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映画『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』感想

予告編
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PG-12指定


青春の教科書


 冒頭、瞑想しているんだか何だか、ピンと張りつめた空気が醸し出されている中、急に聞こえてくる「チーン」という間抜けな音。この音一つだけで映画の世界観が一気にコメディっぽくなったように感じられる。予告編を観ていたから大体のあらすじや雰囲気は知っていたものの、「堅苦しく観ないでね」と言って貰えているような気分になれます。



 本作はこれ見よがしなスローモーションや、女子同士だからこそ明けっ広げに包み隠さず交わされる下ネタが散見されるので、まぁコメディっちゃコメディなんですけど、個人的には「 コメディ ≦ 青春 」って感じかな? どちらかと言うと青春映画としての魅力の方が強かった印象の映画でした。

 内容は副題通りで、勉学にばかり傾倒してきた真面目女子高生の二人が、卒業を目前に、まるで学生時代の楽しみを取り返すかのごとく、はしゃごうとする物語なんですけど、この経緯が面白い。いわゆる大学デビューというのは、「大学に入ったら楽しめるんだ」という心の支えでもって勉強を頑張ってきた者たちの言葉だと思うんです。「本当は遊びたい」「でも今頑張らなきゃ良い大学に入れない」「それまでは我慢だ」とかね。

 しかし本作の主人公モリー(ビーニー・フェルドスタイン)とエイミー(ケイトリン・デバー)に突き付けられたのは、“特に勉強している印象も無く遊び惚けてばかりだった奴らが、自分と同ランク(或いはそれ以上)の大学に合格していた” という事実。これはしんどい笑。まぁモリーはともかく、「私は他の人と違って良い大学に入れる」という不遜な自信を持つエイミーについては特に同情はできなかったんですけどね笑。

 そしてその事実に不満噴出、果ては失った青春を取り返そうとする二人の悪戦苦闘っぷりを通じて、青春時代の心の成長を垣間見れるのが本作の魅力の一つ。



 傷付くことはつらい。けれど若者の心の成長にとってその傷はとても大切。ちょっとだけネタバレをすると、モリーとエイミーは、それぞれ憎からず想う人がいた。しかし残念ながらその恋は報われず、しかも知りたくなかった形でその事実に直面してしまう。その時の二人の落ち込み具合と、その場で揉め出す二人のシーンは素晴らしい。勉学に励み委員長なども務め、卒業のその日まで体裁を作り上げてきたエイミーと、同じく勉強に勤しみ、信仰の熱心な親の目も気にしてきたモリー……。そんな二人が卒業前夜のパーティーという場の空気も読まず、周囲の視線も何のその、感情をぶちまけ合うのだ。

 欠点を言うのも、言われるのも非常につらい。この二人の口喧嘩と、それをスマホで撮る野次馬までをも一気に映し続けたこのシーンはとても印象的。欠点の一つも言えなきゃ友達じゃない、だからこそ目を逸らすなと言われているようにすら感じられる。

 道徳や人生観を語るなんておこがましいですけど、こういう経験を踏んでいなきゃロクな人付き合いは出来やしないんじゃないかな? 恋愛に関してもそう。失恋は確かにつらいけど、若い頃に恋愛に関して失敗・後悔を経験して免疫を付けておくべき。もし大人になってから初めての失恋なんてしたらアンタ……、マジで耐えられないと思いますよ笑。


 もちろんこれらが全てじゃないですけど、先述の “青春時代の成長” ってのは、こういうものの積み重ねによるところが多分にある気がします。「こうありたい」が「こうでなきゃ」という強迫観念になり、自分自身の本音にも気付けなかったり、自分のものさしだけの勝手なイメージによる決めつけが、偏見やマウントを取ろうとする行為に派生してしまったり……。

 失敗は人生のどこかで一度は必要な苦みだと、エイミーたちに身をもって教えてもらったような気分です。くだらないことも多いけど、青春の教科書として本作はかなり優良なものなんじゃないかな。



 ラストの演出も良かった。みんなの顔に水風船をぶつけていくエンドクレジット。ぶつかった衝撃で破裂する水風船と、アップで映されるそれぞれの笑顔は、まさしく青春のようなハジけるような瑞々しさがあるし、大団円のラストの余韻を潰さない明るさがあります。

 その時に流れるポラロイドカメラの写真もイイ! そりゃ今どきの青春で言えばデジタルなんでしょうけど、敢えてポラロイドにして “いつかは色褪せる”、“その一枚しかない” という事実を印象付けることによって、同じ写真でも “想い出感” が非常に強まる。最期の最後まで明るく、良い気分で帰れる映画でした。


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