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映画『モスル~あるSWAT部隊の戦い~』感想

予告編
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 「劇場で観られて良かった」みたいなことを述べておりますが、あくまで公開当時、2年程前にTOHOシネマズ シャンテで観た際の感想文です。

 ……なので、今はもう劇場公開していません。すみません。


“アメリカ映画”


 いつも同じことを述べてばかりだと信用されない……そんなことわかっちゃいるのですが、こういう作品こそ劇場で観るべきだと思います。

 常に死と隣り合わせの状況で、全編に亘って心を休めるような余裕がほとんど無い本作は、そのリアルさも含めて緊張感が凄まじい。ついつい映画館での鑑賞を推奨したくなってしまうのは、集中して観られる環境で鑑賞した方が良いと思えたから。自宅や出先などのちょっとした合間に配信で観るのも悪くないですけど、あまりのリアルさに、人によっては途中で耐えられなくなって観るのをやめてしまうかもしれません。音響がどうとか大画面がどうとか、そんなこと以上に、劇場で観られて良かった。



 開始早々、いきなり銃撃戦が始まります。それもかなりの修羅場。弾切れとなり、もう目と鼻の先までIS(イスラム過激派組織)の戦闘員が迫っている。そこをSWAT部隊に助けてもらったことから物語が始まるのですが、どうも様子がおかしい。その場にいた主人公(?)の新人警官カー ワ(アダム・ベッサ)は、身内をISに殺されているという理由だけでそのSWAT部隊に加入することになり、特に説明も無いまま “任務” に就くことになる。隊員たちは殺したISの戦闘員の所持品を漁り、銃弾やタバコなど使える物を片っ端から取り上げていく……。

 観客はカーワと同様に、詳細を明かされぬまま物語を追うことになるのですが、隊員たちそれぞれの紹介みたいなものすら無く、ちょっとした会話の中から何となくでしか人物を把握できません。こういった若干の不親切な描かれ方も、映画館など集中できる環境での鑑賞をオススメする理由の一つです。この展開の早さは冒頭のシーンから、カーワが任務に参加するまでの物語の展開のテンポが良くなること以上に、いつ、誰が、どんな状況で命を落とすかが全く読めなくなる緊張感が生まれるという意味があるんじゃないかな。加えて、「悠長に語っている場合じゃない」と言わんばかりの空気感をも醸し出していたと思います。



 そしてこの任務の描かれ方がとにかく凄い。いや勿論、現実を目の当たりにしたことなんて無いので、僕の言葉に説得力なんて無いんでしょうけど、ド頭の空撮シーンで映されたモスルの街並みの凄惨な姿だけでも度肝を抜かれたっていうのに、度々描かれる戦闘シーンがマジでリアル過ぎる。一つ一つの銃撃戦を終えても緊張の糸を緩める暇は無い。ようやく訪れた小休憩すら、突然の事態によって惨状へと変貌する。しかし、逐一ドラマチックに描かれることはなく、「90秒経った(=休憩は終わりだ)」と言って任務を再開する。

 実は各所で、あまりにも不穏な描写が出て来る本作。例えば、「ただのガキだ」と思っていた子供の足元には何やら怪しげなコードが延びていて、彼らがそこを通り過ぎた途端、その子供はどこかへ走り去る……。
 他にも、建物内を警戒しながら進む彼らを定点で映し、彼らが通り過ぎた後も数秒だけそのままの画が保持され、よく見ると怪しげな覗き穴のようなものが目に入る……。

 などなど、不安感や緊張感を増長させるギミックがそこら中にあるのに、そんなこれ見よがしなもの “以外” を理由にして命を落とすことが多いというのも見どころ。味方の誤射、敵の不意打ち、予兆の無い罠など、あまりにもあっけなく消えていく命にもリアルさを感じます



 途中、「死臭がひどい」のセリフと共にハエの羽音がうっすらと聞こえてくる。以後のシーンでも、この羽音が聞こえてくれば死体を映さずに死体だと認識できるようになる。リアルでありながらも映倫の指定が掛かっていないのは、こういう工夫のおかげなのかもしれません。しかもこの「死んでいる」と思い込ませる羽音は、「実は息が残っていた」みたいなシーンになった際には、直前まで羽音を流していたとしても、息をし出した途端に羽音が小さくなっていきます。その他にも、BGMの音量の大小が、不安感の強弱だけでなく、近くの人(敵)の気配の強弱とも呼応しているような使われ方をしていたのも面白い。細かいところまで見逃せません。



 最後になってようやく明かされる任務の正体。彼らが大義だとか責任だとかではなく、心から求めていたものの為に戦っていたのだと理解できるシーン。けれど、そこには残酷な現実も同時に存在するし、単なる大団円では終わらない着地が示されていて、あまりにも多くの人々から大切なものが奪われたのだと改めて痛感させられる。

 今思えば、作中、何度も〈家族〉を思わすシーンがあった。親を失った子供を助けるために危険地帯で立ち 止まったり、孤児を養ってくれる家族を探したり。中には、子供を撃ち殺された母親を見つめるカーワと、まるで見つめ返しているかのような母親の描写もあった。それこそ冒頭で、身内を殺されているかどうかを入隊の基準にしていたのも納得です。


 途中、はっきりとアメリカの行為を否定するようなセリフも出てくる。そもそもセリフでの説明が多くない本作なのにも関わらず。しかも本作は、ルッソ兄弟がプロデューサーを務める、アメリカ制作の映画。そんな映画だからこそ、その言葉には意味があるんじゃないかな。マジで見応え抜群の一本でした。


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