汲み取ってやれる感じが “良い父ちゃん” っぽくて好きです。イノッチ特有の優しい雰囲気のおかげもあるのかもね。



 同じ動作とかセリフ、あとは構図とか音楽とか……。設定や状況の違いがありながらも同じ演出を反復させることで、時間経過や状況の変化による差異を明確にしたり、或いはその反復した行為が持つ意味を浮き彫りにさせたりする演出は色んな作品で観たことがあるものですが、それはやり過ぎるとクドく感じてしまうもの。反復に限らず、「そのシーンに意味を持たせたい」「ここは見せ場だ」などの理由で同一の手法を連発させると、一本調子になってしまうもの。

しかし、この “三年間の毎日のお弁当” という大義名分のおかげで、本作では同じ行為をクドく感じさせない。←いやまぁ確かに、当たり前のことを大仰に述べている感は否めませんけど、この免罪符(?笑)のおかげで、お弁当を作る、渡す、受け取るといった行為の度に、観客は日々の変化に無意識に気付けていけるのだと思うんです。

「昨日は嫌なことがあった、けどまた学校が始まる」とか
「気になる人が出来た。今日も会えるのか」とか。

或いは父親の目線で「今日のお弁当は自信作だ。きっと気に入るぞ~」とか
「あれ、なんか機嫌悪いのかな」とか……。

日々の中での小さな変化、或いは一カ月とか一年といった時間経過の中での変化を気付かせてくれる。だからこそ、変化を色濃くしたり説明チックにせずに済むんじゃないかな。


 そんな “反復” がいっぱいだった本作が、最期の最後は小さな変化、でも親子にとっては大きな変化でラストシーンを締め括ってくれたのは素敵だったと思います。序盤、自宅前の坂道のシーン。受験に向かう虹輝に声はかけるものの、車に乗って、とっとと自分の仕事へ向かう一樹。けれどラストシーンでは、乗っていた自転車からわざわざ降りて、息子の隣に並び歩き、家路に着く……。

 本当にたったこれだけの違いですけど、先述のお弁当の反復・変化と同様、二人の変化(もしかして成長?)を教えてくれたラストシーンでした。


 あと周囲の目線の使い方も面白かったと思います。序盤は、一つ年下のクラスメイトの存在や、受験失敗のプレッシャー等々、周囲の目線を気にしていた虹輝が、ある時から周囲の目線を気にしなく……というか周りが見えなくなってくる。お店の中で怒り出したり、周りの学生にはお構いなしに親友に悪態をついてしまったり、色んなしがらみで心がパンク寸前な様子が上手く描かれていた印象。



 高校生活最後のお弁当を食べるクライマックスで、高校三年分のお弁当の写真がスクリーンいっぱいに並べて映し出されていたのですが、なんか一瞬「ん?」と思っちゃったんですよね、正直……。映画っぽくない、っていうと語弊があるけど、何て言えば良いのかな。なんかWEB広告のPR動画とか、イメージ映像みたいというか。

 でも考えてみると多分あれは、三年間、子供のためにお弁当を作り続け、その写真をツイッターにアップし続けていた父親、もとい原作者へのオマージュというかリスペクトなのかもしれません。スクリーンいっぱいに映るお弁当の写真の数々は、SNSに毎日投稿されるお弁当の写真を連想させ、延いてはそれが、毎日お弁当を作ってくれている人の存在までをもイメージさせる。

弁当を作る側の人も作って貰う側の人も、観た人のほとんどが感じるでしょうけど、三年間あのクオリティのお弁当を作り続けるって凄まじいことだと思う。“3年間の言葉にできない 「ありがとう」” というキャッチコピーは、この物語に込められたテーマであると同時に、この映画の作り手の想いであり、そしてこの写真によって三年分の「ありがとう」を代弁しようとしたんじゃないかな。


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