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映画『スウィング・キッズ』感想

予告編
 ↓

PG-12指定


 いわゆる「ネタバレ」ってどこからなのか……。ネタバレのタグを付けるにしても、明確に言葉にしてるわけじゃないし、とはいえ、文脈から物語の終着点は想像が付いてしまうかもしれないし……うーん。

 ま、考えても仕方ないので、「ネタバレ」タグを付けとこう。


夢の時間


 神への祈りだとか、音楽だとか。踊りの起源は世界各地それぞれ違うでしょうけど、本作におけるそれは間違いなく、感情の発露。踊り出さずにはいられない衝動に駆られる主人公の姿によって、観ているこちらまで体が疼き出すよう。


 本作は朝鮮戦争下、収容所のイメージメイキングのために捕虜たちで結成されたタップダンスチームの物語。予告編を見ればわかりますが、本作は戦争を背景にしているとは思えない程ポップな筆致で描かれていきます。戦争という過酷な現実とはあまりにも対照的なダンスというジャンルを用いているからなのか、セリフやカメラワーク等、何から何までが観ているだけで楽しめる。ある時はコメディ映画のようで、またある時はミュージカル映画のよう。「楽しい」「面白い」が幾つも訪れる映画。

 だからこそ、そこに悲しく残酷な現実が歩み寄ってくる展開・演出によってそれらが浮き彫りになり、一層輝き、美しく映え、まるで夢でも見ていたかのように儚く過ぎ去っていく。

 この先の感想は未見の人にとっては雑情報(≒ネタバレ)にしかなり得ないことをご容赦ください。


 映像の煌びやかさやユーモアのおかげで背景にある現実を時折忘れてしまいがちですが、特定の者が他者の生殺与奪を握っている収容所という環境は、とても残酷であると同時に、悔しいかな、本作にとって良いエッセンスにもなっています。ダンスという、言語の壁を越えた繋がりによって、見た目も中身もてんでバラバラの者たちが一つになっていく様は、まるで青春映画のように見え、それ故に……ああ。また同じことを言いたくなってしまう。浮き彫りにさせるんです。ギャップがより明白に、色濃く錯覚させるんです。

 作品全体を通して視覚的にも精神的にも “明暗” が良い働きをしていた印象です。夜、暗い収容所の一角で米軍たちがパーティーをしてはしゃいでいる。捕虜たちにとってそれは夢のような空間だったのかもしれないと思わせる程に一際明るいその空間では、まるで踊っているかのような軽快なカメラワークと主人公の突拍子も無い無法者感が窺えます。そんな一連のシーンは主人公自身のダンスの才能、延いては本作において “ダンス” が如何に特別であるかを観客に知らしめてくれる。これのおかげでその後に描かれるダンスシーンの度に、踊っている彼らは、踊っているその時だけは特別な空間・時間——夢の時間——を体感しているのだと認識できる。熱中する感覚が彼らを周囲の世界から遮断し、当事者にしか分かり得ない興奮・昂揚感を生み出すこの感じは、高速で視点を往復するようなこれ見よがしのカメラワークも相俟って『セッション』でのクライマックスシーンを彷彿とさせるほど。


 物語内の時系列が前後してしまいますが、終盤のスウィング・キッズお披露目シーンなんて、以上に述べたことのオンパレード。暗い観客席、暗い謀略が行き交うバックステージに囲まれた明るいステージは、まさに夢の空間。そこで踊っている彼らだけがダンスを楽しみ、感覚を共有している。

 しかし、この物語の舞台は朝鮮戦争下の収容所。主人公の中で次第に大きくなっていくダンスの存在は、「アメリカの踊りだ」「そんなものは裏切り行為だ」という酷く悲しい理屈に封殺されていく。抑え切れないタップダンスへの渇望を如実に表す中盤でのダンスシーン——全てのしがらみを忘れ去ってひたすらにダンスに興じている、と妄想することしかできないシーン——は、まるで『戦場のピアニスト』で主人公がピアノを弾く妄想に浸っている瞬間のように切なく苦しい。人の夢の美しさを存分に際立たせた本作だからこそ、人の夢の儚さまでが強く印象に残るんじゃないかな。

 彼らの情熱・感情の強さとのギャップのあまりに生まれる虚無感は、観る人によっては耐え難いかもしれません。そして本作は、そんな残酷な手法でもってラストシーンを美しく締め括りやがる。なんと卑怯なことでしょうか。ラストシーンはまさに、本作の全てが詰まった夢のような時間。言葉は要らない、BGMも必要ない。シューズを履いて、感情の赴くままに、ただ純粋にそれだけで良かった。戦争さえなければ……と、叶わなかった過去に縛られた辛く苦しい彼の心を浄化してくれるかのような救いのシーン。

 この 瞬間が “夢” だとはわかっている、けど、この夢の時間に救われた観客もきっと多かったんじゃないでしょうか。


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