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映画『SHADOW/影武者』感想

予告編
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PG-12指定


表裏一体


 中国史、中国文化に関しては無学な自分を恥じるばかりです(かと言ってこれから勉学に励む腹づもりも無いのですけれど←)。なので、それらに詳しい方からすれば此度の感想は的外れの素っ頓狂意見の雨あられになること受け合いですが、何卒ご容赦を。

 ただ、本作は歴史モノというよりはフィクション時代劇アクションくらいの気構えで観た方が面白いと思います。兎にも角にも、鉄刃の雨傘こそ最大の魅力。「なんじゃそりゃ?」と思われるかもしれませんけど許して……。初めて見るから名前すらよくわからないんです。写真を載せても良かったんですけど、実際に映像で傘を観た方が楽しめると思えましたので。斯く言う自分も、偶然流れた予告編に映った傘を目にして「ナニコレ?!」と驚愕したからこそ観たくなったんです。ウルトラマンレオとか『キングスマン』ぐらいかな?

 ……そうです、ここで述べる傘とはつまり “武器”。このアイデアを映像にしただけで本作の勝ち。そのフォルムから一見、使い勝手が悪そうに見えてしまうかもしれませんが、その実、超万能。近接戦での攻撃・防御は当然として、飛び道具にもなる。そして飛び道具に対しての防御にも使える。さらに戦闘それ自体だけに有効なものではなく移動にも使えることにも驚かされる。そして華奢に見えても、そのしなやかさ故に敵の剛力すら柳の如く “いなす” 様は、中二心を存分に刺激してくれます。

 しかしまぁ、それだけを楽しみにしていただけに、映画が始まってもなかなか出て来てくれないもんだから、鑑賞中にほんのちょっとしたフラストレーションが溜まっていたことはこの場で白状しておきます。でもその分、登場した瞬間の「キター!」という心中の咆哮はかなりの大きさになっていた気もしますが。


 水墨画のように映る荘厳な自然背景や、武侠に生きる戦士たちの男気・信念を描いている本作は、メチャクチャ気取っている映画です。無論、良い意味で。先述の内容にも繋がりますが、だからこそ中二心が奮える。自ら信ずることのために命を懸け、強国に風穴を開けんとする展開。奇襲、それに重ねて鉄刃の雨傘……。国としても個としても力の差を存分に観客に伝えていた中で、この二つの要素が本作のような物語に特有の “ある期待” をさせてくれる。「強い者が勝つ」より、逆境を、その下馬評をひっくり返してこその中二感。

 本作は斬新な映像や武器のために気付かないこともありますが、不遜な強者を心清き弱者や真っ当な者たちが倒すという最っ高の番狂わせへの期待を促す王道アクション。「驚かせてやれ!」「見せつけてやれ!」と、どこか応援したくなるように、痛みに耐える姿や技の鍛錬など努力する過程をも描いてくれています。そうやって積み重ねた「王道だ」という僕の認識が顛倒する結末にも驚きました。


 本作は “影” の物語ではなく、“光と影” の物語。或いは表と裏、もしくは光と闇、陰と陽……etc. 何でもいい。今思えば全てが詰まっていました。これ見よがしの太陰太極図、人物以外がモノクロ……。正直、ただの雰囲気作りと侮っていたのかもしれません。事の是非問わず、王に逆らえば地位を剥奪される。その者、皆が着物を脱がされ白装束になっていく……。その時の白色は正の象徴だとばかり思っていた、いや実際にそういう側面がほとんどだったと思いますけど、主人公・都督(ダン・チャオ)に限っては違ったのかもしれません。あれは、影から本物になるぞという気概、予兆。


 本物の都督とシャオアイ(スン・リー)それぞれが壁(扉)の隙間から外を覗くシーンはとても印象的。都督が目にしたのは男女の目合い。それはある種、生をイメージさせるもの。

 一方で彼女が覗いているその時、壁の手前は彼女以外には屍のみで生命は無く、境目の向こう側には死線を潜り抜け遂に真実へと成り代わった “影だった” 男……。

 あの壁はもしかしたら生死の境目だったのかもしれません。彼女が覗き、慄く姿で冒頭とラストを挟み、冒頭ではわからなかったそのシーンの意味・意図が、物語を経てから見ることで掴めてくる……。


 流麗なアクション、裏切りに裏切りが重なり、真実を惑わす世界観、そして意外な後味を刻むラストカットまで、至る所が気取っている本作は、美しさと静けさが入り混じっている一本です。


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