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映画『ペンギン・ハイウェイ』感想

予告編
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 本日4月25日は、”世界ペンギンデー”。
どうやら南極にあるアメリカのマクマード基地で、毎年のように4月25日(或いはその前後日)にアデリーペンギンが姿を見せるらしく、研究者たちがそれを祝ったことが始まりなんだとか。

 ということで、本日は『ペンギン・ハイウェイ』の感想文ですー。

ちなみにですが、本作に出てくるペンギンも、アデリーペンギンがモデルみたいです。


「ぐんない」


 夏休み真っ只中(2018/8/17)に公開のアニメ映画ということで、ついつい「子供向けなのかな?」なんて思うっちゃうかもですが、物語を楽しむ以上に内包されているテーマの魅力にどっぷり浸かれるような作品でした。どちらかと言うと作品のイメージと時期を合わせた公開だったのかな?


 今まで短編作品ばかりだったというのもあるかもしれないけど、言葉だけでは簡単には語り尽くせないような物語だからこそ、キャラクターの個性や背景の美しさ、ドラマ性が際立っていたのが石田祐康監督作品(或いはスタジオコロリド)の魅力だと思っています。本作なんか特に、
「夏」、「友情」、「初恋」、「好奇心」などなど……なんていうか、世間的なパブリックイメージがただでさえ綺麗なものをより一層美化、且つ優しく描き、反対に自然の猛威などおどろおどろしいものや怖いものはまろやかに視覚化してくれているんです。

クライマックスの水溜まりが点々としている様子(ペンギンたちが〈海〉の欠片を割った跡)も、自然の驚異やその残滓だから、本来は怖いもののはずなのに、晴れ切った空や反射する日差しが輝く水溜まりのおかげで非常に美しく見えてきます。



 そういえば、元々、石田祐康作品と言えば(と僕が個人的に勝手に思っている)みたいな疾走感溢れる映像、或いは重力とか風を感じているかのように錯覚してしまうような映像を、劇場の大きなスクリーンで拝めると期待して観に行ったのですが、そういったシーンは思っていたほど多くなかったんです(あるにはあったのですが)。

どちらかというと、長編になったことでドラマ部分がより掘り下げられていた印象でした。視覚的な疾走感ではなく内面的疾走感(←こんな日本語無いか笑)って言うのかな……。うーむ、上手く言えないけど「青春を駆け抜けた」みたいな言い方の方がイメージしやすいのかな。感情が頭の中・心の中を走り回っている、駆け巡っている……そんな感覚

“一見大人しいけど内側にはアツい感情がある” という、まるで主人公・アオヤマ君(北香那)の性格とリンクさせたような世界観があります。あれだけ自然への畏怖というものを描き、それを意識させるような描写を繰り返していた本作なのに、終盤にはそんなこと気に留める素振りなぞ一切見せることなく「お姉さんのためなら」と言わんばかりにアオヤマ君が全力になる姿なんか、もぉ最高です。



 同スタジオ・同監督作の『陽なたのアオシグレ』もそうだったけど、今回もまた主題歌がマジで素敵。自分は音楽の素養なぞ皆無なので、コードだとか何だとか専門的なことはチンプンカンプンだけど言わせてください笑。

本作の主題歌は宇多田ヒカルさんの『Good Night』。(歌詞と物語のリンク感は当然のこととして、)ラストサビの直前にエレキギターか何だかわからんけども 「キュイーン」みたいな音が入っているんですが、それが作品内での「エウレカ」を表現しているかのように思えてならなかったんです。

正確に言えば明確にセリフになっていたわけじゃないんだけど、「口には出してないけど今絶対、アオヤマ君の頭の中「エウレカ!」ってなってる!」と思えるシーンがあって……もうこの辺の話になると、本作を観ていないとわからないけど、ご容赦ください。

そして突入するラストサビは、それまでのサビ以上に疾走感溢れる曲調と透き通るような高音で、まるで濁りのない水の中を流れるように泳ぐような、はたまた水中を飛んでいるようなイメージが湧いてきます——そう、まるでペンギンのように——。

そんな『Good night』が収録されているアルバムのタイトルが『初恋』というのも完璧です。



 個人的に石田作品の大好きなところの一つが、「ここからがファンタジーです」みたいな境界線が明瞭ではないところ。かと言って物語のド頭からファンタジックってわけでもない(もちろん、そういうファンタジーも大好きですけど)。本作では森が境界線のようにも見えたけど、ペンギンたちも〈海〉も、森の内外を問わず活動していたわけで、なんていうか、現実と空想を混在させていることこそが面白さになっていた気がします。



 ”アニメ映画” というと、ジブリ、ディズニーとか、あと近年だとイルミネーションが強い印象。でも、コロリドはそんな中に割って入れると思えるくらい、僕は本作が大好きです。まだ歴史が浅いから今後については期待して待つことしかできないけどさ。

 年齢問わず楽しめる魅力も併せ持っているし、何より、ファンタジーの境界線が明瞭ではない、というアニメだからこそできる表現・描写にもとても素敵。
そもそもアニメなんて “実写ではない” という時点で現実とは程遠い。しかしそのアニメという表現手法でもって現実を丁寧に描くからこそ、”現実” ~ ”ファンタジー” のグラデーションが滑らかになっていくんじゃないかな?。特に本作に限っては、”現実” ~ ”ファンタジー” 間の行ったり来たりの往復が激しいにも関わらずだ。そのギャップの間に、「袋の中に宇宙は入るか」といった哲学チックな話題から、探検や分析など、考えさせられてしまうような過程もあるし、”次第に真相に近付いていく” という物語的な面白さもあるからどんどんと見入ってしまう。頭の中の空想を視覚化するのも素敵だけど、リアルな部分の描写にも、アニメだからこその魅力がいっぱい詰まっていると心底思う。形こそ違えど、こんなにシビれたのは個人的には今敏作品以来かも。

なんか(かっこつけて)小難しいことばかり述べちゃったけど、シンプルに面白かったというのが一番です。原作の小説もめちゃめちゃ良かったです。あー、コロリドの次回作が待ち遠しい。


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