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映画『サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~』感想

予告編
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過去の感想文を投稿する記事【33】


昨日投稿した、映画『コーダ あいのうた』感想文の中で、本作について少し触れていたので、本日は映画『サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~』の感想文を投稿しますー。

配信開始がいつ頃だったかは覚えていませんが、コロナ禍の事情で、配信開始からかなり遅れての劇場公開となった作品です。
そんな当時(’21年10月頃)の感想文ですが、お読みいただけたら嬉しいです。

声≠音


 アカデミー賞®で話題となったものの、コロナウイルス感染拡大を受け、日本では劇場公開をせずにアマゾンプライムビデオでの配信のみとなった本作。すっげー楽しみにしてい たのに……。しかしながら配信で観てもその良さに変わりはない。ヘッドホン必須というか、音響賞を獲得したことも納得の見応え、もとい聴き応え。とは言え、まぁなんだかんだ結局、「映画館で観たかったなぁ」と思ってしまったわけで笑。ホント、わがままですみません。

だからこそ、ネット記事で劇場公開の報を目にした時は、めっちゃんこ嬉しかった。左右それぞれから独立したノイズ音が流れる等々、音が聞こえるというよりは ”頭の中でノイズが鳴り響いているような不思議な感覚を味わう” という意味では、自宅でヘッドホンで視聴するのも面白かったけど、あの不思議な音響体験を身体全体で味わうことを考えると、やはり劇場で観たいと思ってしまう。劇場のスピーカーで体感すると音量の振り幅が大きく、だからこそ “あのラストシーン” も、また格別なものに感じられます。



 ”ノイズ” っていう形容が正しいか否かは自信が無いんだけど、なんか上手く言えなくてさ。それらしい用語でもあるのかな? 音が聞こえなくなる感覚を表現したあの効果音が素晴らしい。

劇中、あまりにも突然、何の変哲も予兆も無く失聴する主人公・ルーベン(リズ・アーメッド)。その瞬間が劇的でないからこそ、聞こえなくなるという状況が孕む “日常の当たり前を失う” という事の重大さを印象付けてくれる。その後に描かれる時間経過や移動を描くだけのシーンも、その難聴の効果音が流れるだけで、彼の精神的な不安や焦燥みたいなものまでをも想像させられます。



 〈耳が聞こえない〉という事実が、ルーベン自身の内面にも掛かっているように見えるのも面白かったです。「話し合おう」と言いながらも他人の意見を受け入れられないのが、もはや ”相手の声が聞こえない” という理由だけではないことがよくわかる。精神的にもルーベンは、文字通り、他人の意見に “耳を傾けられない”。

「冷静になれ」と言っている彼自身が一番冷静でないことを、観ている者全員が理解できるほどの動揺・困惑ぶりだった。



 難聴の効果音以外にも本作のミソの一つだと思うのが、手話のシーン。ちゃんと手話の意味がわかるように字幕が表示されるものの、時折、表示されないまま話が展開していく。これはルーベンが手話を理解できずに話についていけていないことを表す描写。先述の難聴の効果音も含め、音が聞こえないという描写が、客観的事実以上にルーベンの主観を表現しているようで面白い。音も聞こえず、手話もわからず、周囲とコミュニケーションが取れない彼の姿は、まるで世界や社会からはぐれてしまったかのようにさえ映る。あたかも、それまでの自分自身はもう居ない(≒死んでしまった)と錯覚しているよう。

その後、次第に手話もできるようになり、施設の人たちとも仲良くなっていくルーベンの姿も描かれるものの、 不意に流れる難聴の効果音のせいで、直前までの楽しそうなシーンと視覚的には近似していながらも、やはり彼が孤独感や不安感を抱えていることがわかる。



 少しだけ話はズレるかもしれませんが、劇中、失聴したルーベンのサポートをしてくれたジョーが口にしていたように、耳が聞こえないことは障がいでもハンディキャップでもないのかもしれないけれど、つい「まるで世界や社会からはぐれてしまったかのよう」と先述したのは、現実社会がそういった人達に対して不親切であると無意識のうちに感じているからかもしれません。僕自身、そんな風潮に加担してしまっていないかと不安になってくる。


※以下、若干のネタバレ注意です


 『聞こえるということ』という副題は、原題が持つ言葉の意味を深読みさせるための誘い水みたいなものなのかな?『SOUND OF METAL』——金属の音――。音を失ったルーベンが、なりふり構わず “聞こえるということ” に縋り続けた結果、機械が生み出す疑似的な音を現実として受け入れることになる……そんな展開を形容しただけとは、とてもじゃないが思えない。ただ鳴り響くだけの金属の音は、あくまでも音でしかなく、それは金属そのもののように、あまりにも無機質なもの。暖かみなど無く、感情など伴っていない。

ルーベンは失聴してからずっと “音” を求めていた。それは、失ったものが ”音だけ” だと思っていたから。音を失って以降の彼は、”愛する人の声” という音が聞こえなくなり、それによってその人の気持ちすらもわからなくなっていたように思えます。最期の最後になって、金属の音を手に入れた後、ようやくそのことに気付いたのか……そんなことを想像させてくれるラストシーンを迎えます。

鑑賞後の余韻という視点で語るならば、今年観に行った作品の中でも断トツかと。いやぁ本当に映画館で観られて良かった。


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